第2話店員

竹内はレジで緊張した。

自分でビックリするくらい、店員の顔をマジマジと見ていた。

ネームプレートには、『新田』と書いてあった。

大学生だろうか?

「お待たせしました。レジ袋はどうなさいますか?」

竹内はこの好青年に声を掛けられて、

「え、えーっと、エコバッグありますから」

と、答えてバッグの中から小さく折り畳んでいたエコバッグを取り出した。

お会計を済ませて、コンビニを出た。

私のタイプは、サモ・ハン・キンポーだけど、あの店員は誰に似てるんだろ?

本郷猛?いやいやいや、藤岡弘、はタイプではないが、小さな頃の兄が好きだった戦隊モノのレッドの顔に似ている。

でも、私には男は必要無い。

男性と手を繋ぐ事も無かったし、もちろんキス何て、破廉恥な事はしたことが無い。

でも、同期の内田友美が少し羨ましい。

内田の彼氏は、鉄工所で働き夜はフットサルで汗を流すスポーツマン。

あのカッコいい男性は、コンビニ店員をする学生だろう。

例え、付き合っても定職ではない男性を果たして面倒見る事が出来るだろうか?

竹内は帰宅して、ポカリスエットを飲みながら、アイスを食べた。

そして、シャワーを浴びた。

この日は、飲み会帰りだと言うのに中々寝付けなかった。

杉岡課長が言ってたな。

恋愛すると、周りが見えなくなるって。

でも、これって恋愛なのだろうか?

たまたま、近所のコンビニにカッコいいお兄さんが働いていただけのこと。

いつもは、オーナーのオジサンか外国人が夜の勤務だったのに、彼は突然現れた。


翌朝、寝不足で目覚めた。

鏡に映る自分の顔を見て、

「酷い顔」

と、漏らした。まぶたが浮腫んでいた。昨夜どうやら、飲み過ぎたようだった。

あのメンバーで飲みに行くと、いつも飲み過ぎる。

その頃になると、昨夜のコンビニ店員の事は忘れていた。

満員電車に乗り、会社に出勤する。

大学を卒業してから、毎朝社会人の洗礼を受けている。

その日は、2時間残業した。課長が近付いてきて、竹内の残業時間が労基に引っかかる程になっていると言われ、残りの仕事は課長が引き継いでくれた。

そして、今月は後10日あるが残業はしてはいけないと言われ、この日は19時には退社した。

竹内は基本的に自炊している。今日の夜は残業して、夕飯を作るのが面倒だったのでコンビニへ向かった。

ペットボトルのお茶と、明太子パスタを買い物かごに入れて、レジに並んだ。

思い出した。

カッコいいお兄さんがレジに立っている。次は私の番。

「お待ちのお客様どうぞ~」

と、隣のレジにオーナーのオジサンが立ち、竹内は渋々、オジサンに買い物かごを渡した。ネームプレートには堀口と印字されていて、オーナーとあった。

そうだ、あのお兄さんのネームプレートはアルバイトと印字されているのか?それを知りたくなった。

会計を済ませて、他の客の対応をしているお兄さんのネームプレートをさり気なくチェックして、店外へ歩いた。

ネームプレートには、『社員』と、印字されていた。

このコンビニの給料はいくらなのか?

付き合ったら、彼はお金を出すのであろうか?

将棋が好きだろうか?

竹内は色んな事を妄想したが、声をかける勇気も大胆さも無い、この女性に彼氏なんて出来っこない。

それは、自他ともに同じ意見だ。

お兄さんは、身長が180センチはあるのではないか?と、思う程の高さで、黒髪だった。

他のコンビニ店員は金髪や青とか奇抜な髪色だったが、社員はきっと黒髪と決まっているんだろう。

それに、こんなカッコいいお兄さんに彼女がいないハズが無い。

竹内の恋心は、心の中で燃え上り、そして儚く散るのである。

ただ、一度でいいから買い物以外の話しをしてみたい。

そう、思っていた。

そうこうしていると、あっという間に春から夏になった。

そして、いつものメンバーでビアガーデンに行った。

そこで、初めて会社の人間にコンビニ店員の新田の話しをした。

周りの反応は意外なものであった。

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