第四章 ~『ミリアへの罰』~
ロックバーン伯爵家の令嬢ミリアがアルフレッドを刺した事件は、使用人たちに広まり、憲兵へと通報された。
回復魔術で治せたとはいえ、公爵に怪我をさせた罪は重い。屋敷を訪れた憲兵たちに、犯人のミリアは引き渡された。
「では領主様、我らはこれで」
「いくぞ」
縄で両手を縛られたミリアは憲兵たちに連行されようとしていた。だが彼女は顔面を蒼白させたまま、その場を動こうとしない。
「君の妹に罰を与える。すまない」
「いえ、当然のことですから」
もしミリアを無罪放免とした場合、改めてエリスの命を狙う危険性があるため、アルフレッドは心を鬼にして、処罰を下すつもりだった。
「アルフレッド様……助けてくださいまし……もうお姉様を殺そうとなんてしませんから……」
「悪いが信じられない」
「本当ですわ! 私は反省しましたの!」
縋るような態度にアルフレッドの心が揺らぐ。赤の他人ならともかく、ミリアはエリスの妹だ。大切な想い人の家族だからこそ非情になりきれない部分があった。
「……幸いにも怪我をしたのは私だけだ。減刑を求めてもいい」
「本当ですの!」
「本来なら無期の懲役でもおかしくはないが、三年の禁固刑で許してやろう」
「三年……っ……」
第三者の視点からだと温情ある刑だ。だが当事者のミリアは優しさを汲み取れなかった。絶望で喉を震わせ、歪な笑みさえ浮かべる。
「三年の間、舞踏会には……」
「牢屋にいては参加できないな」
「紅茶や菓子は……」
「パンとスープが日に三度支給される。だが嗜好品は対象外だ」
「――ッ……い、いやああああああっ」
暗い未来を想像し、ミリアは叫び声をあげる。
「嘘ですわ、嘘ですわ、嘘ですわ!」
絶望が現実を否定しようと言葉を紡ぐ。だが言葉で拒絶できるほど、リアルは軽くない。それをミリアも理解していたのだろう。八つ当たり気味に鋭い視線をエリスに向ける。
「私はお姉様を許しませんわ! 地獄に堕ちるようにと、牢屋の中で祈り続けてやりますの!」
呪詛を撒き散らすミリアに、さすがのエリスも同情してしまう。
「アルフレッド様、どうにか温情を与えてもらえませんか?」
「しかし……」
「あれでも妹なのです。お願いします」
エリスが頭を下げると、ミリアの呪詛も止まる。アルフレッドの裁定を待ち、場の空気が静まり返った。
「結論から言おう。君の安全のためにも三年の罰は減らせない」
「アルフレッド様……」
「ただし三年の謹慎処分で許してもいい。牢屋での禁錮ではなく、邸宅での軟禁だ。自由はないし、監視もつけるが、菓子と紅茶を用意させるし、貴族の令嬢に相応しい生活を用意してやろう」
これ以上ない条件だった。ミリアは憲兵を振りほどくと、アルフレッドの足元に跪く。
「ありがとうございますわ、アルフレッド様!」
「ただし、エリスが回復魔術を使えることは秘密だからな」
「もちろん分かっておりますわ!」
「それと、礼を伝えるのは私ではない。エリスから頼まれなければ、君には牢屋での禁錮を命じていたからな」
「…………ッ」
見下していた姉に礼を伝えることに抵抗があるのか、表情に葛藤が生まれるが、救われた恩義の方が遥かに大きいと感じたのか、エリスの方を向いて、頭を地面に擦り付ける。
「お姉様、助けてくれて感謝しますわ……それと、婚約者を奪ったこと、改めて謝罪いたします」
心からの謝罪だと感じ取れた。そのためエリスはミリアなりの誠意を受け入れる。
(いつか仲の良い姉妹になれるといいですね)
三年間、短いようで長い時間だ。牢屋での禁錮は逃れられたものの、軟禁生活も派手好きな彼女にとってはツライ時間となる。
きっと反省してくれるはずだ。そう信じて、アルフレッドの温情に感謝するのだった。
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