幕間 ~『崩れた計画 ★ルイン視点』~
『ルイン視点』
ロックバーン伯爵家の執務室。そこには領主であるルインの姿があった。椅子に背を預けながら、手元の書類を睨みつけている。
「ありえない……」
書類はオルレアン公爵領に関する報告書だ。影として働く者たちから集めた情報に目を通し、信じられないと書類の内容に疑念を抱くも、複数の部下から同じ報告がなされているため信じざるを得ない。
「失礼します」
「入れ」
ノックを鳴らして入室してきたのはケビンだ。彼の額には汗が浮かんでおり、慌てて駆けつけてきたのだと察せられた。
「話は使用人からお聞きしました。アルフレッド公爵が呪いから回復したというのは本当ですか?」
「まだ完治はしていない。だがエリスと出かけられる程度には回復しているそうだ」
「エリスと……」
ケビンのこめかみに青筋が立つ。いつも冷静な彼らしくない反応だが、ルインは納得した素振りをみせる。
「アルフレッド公爵がもし呪いから回復すれば我らの計画が崩れるからな。想定外の事態に怒るのも無理はない」
「私は……いえ、それよりもどのようにして治したのでしょうか?」
「考えられるのは薬だ。毒の魔術が克服されたように、呪いの魔術を治す薬を生み出したのかもしれない」
「その口ぶりだと可能性は低いと?」
「ああ。黒魔術師に知り合いがいてな。そいつから予防薬を作ることはできても、治療薬を精製することはできないと聞いている」
「仮に予防薬を手に入れたとしても、既に呪いに侵されていたアルフレッド公爵が回復した理由には繋がりませんからね」
「そのとおりだ」
出力の上昇を防ぐことはできるが、回復するためには、予防手段とセットで回復手段も必要なはずなのだ。
「ではなぜアルフレッド公爵が回復しているのですか⁉」
「薬でないならば、残る手は一つ。回復魔術しか考えられない」
「伝説の聖女様の力ですか⁉」
「ああ。そして我らは使い手を知っている」
「エリスですね……ただ魔力がゼロのはずですよ」
「力に目覚めたとしたら?」
「……辻褄が合いますね」
聖女は魔力に目覚めるのが遅かったという伝承が残っており、エリスの状況と一致している。
また父親であるルインも魔力に目覚めるのが遅かった。十五歳までに目覚めるのが常識とされていたため、エリスの魔力の覚醒については半ば諦めていたが、父に似て、時期が遅れていたのだとしたら納得できた。
「ただアルフレッド公爵はマスクで顔を隠していたそうだ。なら完治はしていないはず……エリスが回復魔術を完璧に使いこなせていないのかもしれない」
「どちらにしても魔力の覚醒の真偽を把握すべきですね」
「もしエリスが回復魔術を使えるなら、今後の計画は大きく変化するからな」
回復魔術の練度は日を追うごとに上昇していくだろう。呪いを予防されているため、症状がこれ以上悪化しないなら、いつかは完治へと至るはずだ。
「予防薬の効果は絶対なのですか?」
「至近距離で出力を上げれば効果はある。だが、それは呪いの犯人であると自白しているに等しい。最低でも無期限の投獄、最悪の場合、死罪も避けられないだろう」
公爵の殺害は重罪だ。仮に王族が犯人でも、数十年は投獄される。下位の貴族ならばより重い罪は確実であり、それは失敗を意味した。
「ただ今までの話はただの仮定だ。本当にエリスが回復魔術を扱えるようになったかは定かではないからな。確認のために人を派遣する必要がある……責任ある大役だ。他の者には任せられない」
「僕に任せてください!」
「ロックバーン伯爵領のためだ。頼んだぞ」
ケビンの肩をガッシリと掴んで、ルインは信頼を伝える。その期待を込めた眼差しを正面から受け止めた彼は、まっすぐな瞳で返すのだった。
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