幕間 ~『夢の世界での願い ★ルイン視点』~
『ルイン視点』
ケビンが執務室を去った後、ルインは部屋の隅に設置された仮眠用のベッドで横になる。目を瞑り、暗くなった視界で、思いを馳せる。
(まさかエリスが聖女と同じ力を使いこなす日が来るとはな)
回復魔術は世界で一人しか生まれないユニークスキルだ。教会で神託を受けた時は驚かされたが、結局、魔力に目覚めずに失望していた。
だがもし使えるなら、回復魔術の有用性は世界でも群を抜く。病や怪我で命を落とす者たちにとって、癒やしの輝きは救いとなるからだ。
(魔術の才能は亡き妻に似たのかもしれないな……)
エリスの外見は母親に似ているが、稀有な魔術の才能も色濃く継いでいたのだと改めて理解する。
(だがあの天才でも呪いには勝てなかった)
全身を蝕む呪いを受けて、妻は病室で静かに息を引き取った。ルインはあらゆる手を打ち、救おうと努力したにも関わらずだ。
財力と権力を駆使して、黒魔術師の居場所も探り当てた。脅迫し、呪いを解かせることにも成功した。だが衰弱した体はもう手遅れだった。
『あなたと結婚できて良かった……』
妻を見送った最後の日、看病をしていたルインに残してくれた言葉だ。長い闘病生活を支えていく中で苦労もたくさんあったが、その一言だけで、ルインはすべてに報われた気がした。
『娘たちを王国一の幸せ者にしてくださいね』
そしてもう一つ。妻は遺言を残した。その言葉はルインの人生を大きく左右した。権力や金に興味のなかった彼だが、二人の娘を幸せにするために、欲を解き放つことに決めたのだ。
(私にはエリスとミリアを幸せにする義務がある)
幸せの形は人それぞれだ。だがルインは遺言を果たすために自分なりに幸福を定義した。
それは金と権力だ。娘たちに王国一の資産と権威を残してやるのが、親としての務めだと考えたのだ。
(そのためには伯爵程度では足りない)
権力はピラミット構造だ。公爵と王族が上に君臨している以上、理不尽に晒されることは避けられない。それでは王国一の幸せ者には程遠い。
(もっと権力が……もっと金が必要だ……)
エリスとミリア。二人が幸せになるには、ロックバーン伯爵家の繁栄が必要だ。そのためにケビンを婿養子として迎え入れ、エリスをオルレアン公爵領に嫁がせた。
すべてが上手く進んでいたはずだった。だが想定外の事態が起きてしまう。それこそがエリスの回復魔術だった。
(エリスは私に似て苦境に立たされれば伸びるタイプだとは思っていたが、まさかこれほどとはな……)
エリスを冷遇してきたのも愛のムチだった。不遇な環境を変えるために成長できると期待したからこそ冷たくしたのだ。
(タイミングは最悪だがな)
アルフレッドが呪いで亡くなってから回復魔術を使えるようになるのが理想だった。
伝説の聖女と同じ力だ。欲する者は多い。王族だけではなく、他国の重鎮も縁談を求めてくるだろう。離婚歴があっても、結婚相手には困らないはずだ。
(ミリアの方もケビンがいれば安心だ)
ミリアは心が弱かった。厳しくすれば折れることは容易に想像がついたので、なるべく甘やかしてきた。
ルインの亡き後、ミリアが一人で生きていけるか心配は拭えない。だがケビンは優秀だ。彼が夫なら頼りながら上手く生きていけるだろう。
(あと少しだ……もう少しで、二人を王国一の幸せ者にできる……)
亡き妻との約束を叶えるため、ルインの計画は止まらない。夢の中で妻に会えるようにと願いながら、眠りの世界へと落ちていくのだった。
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