幕間 ~『隠された計画 ★ケビン視点』~



『ケビン視点』


 ロックバーン伯爵家の屋敷で、ミリアの泣き声を聞いていた人物は他にもいた。彼女の夫のケビンである。


 彼は執務椅子に背中を預けながら、まるで道化を馬鹿にするような笑い声を漏らしていた。


「本当に最低の女だ。君もそう思うだろ?」


 この部屋にケビン以外の姿はない。彼が語りかけた相手は土魔術で作られたエリスの人形だ。


 瓜二つの土人形を愛でながら、光悦の笑みを漏らす。婚約を破棄した女性を模した人形に向ける態度ではなかった。


「あぁ、君と寄りを戻せる日が来るのが楽しみだよ」


 ケビンの婚約破棄はとある計画に従ったもので、エリス本人にその内容は明かされていない。


 成功すれば、ケビンは公爵領と伯爵領の両方を支配できる。そうなれば、王国でも随一の権力者だ。


 一度は婚約破棄した関係だが、その罪を上回るほどの権威があれば、エリスは傅くはずだと信じていた。


「もし計画に穴があるとすれば、僕がミリアとの結婚生活に耐えられなくなる場合だけだろうね」


 ケビンは初めて出会ったときからミリアを嫌っていた。


 だが計画のため、彼は理想の恋人を演じ続けた。ミリアの我儘を受け入れ、嘘の笑みをたたえて、偽りの愛を囁いた。


 ミリアはケビンの演技を見抜けなかった。ついには「真実の愛に目覚めた」と口走り始める始末だ。


「僕がミリアなんかに惚れるはずないのにね」


 結婚を果たした今となっては、もう取り繕う必要もない。計画が成功すれば、ミリアは御役御免だ。最終的には離婚して、ミリアを屋敷から追放するつもりだった。


「でもルイン伯爵には知られないようにしないとね」


 オルレアン公爵領を乗っ取る計画は、ルインと共に立案したが、最終的にミリアを捨てるつもりだとは知らせていない。


 ルインはエリスよりミリアを可愛がっていた。あんな馬鹿な女のどこがいいのかと疑問に感じるものの、親子の愛に理屈はないのかもしれない。


「でもルイン伯爵は長生きできないだろうし、僕の天下はすぐにやってくる。領主となった僕がエリスと再婚を果たし、ミリアは……どこかの貴族の金持ちにでも嫁がせればいい。顔はいいんだ。すぐに縁談は決まるだろう」


 自分勝手な妄想を頭の中に広げながら、ケビンは歪な笑みを浮かべる。ミリア、ルインにケビンを加えた三名は、各々の自己中心的な考えに取り憑かれていたのだった。


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