第2話 NPC発見

 人型アイコンを意識すると、ステータスが視界に。



  大月 透  18♂

  役職 なし

  レベル 1


  HP 121/121

  MP 196/196

  筋力 15

  体力 16

  敏捷 15

  器用 17

  知力 11

  魔耐 8

  魅力 12

  幸運 20


  称号 なし



 予想よりいろいろ高い。訓練の成果が出ているようで満足。魅力と幸運は謎。

 ついでに役職も謎。


 ステータス欄は本の見開きのようになっており、右側にはスキルが出ている。



  スキル

  気配遮断・認識阻害・魔力操作・

  筋力強化・槍術・短弓術


  固有スキル

  特殊魔力感知



 スキルもいま得たわけではない。見られるようになったという認識だ。

 学んだけれどここに出ていないスキルもある。レベルを上げる前から持っているスキルは特に適性が高いとか。


 幼少期から無意識に使っているスキルは止められないという。実際、俺にはどうしてもコントロールできない魔力がある。


 固有スキルはない人のほうが多い。けれど一緒に訓練した仲間内では、俺ともうひとりはあるだろうと言われていた。


 意識すると説明がでた。

 特殊魔力感知〈特異な魔力、変質した魔力を含むすべての魔力を感知するパッシブスキル〉


 いまのところ活かし方が不明。魔力感知は誰でもできる。

 完全に予想外のスキルだ。てっきり「影が薄い」みたいな固有スキルかと。


 槍は5歳から昨日まで無料で訓練を受けていた。そういう世代なのだ。小学4年で選択方式になり、薙刀含む長柄武器全般、中学で短弓を選択した。



 やけにうろうろするインタビュアーとカメラを避け、奥へ向かう。


 歩きながらインベントリをチェック。



 ・HPポーション(小)  3

 ・MPポーション(小)  3

 ・帰還宝珠  1



 こちらも説明が出る。帰還宝珠は1度だけホームに戻れる消耗品だ。


 このほか右上に3000ゴールドとある。ダンジョン内で使える通貨。ちょっと儲けた気分。 



 自衛隊員の脇を通り、広間から通路へ。

 槍を振り回しても問題ない広さ。天井全体が淡く光っている。

 マップは歩いたところだけが表示されていく。


 まわりには誰もいない。5層まではチュートリアルと呼ばれ、一般人はスキップするのがあたりまえになっている。



 魔物はどこだ。


 十字路に差し掛かったところで右の通路からペタペタと聞こえてきた。


 カメ?

 牙があるウミガメっぽい魔物。動画で見た覚えはない。初心者向け動画もだいたい5層。


 近づいてじっくり見ても、気にせずペタペタ進む。俺が気づかれていないだけでコイツは人を襲う害獣だ。


 借り物の槍を構え、踏み込んで目に突き刺す。

 太い悲鳴が上がる。声というより空気が抜ける音のよう。


 あっさりと魔物は消えた。

 同時に軽い効果音、キュピンみたいな音。視界には「レベルアップ」の文字と、右下にドロップログ。


 初討伐終了だ。スッキリ。手に感触は残っているが気にならない。

 良かった。多少は忌避感のようなものを感じるかと思っていた。


 インベントリを見ると魔石が入っている。魔石は売れる。所持金3006ゴールド。

 魔物を倒すだけで稼げる。


 ……これは楽しい。いまの俺は目がキラキラしているに違いない。実際は無表情なんだろうけど。


 マップ埋めもしたいので、マップ画面の右下へ走る。完全に迷路だ。


 魔物みっけ。

 意識して筋力強化を使い、薙刀のように扱って斬ってみる。実戦で訓練だ。


 夢中になった。



 マップは右半分が埋まっているが、まだ2層への転移魔法陣が見つからない。

 今日中に5層へ行きたい。ネットで調べるか迷う。


 ここは行き止まりかな? 

 そう思いながら進むと、変なものが見えてきた。


 畳。四畳半の部屋だ。長寿アニメに出てきそうな雰囲気。突き当たりの角にくっつくように存在している。

 神殿の通路みたいなダンジョンに和室があるのだ。

 凄まじい違和感。


 しかも、さらなる違和感がいる。

 金髪碧眼の美女。和室にいるだけでも違和感があるのに、スウェット姿で転がったまま湯呑みの茶をすすっている。

 そばには雑誌とオカキ山盛りの皿。


 湯呑みを置いたら声をかけよう。くつろいでいるところ悪いが、さすがにスルーは無理だ。気になりすぎる。


「ごめんください」


 バッと音がするほどの勢いでこちらを向いて固まる美女。口があいたままだ。気づいてもらえたらしい。


「……」

「……お邪魔しても?」


 反応がない。


「……はああああ!? なっ、にっ、人間!!」


 叫んだ。この美女、人間ではないのか。


「……女神様ですか?」

「そんなわけがあるまい! 恐れ多いわ! ま、待て。待て待て、なぜ靴を脱ぐ!」


 良かった。けど、恐れ多いということは実在はするのか。すごい情報源を見つけたかもしれない。


「和室なので」

「そうではない! 入るな! わ、妾が出るから、待たれよ!」


 脱いだスニーカーを履きなおす。

 女性を困らせてはならない。


 次の瞬間。


『称号を獲得しました』


 称号は後で見る。いまはそれどころではない。


 目の前に神々しい女神が立っている。唐突にパッと出てきたのだ。

 ものすごく魔力が多い。細身で背は俺より低いのに圧力の塊があるみたい。気圧されて一歩下がってしまった。


 いや女神ではない。顔は同じだ。服装がスウェットからいかにもな感じになっただけ。ヨーロッパあたりの神話にでてきそうな雰囲気。


 彼女が現れたと同時に和室は綺麗さっぱり消えていた。もうただ行き止まりの通路があるだけだ。


「……」

「……人よ。先に質問してもよいかの?」


 ……魔力が多くともビビる必要はない。魔物は喋らない。だから敵ではない。あわよくばお願いしたいモデル体型美女。よし。


「どうぞ」

「魔力はないのか? 気配は? 呼吸しとるのか? どう見ても生きておるが、どうやって生きておる?」


 質問多いな。

 MPイコール魔力と習った。


「MPマックスです。気配遮断と認識阻害があります」

「ふむ」


 なぜか手を差し出してきた。どう見ても握手を求められている。ので握る。


「……すごいの。触っても魔力が感じられん。驚いたことにお主、特異魔力じゃ……これなら無理に引っ越さずとも――」


 手が柔らかい。これが女の子の手か。


 ……俺は魔力まで影が薄いと。

 固有スキルの説明にもあったが、特異魔力などまったく聞いたことがない。


 いろいろ納得がいった。俺は魔力が少い生徒として扱われていたし、気配遮断と認識阻害だけでここまで影が薄いのもおかしい気がしていた。


 美女はなにかぶつぶつ言っている。いま現在和室は消えているのに引っ越したわけではない様子。


「すまぬ。そちらの番じゃの。まさかオカキが食べたくて上がろうとしたわけではあるまい?」


 オカキより部屋の趣味と貴女の服装、なにより場違い感が気になりました。とは言えない。


「……女神様でないなら、どういった存在です?」

「おお、名乗っとらんかったの。妾は商人のリッサじゃ」


 思わず息を呑む。

 つまり、商人NPCか。会えるのは11層からのランダムエンカウントだったはず。ここは1層だ。なぜここに。


「……大月透です。よろしくお願いします」

「うむ、よろしく頼む…………手を離さぬか」


 おっと。


「出会ったからには見ていかれよ。初回サービス、ついでに特別割引じゃ!」


 リッサが大仰に手を振ると、視界に一覧が出た。



 ・避妊具  50

 ・天狗面  100

 ・ボリューム弁当とお茶  150

 ・圧力鍋  500

 ・バックパック  800

 ・魔動ドライバー  1000

 ・矢5本(矢筒付)  1000

 ・合成弓  2000

 ・槍  3000

 ・薙刀  3000



 いい匂いが。腹が鳴る。


「すごいボリュームの弁当じゃ。お主どんだけ空腹なんじゃ。お茶もついておる」


 どうやら意識するとリッサが実物を見せてくれるようだ。

 コロッケ、エビフライ、ハンバーグ、サイコロステーキ、肉じゃが、付け合せの野菜や漬物、ご飯も山盛り。


 食いたい。が、まずは買うものを選ばなければ。上から全部見るべきか。

 いや、いちばん上はダメだ。


 時すでに遅し。リッサが小さな紙箱を振っている。


「……お主、妾の手を握って何を考えておった? ん? お主の欲しいものしか出ぬはずじゃぞ」


 嫌なシステムだ。

 必死で次の天狗面を意識。

 真っ赤なお面がリッサの手に出てきた。ふう。


「……まあよい。これは魔力の込められた天狗の面じゃの。残念ながらお主がつけても面だけが目立つの。気づかれんということはなかろうが」


 いらない。

 気づいてくれと思うことはあるが悪目立ちしたいわけではない。

 次。


「なんで鍋じゃ? 弁当を欲しがるくせに?」

「親が……」


 正月に会いに行ったとき、母親がとてつもなく年季の入った凹みのある鍋をまだ使っていたのだ。


「ほう……変態かと思いきや意外と孝行ではないか」


 ニヤニヤしないでいただきたい。

 次だ。

 いやいらない。

 電動ドライバーは親父の……魔動って。これ外で使えるのか。でもやはり、いまはいらない。


 武器は全部見せてもらい、悩む。


 なんだかんだ、結構話が弾んでしまった。リッサは蓮っ葉で人間味がある。NPCとはとても思えない。ゲームっぽいとはいえ現実だ。神ではないらしいから、天使と思えばいいか。


 ためしに女神様にも会えるのか聞いてみたところ、めったなことでは会えないが目標にせよと仰せだ。


 手持ちは3169ゴールド。


 武器と弁当は確定。

 本当はバックパックも欲しい。UIはダンジョン内でしか機能しない。なのでインベントリも外では出し入れができないのだ。

 でも価格が無理。いちおうエコバッグがあるし。


「……弁当と弓矢を」


 槍もかなり欲しかったが我慢。そこそこのものが借りられている。対して矢はレンタルにはない。

 それにこの矢、真っ白で脆そうに見えるのに、頑丈で使い回せるという。魔物素材。5本入りだ。


「うむ。3150ゴールドいただく」


 リッサが手を振るとログが出た。

 インベントリに商品が入り、残金19ゴールドに。


「それで、ものは相談じゃが……」

「うん?」


「その、万が一、休憩している妾をまた見つけた場合な? お主に気づくのは無理じゃ。だから……見逃してくれんかの?」

「もう買い物はできない?」


 それは辛い。

 敬語を忘れた。もういいか。


「いやいや、欲しいものがあるなら訪ねてくれて構わぬ。これでも商人じゃからの」

「ああ、わかった」


 だらけた姿を見られるのが恥ずかしいのだろう。商売のためならやむを得ないが用がないときは見なかったことに、ということだ。たぶん。


「俺は誰にも話さないことにする。リッサも俺の魔力の特性とか、黙っててくれるか?」

「もちろんじゃ。商人は信用第一じゃからの!」


『称号を獲得しました』


 2つ目だ。後でまとめて見よう。


 また会おうと挨拶を交わすと、リッサは消えた。おそらく休憩中に誰か近づいても部屋ごと消えるのだろう。本来は。


 とりあえず、座って弁当を食おう。腹が減った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る