第3話 エンカウント
さて3層だ。
弁当は出来立てで最高だった。
今回はすぐ食ったが、インベントリ内は時間が止まっているのでいつでも出来立て。
久々に満腹。昨日まで訓練所で支給されていた飯とは味も量も比べ物にならなかった。
結局、1層、2層のマップはすべて埋めてきた。不思議な出会いがあるかもしれないからな。
称号ひとつ目は【真っ先に巡り合う者】1層で特殊エンカウントしたことで獲得。特殊エンカウント率が上がるそう。
ふたつ目は【入門信頼に足る者】NPCに規程外の取引を持ちかけ成立させ信頼を得たことで獲得。NPCが1割引してくれるそう。
現実なのに表記がNPC。リッサ以外にもいるのだろうか。特殊エンカウントの意味が曖昧。
魔物たちは弓矢の練習台になった。
目を狙う。的中すると小気味いい音も相まって気持ちいい。
あたればドロップと一緒に矢もインベントリに入るので便利だ。
ただ弓矢が俺に合っているかは疑問。あたる前に音が出る。素早い魔物だと避けるかもしれない。
魔物の数がいる時だけ先に弓矢を使い、メイン武器は槍にしようと思う。1万ゴールドくらい貯めてリッサからいい槍を買おう。
18時すぎ。時間が立つのが早いと感じながら3層を走る。景色は代わり映えしない。立ちションして離れると魔物みたいに消える。
3層初出は、ツノがあって毛皮がなく倍サイズくらいのウサギ? 弱い。いや動けば強いのかもしれないが、動く前に1撃で倒せるのだ。
4匹目でホーンラビットのツノがドロップした。絶対にラビットではないと思うがそう書いてある。
NPCもそうだが、誰かがゲームでも参考にして表記を決めたのだろうか?
ツノを集めるべく、マップを埋めつつ狩りまくる。ツノは武具の素材と書いてあった。ひょっとするとリッサが買ってくれるかもしれない。
足が止まる。
明らかに場違いな魔物がいる。
デカい。広い通路も狭く見える。
首の長い草食恐竜に似ている。ナントカサウルス。首だけで俺の身長くらいありそう。
足が短いのでキリンほど背が高いわけではない。
慎重に近づき観察する。
一撃で首を落とせれば倒せるかもしれない。
しかし厳しい。刃長が足りないのだ。
細長い尻尾には鱗がある。それ以外は皮。ゾウやサイのような皮だ。
刃が通らないことはなさそうだが、胴体を攻撃してもすぐには倒せないかもしれない。
図体がデカいということは、それだけ生命力が強いはずだから。
現在俺のレベルは6。
ステータスの数値はジワジワ上がっている気がする。スキルは変わっていない。
魔物のレベルが見られるスキルが欲しい。
どうするか迷ったが、槍を構える。
まだ3層だ。こんな浅いところで逃げたくはない。ドロップも期待できる。
コイツの首は、頭に近い位置の方が細い。そして時折、首を下げる。ツルツルの白い床なのに地面の草を喰むような動作をするのだ。
息を整え、何度も動きをシミュレートしながら待つ。
来た。
ゆっくりと首が降りてくる。
タイミングを見計らい、いちばん細い部分を狙って槍をすくい上げる。
首の半分以上を斬った。が、骨は斬れず。少し首が浮く。
すぐさま槍を上から振り下ろし、叩きつける。
魔物が胴体をくねらせた。ブワッと冷や汗が出る。
不穏な音が迫り、槍を手放して飛び退く。
頼むから早く消えてくれ。手応えはあったのだ。首の骨が折れたはず。
尻尾。長い尻尾の先が地面スレスレを滑ってくる。
ギリギリあたる。
歯を食い縛って悲鳴をこらえる。ウサギを呼び寄せて殺されるのはごめんだ。
右足、スネのあたりを鱗が削った。倒れ込んで抑える。
勝手に涙が出てくる。痛みでパニックになりかけながらHPポーションを取り出し、足にかける。
幸い、魔物の方も倒れて動かなくなっていた。
痛みが引いていく。
しかし心臓はバクバクいっているし、手が震える。
『称号を獲得しました』
同時にキュピンと軽い音。レベルアップだ。
魔物は消えていた。
あたりを見回し、槍を拾って通路の突きあたりまで移動する。いまは魔物に会いたくない。
突きあたりの壁に背を預け、ズルズルと座り込む。
しばし休憩。残していたお茶を取り出す。
少し落ち着いた。けど、めちゃくちゃ痛かったな。尻尾の先がほんの少しあたっただけなのに。
怪我を覚悟していなかったわけではない。けれど考えて見れば、俺は訓練であまり怪我をしたことがなかった。勝てない相手はたくさんいたのに。
いま思えば武器ばかり狙われていた。おそらく俺の影が薄いために、身体より武器のほうが狙いやすかったのだろう。
槍の穂先を確認する。幸い欠けてはいない。
レンタルの武器は5層でサクサク狩れるもののはずだ。
あの魔物は、どう考えても5層までの魔物ではない。
ステータスを確認する。
大月 透 18♂
役職 なし
レベル 10
HP 201/201
MP 235/235
筋力 20
体力 22
敏捷 22
器用 22
知力 13
魔耐 9
魅力 13
幸運 22
称号 【真っ先に巡り合う者】
【入門信頼に足る者】
【入門ジャイアントキリング】
スキル
魔力操作・気配遮断・認識阻害・
筋力強化・槍術・短弓術・
危機察知・強撃・回避術・
苦痛耐性
固有スキル
特殊魔力感知
スキルが4つも増えている。
称号【入門ジャイアントキリング】の取得条件を見て愕然とする。
あの魔物は10レベル以上うえだった。称号効果は10レベル以上うえの敵を倒すとステータス+1。
ステータスは欲しいが、もう挑みたくない。血の気が引いた。
いや、一撃で倒す準備を整えればいけるだろうか?
それだけでは足りない気がする。一撃で倒せなかった場合に備えたい。
せめてポーションを使ってくれる仲間が欲しい。わずかな傷でも痛みで動けなくなる。
あとは鑑定が切実に欲しい。攻撃前にレベルを知りたい。
鑑定はダンジョン内のものなら情報が得られる。人間や外の美術品は鑑定できない。
しかし俺はおそらく適性が低い。
スキルは大きく分けて2種類ある。自分にしか効果のない物理系スキルと、他者にも使える魔法系スキルだ。
筋力強化の説明は〈魔力を用いて自身の筋力を強化するアクティブスキル〉
MPは減らない。
これが魔法系スキルの場合になると。
筋力強化魔法〈魔力を込めた魔法陣を介して筋力を強化するアクティブスキル〉となるはず。そしてMPが減る。ゲームとネットの知識だが信憑性は高い。
鑑定は魔法系スキルのみのはず。
魔法を使うには、複雑な魔法陣を暗記する必要がある。できる気がしない。座学は苦手だ。
仲間にするなら魔法系がいい。
しかしひとつ大問題がある。
魔物は俺には気づかない。レベル差が10以上あっても気づいていなかった。
つまり魔物は後衛の魔法使いにまっしぐらする。
魔物が単体なら、とっとと攻撃すればいいだけだ。が、複数出た場合対応できない。
考えていると、わずかに魔力を感じた。
投げ出している足の下あたりから。
不安になって立ち上がる。
魔物が湧くのだろうか?
少し通路を戻って距離を取る。
出てきたのは魔物ではなかった。
歓喜して走り寄る。
宝箱。
もう、宝箱としか言えない見た目の木箱だ。金属で補強された木箱。
木箱なので期待はまったく出来ないのだが、それでも初宝箱は嬉しい。中身はなにかな。
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