第109話 主人公の実力
俺はひとつ大きな過ちを犯していた。
というか、失念していた。
すぐ隣に立っているカルロという少年こそ原作主人公。その圧倒的な魔力で数々の強敵をねじ伏せてきたのだ。
……思えば、原作だとロミーナもカルロにやられるんだよな。
今は敵対しておらず、むしろ仲の良い友人という関係を築けているからいいけど。
おかげでこうして窮地にも頼もしい助っ人としてとも戦ってくれているわけだし。
「お答えください、エクリア様……なぜアズベル様やモリスさんを襲ったのです?」
「応える必要なんてないわ」
「そうですか……」
カルロはあきらめたように呟き、剣を構え直す。
今の質問が、最後の希望だったのだろうな。
この状況下でエクリアさんが急に心変わりするとは到底思えないけど、カルロとしては恩義あるロミーナの姉を相手に戦わなくてはいけないという抵抗感があったようだ。
しかし、それは先ほど俺との会話の中で解決していた。
とにかく彼女を無力化し、捕らえて事情を聞く。
そして――背後で腕を組みながら戦況を見つめているヘレナ様の真意を知る。
「次は先ほどのようにいかないわよ」
落ち着いた口調でそう告げたエクリア様は、自身の魔力を大きな火の玉へと変えた。
あれもまた炎魔法の一種だが……明らかにさっきの炎の矢とは威力が違う。
生産魔法史か扱えない俺でも、それはハッキリと認識できた。
つまりそれくらい高濃度の魔力が込められているというわけだが、カルロの表情に焦りの色は一切見られない。
余裕があるわけでもなさそうだが、まったくの手詰まりという絶望的な状況でもなさそうだな。
「一瞬にして骨まで灰にしてあげるわ!」
巨大な火の玉がカルロ目がけて放たれる。
ていうか、あのデカさだとこの研究棟が吹っ飛ぶんじゃないか!?
「カルロ!」
「お任せください!」
俺は逃げた方がいいのではないかという意味で名前を呼んだのだが、彼はそれをGOサインと受け取って突っ込んでいった。
そして――
「はあああああああああああああああああああああっ!」
雄叫びとともに火の玉を剣で真っ二つにするカルロ。
おかげで炎自体が消滅し、俺も研究棟も無傷だった。
――って、強すぎじゃないか、カルロ。
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