第93話 ロミーナの心配事

 ついに俺たちは王立学園へとたどりついた。

 ――って、大袈裟に言っているけど、実際はたいしたことでも何でもないんだよね。ただ馬車に乗って移動してきただけだし。


「思ったよりもずっと広いなぁ……ねぇ、ロミーナ」

「えっ? う、うん。そうだね」


 心なしか、ロミーナの表情がちょっと暗くなっているような?

 馬車の中ではめちゃくちゃテンションが上がっていたのに……学園へ通うにあたって何か心配事があるのだろうか。気になった俺は声をかけようとしたが、その時、モリスさんが優しく俺の肩に手を置いた。

 振り返り、その悲しげな表情を目の当たりにして……察しがついた。


 この学園には、ロミーナのふたりの姉も在籍している。

 名前は確か――エクリアとカテリノ。

 どちらも原作本編にはなんら影響を及ぼさない存在だが、明らかにロミーナが悪落ちした要因。学園に通えば、彼女たちとの接触も完全には避けられない。何を言われるのか、彼女は心配しているのだろう。


 なんて声をかけたらいいのか、皆目見当もつかない。

 何を言っても気休めにしか聞こえないと思ったからだ。


 俺のロミーナの婚約のきっかけは親同士の思惑による。

 いわば政略結婚というヤツだ。

 しかし、今ではもうそんなのはどうでもよくなり、うちの両親も素直で優しいロミーナを気に入っている。


 ……だが、ペンバートン家はそうもいかないだろう。

 何せあっちは公爵家。

 うちみたいな辺境領主とは本来かかわりを持つはずのない地位の家柄だ。

 だが、現状は少しずつ変化を見せている。

 きっかけはやはりあの魔法使いを捕えてからだろう。

 あれで風向きはガラッと変わった。


 とはいえ、まだまだうちが辺境領主であるには違いない。ペンバートン家からすれば「田舎者が調子に乗るなよ」って印象を持っているのかも。


 だがら――いいんだ。


 気にする必要はない。

 ロミーナはロミーナらしく生きればいいんだ。


「……行こう」

「えっ?」

「学園生活はきっと楽しくなるよ。だから、いろんなところを見て回ろう。今日はモリスさんもパウリーネさんもいるし、ね?」

「アズベル……そうだね。一緒に行こう!」


 ようやくいつもの調子で笑うようになったロミーナ。

 俺としては何も考えず、ただ思ったことを素直にしゃべっただけなのだが、それがかえってよかったのかもしれないな。


 こうして、俺たちの学園見学はいよいよ本番を迎えるのだった。

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