第87話 やり直しのピクニック

 ついに敵の魔法使いを捕らえることに成功し、束の間ではあるが平穏な時間がパルザン地方にやってきた。

 ミリーさんはこれ以上ないってくらいのニコニコ顔で王都へと戻って行った――のだが、帰る直前、モリスさんとパウリーネさんに対し、「ふたりとも王都へ戻って来ない?」と誘っていた。

それに対し、ふたりはキッパリと「それはない」と断る。ミリーさんも「まあ、分かってはいたけどね」とそれ以上の追及はしなかった。ふたりがこのパルザン地方に残ってくれる判断をしてくれたのはありがたかったが、本当によかったのかなぁという心配もあった。


 とはいえ、頼りになる騎士であるふたりが残ってくれるのは俺だけじゃなくロミーナにとっても喜ばしいことだった。


「見て、パウリーネ。あそこの枝に綺麗な鳥がとまっているわ」

「そうですね、お嬢様」


 事件解決後に約束していたピクニックへとやってきた俺たち。

 湖のほとりでのんびりと過ごしながら、激闘の疲れを癒す。


 ――ただ、これですべて終わりってわけじゃないんだよな。

 あの魔法使いだって、所詮は誰かに雇われていた身……俺やロミーナを狙っていた黒幕については、まだその正体のヒントすら掴めていない状況だった。

 これに関しては騎士団も躍起になっているようだ。

 そもそも、舞踏会の日に王都を大型モンスターに襲撃させようとした犯人と同一である可能性が高いため、国にとっても危険人物であるという認識がある。マドリガル騎士団長も例の魔法使いの尋問には一層力を入れるってミリーさんも言っていたしな。


「何やらお考えごとのようですな」


 大きな岩に座り込み、湖へ釣り糸を垂らしていたらモリスさんが声をかけてきた。


「悩みの種は例の黒幕ですかな?」

「やっぱり分かっちゃいます?」

「えぇ、あなたは顔に出やすいですから」

「そ、そうかな?」


 前にも誰かに言われたような気がする。


「ロミーナ様を思ってのことなのでしょうが……今日くらいはそれも忘れて、一緒に遊ばれてはいかがです?」

「えっ? あっ――」


 ……俺としたことが、なんてバカなんだ。

 今回のピクニックの目的はなんだ?

 ロミーナと一緒に楽しむことじゃないか。

 それをこんなところでひとりうじうじと至高を巡らせ続けているなんて……あり得ないぞ!


「モ、モリスさん! ちょっと釣り役交代してもらってもいいですか?」

「御安い御用です。ちなみに、ロミーナ様はパウリーネと一緒にあっちで森林浴の真っ最中みたいですよ?」

「わりがとう!」


 俺は竿をモリスさんに手渡すと、彼が指さした方向へと走りだした。

 ちょっと遅くなったけど、今日はもう何もかも忘れてロミーナとピクニックを全力で楽しむぞ!

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