第74話 新魔道具

 魔法庫から出てきた水晶玉。

 そこから立体映像として現れる魔力で作れたマップ――これこそが、この探知魔道具のもっとも優れた部分だ。

 

「あれ? このマップ……一ヵ所だけ赤く点滅しているよ?」


 早速、その特性にロミーナが気づいた。次いで、イルデさんが興味深げに眺めながら説明を始めていく。


「なるほど……この赤く点滅している場所に、例の魔法使いとやらがいるんだね」

「少なくとも、記録に残っているものと同じ質を有した魔力がここで検知されています」

「つまり、本人はいなくても手がかりはある、と」


 そう念を押したのはモリスさんだった。

 振り返ると、すでに顔つきは戦闘態勢に入っている。

 これから乗り込んで戦う気満々って感じだけど、さすがにそれは早計だと思うな。ましてやまだ義手を完璧に使いこなせていないので、十分に力を発揮できない状態にある。そこら辺のチンピラ相手には無双できるだろうが、相手は一国を相手にケンカを売り、イルデさんにさえ気配を悟られなかった手練れだ。万全を期す必要がある。


「モリスさん、早まったマネはしないでくださいよ?」

「しかし、ようやく敵の居場所が分かったのに――」

「分かったからこそ、冷静な対処が求められるんじゃないか」


 忠告を投げかけたのはパウリーネさんだった。


「今なら騎士団も魔法兵団も動かせる。――そうだろう、ミリー」


 ミリーさんへ同意を求めるパウリーネさんであったが、そのミリーさんの反応はなんとも渋いものだった。


「ですが、そこに例の魔法使いがいるという確証はありませんわ」

「そ、そんなことはない! アズベル様の作った魔道具の性能に問題は――」

「過去に作った魔道具がいかに優秀であっても、この水晶玉も同じように優秀とは限りませんわ」


 ミリーさんの言うことも一理ある。

 モリスさんやパウリーネさんは、過去に俺が作った魔道具の効果を直にその目で確認しているから信頼してくれているが、ミリーさんにとってはこれが初めてだからな。それに、彼女の言うように、正しく探知されているかどうか……俺としては自信を持っているけど、なんだかだんだん不安になってきたよ。


「まずは様子見をしません?」

「だ、だが……」

「とりあえず、連絡だけはしておいた方がいいだろう。あとの判断は騎士団や魔法兵団に任せるということ――よろしいでしょうか、アズベル様」

「そうだね。それがベストな判断だと思うよ」


 今のモリスさんはいつもの冷静さを欠いているようだし。

 それに……失敗すれば、相手に探知機の存在が知られる可能性が高い。そうなれば、次からは何かしらの対策を練ってくるだろう。できれば初見で確実に捕らえたいというのが本音だ。


 いずれにせよ、マップで示された場所にはモリスさん、パウリーネさん、ミリーさん、そしてイルデさんが向かうことになった。


 その間、俺とロミーナは屋敷で留守番だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る