第64話 結界魔法の効果

「この辺りで物騒な事件が相次いでいるという話は聞いていたからね。パルザン地方へ足を踏み入れようとした者は結界魔法を駆使して監視をしていたわけだが……どうにも引っかかる点があってね」


 イルデさんは俺やロミーナのためにそこまで……って、その結界魔法から気になる人物が浮上してきたらしいが、一体誰なんだ?


「人物の特定はできたのか?」

「本来ならできるんだけどねぇ……どうも裏で糸を引いている人物は魔法にも造詣が深いようだ。こちらの張った結界に触れないギリギリのラインを把握してそれ以上近づいてこようとはしない。なんとも歯がゆいよ」


 心底悔しそうに語るイルデさん。

 曰く、もし結界魔法にかかればすぐに相手の位置情報を把握し、そこへ乗り込んで拘束魔法をかけるつもりだったらしい。

 だが、そうした彼女の意図を読み取り、迂闊に攻め込んでこないのだという。


「相手は魔法使いなのか……?」


 顎に手を添えてそう呟くパウリーネさん。

 俺も同意見だ。


「たぶん、魔法使いだと思います。ほら、大型モンスターの大群がオルメド王都へ突っ込んで来ようとした時、見張り役の兵士たちは何者かによって眠らされていたじゃないですか」

「そういえばそうでしたな。あれだけの数に催眠魔法をかけられるのは相当の腕前を持つ魔法使いであると報告を受けました」


 モリスさんにもその情報は届いていたのか。

 なら、当時の詳しい状況についても把握しているはず。


「あのモンスターだって、その魔法使いが呼んだんじゃないかって思うんです」

「魔法兵団もその線を睨んでいるようですが……未だに犯人の特定には至っていません」


 ため息を交えながら、パウリーネさんが言う。

 オルメド王国の騎士団や魔法兵団が無能なわけじゃない。

 バックに潜んでいる魔法使いがめちゃくちゃ優秀なのだ。

 大体、イルデさんの結界魔法に気づき、行動を制限している辺りでかなりの実力者であることがうかがえる。


「でも、その結界魔法の効果で悪い魔法使いはこのパルザン地方へは侵入できないんですよね?」


 イルデさんへ確認を取るようなロミーナの言葉。

 確かに、実際その魔法使いとやらはここまで侵入していないわけなので結界から出なければ安全――って、それはそれでまずいんじゃないか?


「もしかしたら、その魔法使いはアズベル様やロミーナ様が結界の外へ出てくるのを待っているのでは?」


 そう。

パウリーネさんの言う通り、相手は俺たちが結界の外へ出てきてから襲おうと考えているのではないだろうか。


 それが事実なら、俺やロミーナは黒幕が捕まるまで子のパルザン地方から出られないってことになるぞ!?

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