第60話 復活の右腕

 凄まじいスピードで繰りだされるモリスさんの連続攻撃に対し、ついにパウリーネさんは限界を迎えた。


「ふん!」

「あっ!?」


 ほんの一瞬だけ生じた隙を逃さず、モリスさんがパウリーネさんの手から見事剣を弾き飛ばした。


「勝負あり、だな」

「くっ……まいった。私の完敗だな」


 最初は心底悔しそうは表情だったが、すぐに笑みを浮かべて敗北を認めた。それは同時に、ワイバーンを倒すほどの実力を持った騎士が本来の力を取り戻したことにつながる。


「やった!」

「モリスさん!」


 俺とロミーナは手を取り合ってふたりのもとへと駆けていく。


「凄かったよ、ふたりとも!」

「本当に! 俺もまさかここまでの戦いになるなんて想像もしていなかったです!」


 興奮冷めやらぬ俺たちは口々に感想を述べる。

 その光景がよほどおかしかったのか、それとも別に理由があるのかは定かでないが、なんとあのモリスさんが笑顔を見せたのだ。おまけに「ははは」と爽やかな笑い声つき。

 これについて、驚いているのは俺たちだけではなかった。

 同期として俺たちよりもずっと長く一緒にいるパウリーネさんでさえ、思わずギョッと目を見開いてしまうくらい衝撃的なシーンだったらしい。


「おまえがそうやって笑うところを初めて見た気がするよ」

「そうか? ……言われてみれば、騎士団に入って笑ったことなど一度もない気がする」

「だろうな。勲章授与式の時でさえ仏頂面だったくらいだし」


 うわぁ……容易に想像できる。

 でも、裏を返せばそれだけ笑わないモリスさんがあんなにも柔らかい顔つきで笑ったのだから、それはもう一大事だ。


 でも、だからこそ、ここで見せてくれたモリスさんの笑顔にはとんでもない価値があるってことになる。心なしか、最終確認をする前よりもずっと晴れやかな顔つきになっているし。


 ――さて、ここまで来たらあとは最終的な義手の評価だ。

 俺がそれを待っていると空気で察したモリスさんは、深呼吸を挟んでからこちらをジッと見つめる。


「アズベル様……このたびは本当にありがとうございました」

「えっ? そ、それってつまり……」

「この義手は実に素晴らしい。まだ慣れていないので本調子とはいきませんが、これから訓練をしていけば依然と変わらない力を発揮できそうです」

「ほ、本当ですか!」


 というか、さっきまでのあれは全力じゃなかったのか。

 まあ、それはこの際置いておくとして……とにもかくにも、モリスさんが義手を使ってくれるみたいだからよしとしよう。


「それで……もうひとつお願いをしたいのですが」

「お願いですか?」


 な、なんだろう。

 あのモリスさんのお願い……なんだか只事じゃない感じがするぞ!?

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