第54話 試し斬り
翌日。
この日は早朝からロミーナやパウリーネさんとともにモリスさんのもとを訪れた。
ちなみに、彼女と一緒に寝ていた現場を起こしに来たメイドに見られ、根掘り葉掘り事情を聞かれることになったのだが……まあ、それは置いておくとして、今はモリスさんに完成した義手を試してもらうのが先決だ。
そのモリスさんは屋敷の庭園で見つかった。
彼は朝早くからトレーニングの真っ最中。
剣が振れなくなっても、体を鍛えておこうと日課の筋トレを今も継続していたのだ。
そんな彼のもとへ近づいていき、朝の挨拶をしがてら義手を試してもらえないかと相談してみる。
「もちろん。喜んで」
モリスさんはふたつ返事で了承してくれた。
早速義手を取り換えて剣を握ってみる。
「む?」
自然な流れで剣を握れたことに少し驚いた様子のモリスさん。
「どうですか?」
「実にしっくりきますね……今までの義手とは明らかに違う。正直、驚きました。素晴らしい出来ですよ、アズベル様」
淀みなくそう語りながら、モリスさんは指先ひとつひとつの動きを丹念にチェックしていった。日常生活を送れるレベルの義手ならばこれまでと変わらない。その先に進めるかどうかを確認しているのだろう。
「一度剣を振ってみてください。それから品質向上のために、ぜひ忌憚のない意見を聞かせてもらいたいんです」
「分かりました」
モリスさん自身、早く剣を振るいたいという気持ちがあったようで、俺がそう語るよりも先に剣の柄に手が伸びていた。
直後、その眼光が鋭くなる。
「ほぉ……まだ目は死んでいないようですね。戦場で見たあの眼差しは健在のようです」
横に立っていたパウリーネさんがどこか嬉しそうに語る。
でも、実際彼が本来の力を取り戻してくれた大きいよな。
だからこそ、あの義手は完璧な物にしなくちゃいけない。
さて、そのモリスさんだが、何やら一点をジッと見つめている。その視線の前には一本の枯れ木があるのだが、どうやらこれを斬ってみせようというらしい。
幹の太さは結構あるけど……あれを本当に斬れるのか?
ロミーナと一緒に緊張しながら待っている――と、
「…………」
モリスさんの手が剣から離れていく。
獲物を狙う猛禽類のような眼光もいつの間にか消え去っていた。
「モ、モリスさん?」
「アズベル様……大変申し訳ありませんが、これでは剣を振るえません」
「そのようだな」
「っ!? ど、どうしてですか!?」
どうやらモリスさんだけでなく、一緒に見守っていたパウリーネさんも異変を察知したらしい。
騎士にしか分からない俺の作った義手の弱点……一体何なんだ?
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