第50話 栄光の代償
モリスさんの右腕は義手だった。
話の流れから察するに――
「その腕は……ワイバーンに?」
「はい。ヤツの首を斬り落とした直後、まるで道連れのように食いちぎられましてね。なんとか身を翻し、腕だけで済んだという方が正しいのでしょうが」
そう語るモリスさんは相変わらず無表情で声のトーンも低かったけど、全体的に悲しそうなオーラが出ていた。
「まだ慣れていなくて、まともに剣を振れない状態ではあるのですが、体術は問題なくできますのでご安心を」
確かに、体術は凄い。
あの不審者を捕らえる一連の動きを見ていても理解できる。まるで相手の動きを先読みしているかのように完璧な動きで、抵抗する間も与えないほどスピーディーだった。あれで片腕が本来の調子ではないなんて信じられないな。
それにしても……義手かぁ。
見たところ金属製で肘から下の部分を補う形となっている。
ただ、お世辞にもよくできているとは言えなかった。
この世界の技術ではこれが限界なのかもしれないが――って、待てよ。
「俺の生産魔法なら……モリスさんの義手をさらに高性能化できるかもしれません」
「そんなことができるのですか?」
「やってみせますよ」
最初は半信半疑だったモリスさんだが、「期待していますよ」と言って父上のもとへと向かうためにその場を立ち去った。
あれは間違いなく信じていない顔だ。
……まあ、無理もないか。
まだ十歳の子どもが言うことだしなぁ。
実績はあるんだけど。
「義手の製作とは思い切ったじゃないか」
一方、俺の生産魔法の実績を知るイルデさんは実に興味深そうな(ニヤけた)顔つきでこちらを見つめていた。
「彼がかつての右腕を取り戻し、以前と変わらぬ強さとなれば……君の評判はさらに大きなものとなって王都に広まるだろうね」
「そ、そうですかね……」
さすがにそううまくはいかないだろうと思いつつ、ワイバーンを討伐できるくらいの実力を持った騎士が絶望的な状況から復帰できたとなったら……いや、この場合は俺の名誉とかのためじゃなく、モリスさんのためにやるんだ。
たぶん、彼がベストコンディションだったのなら、この前のもっと重要な任務を与えられていたはずだ。それがこんな辺境領地で――
「うん? 待てよ……」
もしかして、マドリガル騎士団長は俺にモリスさん用の新しい義手を作らせるために彼をここへ派遣したのか?
……さすがにそれはないか。
仮にそうならひと言事前にありそうなものだし。
ともかく、次の目標は決まった。
まずは素材集めから始めるか。
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