第49話 ふたりの関係
モリスさんとパウリーネさん。
どちらも騎士団所属ではあるのだが、歩んできた道は対照的だ。
公爵家であるペンバートン家に招かれ、幼いロミーナの近衛騎士として過ごしてきたパウリーネさんと戦場を駆け抜けてきたモリスさん。
……あるよね、そういうの。
同じ企業に勤めていても部署によって職場環境が違いすぎるっていうのはさ。まあ、この世界の、それも騎士団って業種ならどちらも命懸けであるんだろうけど、その頻度が違うというか、そのうち価値観とかもズレてきそうだよなぁ。
パウリーネさんはさらに反論を続けようとしていたが――
「まあ、いい。この話はまた今度だ。戻りましょう、ロミーナ様」
「う、うん」
そう言ってロミーナを屋敷へと連れて行くパウリーネさんだが……さすがだな。仮にあそこでモリスさんと口論しようものなら、ロミーナの性格上「私が原因でふたりが険悪に」とさらに落ち込んでしまうのは火を見るより明らかだった。
「さすがは長い付き合いだねぇ。彼女のことをよく理解しているよ」
イルデさんもパウリーネさんの行動の真意を見抜いて感心しているようだ。
一方、モリスさんはひとつ大きくため息をついた。
「彼女とは騎士団の同期なのですが……変わっていませんね」
ここで発覚するふたりの関係性。
でも、正直もっと付き合いが深そうに見えたけどなぁ。
今度それとなくパウリーネさんに探りを入れてみるか。
「ロミーナ様を思うというなら尚更外へ出すのを控えるべきでは?」
「あの子はまだ子どもだからねぇ。そう簡単にはいかないさ」
「それはそうですが……」
モリスさんも少し困っているようだ。
今までこんな任務を受けたことがないだろうからなぁ。まだ十歳の女の子であるロミーナとの接し方がつかめていないのだ。
「どうだろう? 今度の外出には君だけじゃなく私も同行し、万全の態勢で警備に当たるというのは?」
おぉ?
まさかイルデさんの方からそんな提案がなされるとは思ってもみなかった――が、イルデさんの話はまだ終わらない。
「君の名前……モリスと言ったか。どこかで聞いた名前だと思ったが、もしかして半年くらい前に話題となったワイバーン討伐を成功させたという騎士かい?」
「えっ!?」
そういえば、確かにそんな話題を耳にしたことがある。
こんな辺境領地にまで噂が届くくらいだから、王都ではきっと大騒ぎだったんだろうな。
イルデさんの問いかけに対し、モリスさんは少し複雑な表情を浮かべた後で静かに頷いた。
……あれ?
もっとこう、「ご存知でしたか?」くらいの感じで話してくれると思ったのに、なんだかモリスさんの顔つきには悲壮感さえ漂っている。
疑問に思った直後にそれは解決した。
「代償は大きかったですけどね」
モリスさんはそう言って――自分の右腕を外した。
「なっ!?」
突然の行動に驚き、思わず大声をあげてしまう。
彼の右手は……義手だったのだ。
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