第45話 楽しい船旅

 次の日。

 湖には多くの商人が詰めかけていた。

 全員が王都で商売をするため、たくさんの荷物を抱えて出港を待っている。


「では、順番に乗り込んでください」


 事前に伝えてあった通り、先着順で船へと乗り込んでいく商人たち。さらに荷物も次々と積み込まれていくが、その量に周りがざわつき始める。


「あ、あんなに載せて大丈夫なのか?」

「魔力によって生みだされた船らしいから通常設計の物より強固だとは思うが……それにしたって厳しいんじゃ……」


 心配する声が漏れ聞こえてくるが、耐久力に関してはすでにテスト済み。これくらいなら問題なく航行が可能だ。

 積み込み作業が終わると、集まった商人の半分以上が船に収まった。


「一度にこれほどの数を……」

「うまくいったら渓谷地帯を進むより距離が縮まるんじゃないか?」


さすがに何回と往復しなければならないだろうと予測していた商人たちにとっては嬉しい誤算となったようだ。

 そしていよいよ対岸へ向けて出港。

 時間としてはそれほど長くはない船旅だが、のどかな風景と時折吹く穏やかな風は海を航行する船とはまた違った味わいがある。それが商人たちの心にグサッと刺さったようだ。


「いいなぁ……のんびりしていて」

「こんな気分はいつ以来かなぁ……」


 商人というのは気の抜けない激務だからなぁ。

 うちみたいな辺境領地ではこういった空気感は当たり前だけど、人でごった返す王都とかだとなかなか感じられないのかもしれない。

 今回の船旅はただの運搬という枠に収まらず、激務で荒んだ都会の商人たちの心に清涼剤的な役割をもたらしたようだ。



 結果として、二度の航行で集まった商人と荷物を運び終えた。

 単なる移動手段として考えていた湖を利用した運搬だが、それ以上の効果を得られて大満足の成果となった。


 うまくいってロミーナやパウリーネさんたちと喜んでいたら、そこへ初老の男性がやってきた。彼は船に乗っていた商人のひとりだったな。

 名前はドマーシュさんだったか。

 原作【ブレイブ・クエスト】には登場しないが、ライナンさんの話ではかなり大きな商会のトップらしい。


「ありがとうございました、アズベル様。おかげで王都へ向かえますし、何よりとても楽しい船旅でしたよ」

「喜んでいただけて何よりです」

「つきましては今回の新しいルートについて、他の商会にも話をしてみたいと考えているのですが……よろしいでしょうか」

「はい! よろしくお願いします!」


 他の商会がここを利用してくれたら、ガナス村も今まで以上に発展するだろう。

 また新しい楽しみが増えたな。

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