第28話 懸念
ロミーナの氷魔法の力は俺の想像を遥かに超えていた。
さすがは原作で氷結女帝と呼ばれるだけのことはある……あの強烈な氷魔法はその片鱗を存分に披露してくれたよ。
増援を待つまでもなく、ロミーナひとりで迫りくるモンスター群を撃破していく。
彼女の師匠でもあるイルデさんも加わり、万全の態勢――と、思いきや、イルデさんは何やら浮かない顔をしている。
「イルデさん……何か気がかりでもあるんですか?」
「気がかりというか、いつまた暴走してしまうか分からないという危うさがあってね」
「ぼ、暴走? でも、ロミーナはしっかり魔法を制御できていますよ?」
「今のところは、ね」
はぐらかされている感もあるが、いつもみたいな軽い調子ではなく、どことなく思い詰めているようにさえ見える深刻な表情から、これ以上の戦闘続行は危ないと判断し、駆けだした。
「お、おい! どこへ行くんだ!」
「ロミーナを止めに行きます!」
むしろこの状況でそれ以外に俺の取る行動はない――が、すでに魔鉱石で作った魔弾は使い切っている。それでも何か攻撃手段が欲しくて、俺はその辺に落ちていた石をいくつか拾いあげてそれを弾代わりにする。エンペラー・スパイダーを倒した時と同じだ。
しかし、この場にいるのはそのエンペラー・スパイダーよりずっと厄介なモンスターたち。
この程度では牽制程度の威力しかなく、致命の傷を与えるのは不可能だろう。
……だとしても、逃げる時間を作ることくらいはできるはずだ。
「ロミーナ!」
「ア、 アズベル……?」
振り返った彼女の顔を見て、俺は血の気が引く。
魔力を使い切ってしまったらしく、青ざめて今にも倒れそうなくらい弱っていた。
それでも魔法は未だに発動しているところを見ると、気づかなかったがずっと魔法は暴走状態にあったらしい。
俺の姿を見て安堵したのか、一気に脱力したロミーナをなんとか抱きかかえる。
モンスターは全滅したようだが、その代償として彼女は多大なダメージを負ってしまったようだ。
……なんてこった。
制御できるようになっていると安堵していたけど、実際はかなり無茶をしていたのか。それに気がつかなかったなんて……
「着実に成果は上がっているが、まだ実戦で使う域までは達していなかったんだよ。威力は御覧の通りだけど……消耗が激しすぎる」
イルデさんは冷静に解説しつつ、自分の魔力をロミーナへと分け与えた。そのおかげもあって、眉間にしわを寄せて苦しんでいた彼女の表情は安らかなものへと変わっていき、ついには「スースー」と寝息を立て始めた。
「ね、寝ちゃった……?」
「相当疲れたのだろう。だが、その甲斐は十分にあった。国王陛下の耳に入れば勲章は間違いなしだ」
「勲章――あっ、そうだ!」
ここで俺はカルロの存在を思い出す。
そもそも、俺たちがモンスターの存在を把握できたのは彼のおかげだ。勲章をもらうというなら彼にもその資格がある。
すぐにカルロを捜しに行こうとしたが、ちょうどそこへ騎士団が到着。
想像を絶する光景に茫然としつつ、辺りの調査が始まり、俺たちは保護された。
結局、その日のうちにカルロと再会することは叶わなかったのだった。
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