第10話 重要人物登場!

 ライナン・オルダーソン。

 まさかこの名前を子ども時代で耳にするなんて思ってもみなかった。


【ブレイブ・クエスト】では、主人公を助けてくれる重要人物。

 ただ、今の肩書とだいぶ違う。ゲーム本編では一代で商会を大陸でもその名は知らぬほど大きくし、主人公たちの冒険に役立つアイテムをわたしてくれる。


 しかし、それはあくまでも俺やロミーナが成長し、悪役となってからの話。この頃はまだ駆けだしの商人というわけか。

 貴族絡み以外で原作ゲームのキャラと遭遇するのはこれが初めてだな。

 おまけにかなりの有能キャラと来ている。

 一応、ゲーム内での立ち位置としては周りから信頼されている優れた商人というものであった。主人公たちにアイテムを渡すよう交渉したのは王家の人間だし、後々はそっちとのパイプもできているようだ。


 俺の生産魔法で作りだしたアイテムを彼に託せないだろうか。


 最初はそれを考えていた――が、父上の言葉を受けて改める。ライナンさんの評判がいいのはあくまでもゲーム内での話。実は裏で暗躍していましたってオチもあるかもしれないので、慎重に判断をしたい。


 というわけで、俺は父上とともに彼のいる部屋へと入った。

 その部屋では目を覚ましたライナンさんが、ロミーナと談笑中だった。


「あっ、アズベル」

 

 俺が来たことに気づくと、ロミーナはトコトコと小走りにやってくる。


「ライナンさんのお話がとっても面白いのよ。彼は商人として世界中を旅しているみたいなんだけど……文化や風景の違いがもう凄くて……」

「へぇ、俺も興味があるな」


 商人として大陸中を飛び回っているライナンさんの話にすっかり夢中となっているようだ。意外とのこの手の話は好きなんだな。貴族として暮らしてきたからなのか、外の世界への憧れが強いのかも。

 いつか一緒に旅行でもいけたらいいな。

 

 ――って、ほのぼのしている場合じゃなかった。

 俺はライナンさんへ声をかけようとしたが、それより先に父上が動く。


「君は商人らしいが、何を取り扱っているんだ?」

「あっ、そ、それなんですが……実はまだ決まっていなくて」

「決まっていない?」


 予想外の答えに、父上の目は点になる。

 商人なのに取り扱っている商品がないなんて、これまでに聞いたことがないからな。


「どういうことなんだ?」

「そ、それが……僕自身、どんな商売をしていこうか模索中でして……お嬢様にお話した内容は、いわば自分探しの旅で体験したものだったのです」


 ライナンさんは緊張しているのか声が震えていた。

 原作ゲームでは常に堂々としており、山賊やモンスターを前にしても怯まずに立ち向かうくらい気が強く、実力も兼ね備わっている。だが、目の前にいる細身の青年には、そうした豪胆さが一切伝わってこない。


 だからと言って、嘘をついている感じもしない。

 この状態からゲームで見かけるあの強気な姿へと変わっていくというのか?


 にわかには信じられないけど、本当にそうだしたら彼は将来とても強い味方になるぞ。

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