第8話 生産魔法の戦い方
生産魔法は戦闘の役に立たない。
いつか書物でそんな一説を目にした記憶がある。
――だが、ようは使い方次第だ。
ロミーナやイルデさんが扱う属性魔法のような派手な戦い方なんてできないけど、状況に応じて武器を生み出せば……
「って、この場合はどんな武器が有効なんだ?」
いかん。
そこまで考えていなかった。
クモ退治といえば殺虫剤だけど、周りにある素材でそれを作るのは難しい。
何かないのか……あの巨体に致命傷を与えられるだけの武器。できれば接近せず、遠距離から攻撃できるのが理想だけど、そんな都合のいい武器なんて――
「っ!」
あった。
あったけど……これをそっくりそのまま再現できるかどうかは不透明だ。明らかにこの世界には存在しない武器だし。
でも、冷蔵庫とかルアーとかはうまく作れたんだ。
今回のだってきっとイケるはず。
どのみち、成功させなければ俺はあのエンペラー・スパイダーのランチになってしまう。
「やるしかない……!」
覚悟を口にして、俺は駆け出した。
最低限必要な金属は携帯用ナイフを使い、それ以外に石や枝を集める。その間も、エンペラー・スパイダーは俺やダンとアンを食らうために追いかけてきたが、アンがヤツを翻弄してくれているおかげで時間が稼げた。
しかし、エンペラー・スパイダーがお尻から粘着性の高い糸を飛ばし、アンの右後ろ脚に絡みついた。身動きが取れなくなり、パニックとなったアンは暴れ回る。
このままではまずい。
もう一刻の猶予もない。
完成したらぶっつけ本番で攻撃に移らなければ。
俺はかき集めた素材を大急ぎで魔法庫の中へと放り込む。それからいつものようにイメージを膨らませ、作りあげたのは、
「できたぞ!」
名付けて【魔銃】――その名が示す通り、魔力によって弾を撃ち出すライフル銃だ。
前世では趣味でモデルガンをいくつか所有していたけど、まさかこうして実際に使う時が来るとは思ってもみなかった。
――なんて、感動している場合じゃない。
俺はすぐに魔銃を構える。
ここでエンペラー・スパイダーを倒さなければ、俺もダンもアンも助からない。
大急ぎで集めた素材で作ったものだから、弾は一発のみ。
だが、威力は絶大のはず。
狙いを定めて――
「いっけぇ!」
願いを込めるように叫びながら、俺は引き金を引く。
こちらの声に反応したエンペラー・スパイダーが振り向いたタイミングで着弾。
当たったのはちょうど顔の真ん中あたりだった。
一応、魔力による命中補正が入っているが、あそこまで狙い通りとは。
「っっっ!?!?!?!?」
弾は貫通し、周囲にエンペラー・スパイダーの体液が飛び散る。
のたうち回っている間に、俺は足元に落ちていた石で弾を作りだし、もう一発顔面へと撃ち込んだ。
この二発目が致命傷となり、エンペラー・スパイダーは完全に沈黙。
「やった……のか?」
我ながらフラグっぽいセリフだなぁと思ったが、特に何も起こりはしなかった。脳天を二度にわたって撃ち抜かれたエンペラー・スパイダー。そのたくさんある目からは光が消え失せている。絶命した何よりの証だ。
「そうだ! ダンは!」
冷静さを取り戻した俺は慌ててダンへと駆け寄る。
時を同じくして、パウリーネさんが俺を連れ戻すためにやってきたのだが、
「な、なんだ、これは!?」
横たわる超巨大なクモを目の当たりにして愕然としていた。
しかし、俺が無事だと分かると思わず脱力し、その場へとへたり込んでしまう。
「驚かさないでください……」
「ご、ごめんなさい」
「いえ、とにかく無事で何よりです。それより……アズベル様がこの巨大なクモを倒したのですか?」
「うん。無我夢中だったけど、生産魔法で作り出した武器を使って――って、違う! ダンが危ないんだ!」
俺は事情を説明し、すぐにイルデさんを呼んでもらうようお願いする。
あの人なら解毒魔法が使えるはずだ。
思わぬ展開となってしまったが、とにかくこの領地に迫っていた危機を脱することができたようでホッと胸を撫でおろす。
あとはあの男性が目を覚ましてくれるのを待つだけ。
未だに思い出せないけど、顔を知っているということはきっと原作【ブレイブ・クエスト】内では立ち絵が存在していた重要キャラになるはず。
一体、あの人は何者なのだろうか。
※次は20:00に投稿予定!
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