赤をまとう、女と男とオカマ

 ようやく、トリの猫ヤンキーの出番が来る。

 垂れ幕がゆっくりとあがり、メンバーがステージで背を向けてスタンバっていた。

 皆、服は違うが、それぞれに目を惹く赤い衣装をまとっている。


 軽快なSEが鳴り出すと同時に、いっせいにメンバーがくるっとステージに体を向けた。

 ズッズズズンッ。チャチャッ。ズッズズズンッ。チャチャッ。

 と繰り返すメロディーに合わせて急に五人が踊り出し、「チャチャッ」のところで手を叩く。


 メンバーのなかでひときわ目を惹いていたのは、中央で華やかに佇むボーカルだ。

 フリフリの大きく膨らんだロリィタのワンピースと合わせて、ちょこんと赤のハットを乗せているのだが、そんな大胆な服を着こなせるくらいに、メリハリの効いたボディーラインをしていた。


 くりっとした眼には、猫の目ように跳ね上げたアイラインを引いていた。その目は会場から集まる視線を捕まえ、見つめ返している。

 私たちは最前列の左からルカさんたちを見守っていた。


 SEが終わると、ロックチューンが始まった。

 歪の効いたギターが全面に主張していて、会場の空気が弾みだす。そこで、ボーカルのまぃさんが観客を煽った。


 ルカさんの眩しい笑顔と、お客さんたちの眩しい笑顔が弾けていた。横を見ると、隣のサチさんも一緒になって手を振り上げていた。

 こちらの視線に気がついてかどうか、私のほうを見てサチさんは飛び切りの笑顔を向ける。

 ほら、猫ヤンキーやっぱ凄くいいでしょ、とでも言いたげに。


 猫ヤンキーのステージも中盤を過ぎた頃、メンバーがまだ膨らんでない風船を配り始めた。

 まぃさんがしてくれた説明によると、この風船をそれぞれに膨らませて、阪神タイガースの応援の時みたいに、曲中で好きに振り回すのだそうだ。


 そして曲のサビで合図があった時に手を放し、ステージの方へいっせいに飛ばすのだという。


 配られてきた風船を手に取った時、ゴムがしっかりしていて硬そうなのがすぐに分かった。

 膨らますのに骨が折れそうだなと、弱気になる。

 だから膨らみやすくするために、私はゴムの部分をタテにヨコに何度も思い切りのばして引っぱっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る