「C62 NEKO YANKIE」

 バンドが入れ替わるみたいで、やや大きめのBGMが鳴った。

 ここの箱は、メジャーどころのバンドの曲を流している。


「次は天声あまごえさんだよね。前、行ってくる!」

「行きましょうか」


 人混みを縫って、ステージ右手の前のほうで私たちはスタンバイした。

 右の壁側を見ると、主催の「猫ヤンキー」の物販だった。猫ヤンキーのメンバーらしき人は数人いるが、ルカさんの姿は見当たらない。


 長机に視線を落とすと、ビビットピンクのCDジャケットがひと際、目立っていた。「C62 NEKO YANKIE」と、表紙いっぱいに黄色で荒々しく書かれている。


 オリジナルCDを作るくらい、ルカさんは本格的にバンドをしてることを知って私は驚いた。

 こんな凄い人が、初心者に毛の生えた程度にしかギターを弾けない私と一緒にバンドをやってくれていることが恐れ多くて、いいんだろうかと申し訳なくなってくる。


「ルカさんのバンド、CDも出してて凄いよね」

 物販に目をやっていた私に気づいて、サチさんが声を掛ける。

「ルカさん凄すぎます……」

「猫ヤンキーの曲って、ほとんどルカさんが作詞してるんだって」

「マジですか、ルカさん凄い!」


 ルカさんはドラムだけじゃなくて、作詞もするのか。ボーカルが作詞するバンドは多いけど、メインの作詞が、うちのルカさんだなんてかっこよすぎる。


「あっ、名刺とかもあるんですね」


 一枚手に取ってみると、可愛いフリーペーパーだった。

「猫ヤンキー」と、カンフーっぽい手書きの文字で書いてあった。文字の終わりには、猫の足跡のマークが添えられていて、力強い書体とのギャップがいい。


「あたし、前にルカさんのライブ遊びに行ったときにこのCD買ったよ」


 さっき見ていたビビットピンクのCDを、手に取りながらサチさんが笑った。


「私もあとでCD買いますっ」

「前、ルカさんのバンド初めて観に行ったけど、かっこよかったなぁ」


 ルカさんのバンドの番まではまだ先だけど、先走って気持ちが高鳴っていく。

 猫ヤンキーってどんなライブするんだろう。


 ルカさんは猫ヤンキーでもかっこいいパフォーマンスをするに違いないけれど、ルカさんが作詞する猫ヤンキーの曲っていったいどんな曲なんだろうと想像ばかりが膨らんでいく。


 またライブハウス内のBGMが切り替わって、女性ボーカルのJ-POPが流れ始めた。隣のサチさんは曲に合わせて歌い出した。しかも、お酒が入ってるせいなのか気持ち良さそうに踊っていた。

 ライブの合間でさえも、空気そのものを楽しんでいるみたいだった。


 こんな風にライブを楽しむような人なんだな、と私は静かにサチさんを観察していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る