四月・オカマの日

 地下鉄に乗る時にスマホを見ると、サチさんから連絡がきていた。


(さち)  なかにいてるよー

(ひかる) 遅くなりましたが今梅田です! 会場盛り上がってますか? また後で~!


 スマホのナビで調べると、到着予定時刻は二十時半だった。

 私は猫ヤンキーの出番か終わってしまっていないか内心ハラハラしながら、出来るだけ早足で会場へと向かった。


 会場に入ってなかを見渡すと、ライブハウスいっぱいにお客さんがいて、こんな企画を打てるルカさんのバンドって凄いんだなぁと驚く。

 曲の途中だから、後ろの方で見ていようとBARカウンターをうろうろしていると、隅っこにサチさんがいた。


「ひかるん、遅いよー!」

「ごめんなさいっ」

「いいんだけどさぁ。ひかるんのことだから、七時ちょうどくらいに来てるのかと思ってたよ」

「今日のイベント出る人多そうでしょ。猫ヤンキーだけ見れたらいいかなぁって思って。あと何組くらいで猫ヤンキーですかね」

「三~四組じゃないかなぁ」

「余裕で間に合ってよかった……」

「でもルカさん、ひかるんがなかなか来ないから、会場勘違いして道迷ってるんじゃないかって心配してたんだからねっ。あとでルカさんに挨拶しに行こう」


 サチさんはすっかり説教モードに入っていた。私はそれにへこへこと頭を下げる。


「そういえば、サチさんはドリンクもう頼みました?」

「うん、もう暫くしたらおかわり頼もうかなぁ」

「私もドリンク引き換えしてきますね」


 振り向いてすぐのバーカウンターでドリンクメニューを眺めていると、本日限定の梅酒が目に入った。甘くて美味しそうだったから、私はそれをロックで頼んでみた。


 梅酒を受取る時、氷が揺れて艶めいていた。

 氷同士とガラスがぶつかって涼しげな音を立てていそうだったけど、バンドの音に掻き消されて聞こえはしない。


「お帰り~」

「前行かないんですか?」

「今はいいかなぁ、次の次に女性ボーカルのバンドが出るからそれは近くで見てみたいんだけど」


 私は梅酒をちみちみ呑みながら、サチさんの話に相槌を打った。ほのかにしその香りがする甘い梅酒は、コクがあって私好みの味がした。


 やっぱりライブと言えばお酒だ。

 とあるバンドを観に行った時、ライブ中にフロントマンがビールを一気したあとに「音楽と、お酒は合うのよ」と、とろけたように笑っていたのを思い出す。


「何頼んだの?」

「今日オススメの梅酒ですよ」

「あったねぇ、あれ美味しそうだった」

「美味しいですよ、甘くてちょっとしその味がするんです」

「ちょっと味見してもいい?」

「いいですよ、どうぞ~」

 グラスを手渡すと、サチさんは少しだけ梅酒を飲んだ。

「これ、美味しいね!」

「でしょー!」


 サチさんは味見を終えたグラスを、笑顔でまた手渡す。

 この人、今楽しそうだな。きらりと光った笑顔を見た時にそう感じた。

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