文句は国王に言うものなのです。

私にとって(多分他数人にも)地獄に思えた謁見が終わり───。



 バンバンと勢いよく執務室の扉を叩く。



「いい…」


「失礼致しますわ!ご機嫌麗しゅう、国王陛下くそやろう?」


「太公よ、前よりも私の扱いが酷くなっていないか?気のせいならいいのだが。」


「気のせいですわ。そんなことよりも、先程の処遇について問いたいのですが。どういうことでしょうか?」



 きっぱりと言い切れば、国王は苦笑いした。気のせいだ。少しばかり心の中で罵倒したくなっただけで、それを表に出してはいない。

 にこにこと貴族らしく笑顔を浮かべると、彼は気まずそうに話し出した。



「いやな、昨日宰相と王子の処罰を決めたのだが、そこに王妃が介入してきたのだ。」


「宰相?ああ、片眼鏡の御方ですか。それで、王妃殿下が介入してくる前の処罰はどんなものだったんですの?」


「片眼鏡…お前、口が悪くなっていないか?いくらなんでも心が荒みすぎだろう。そんなに嫌か?私の息子は…」


「嫌に決まってます。貴方と性格も容姿も似ている甥など、可愛がる甥はレイで十分足りてますわ。」


「酷くないか!?レイもギルも変わらないだろう。」


「全然変わりますわ!それよりも、話が脱線していますのよ。」


「あ、ああ。そうだったな…。いや、場所と状況。それに貴族としてのマナー、自分の影響力を考えない行動は十分廃嫡でもおかしくないのだ。しかもティファーレ嬢をルーシェン嬢が虐めているという事実もなかった。」


「まぁ、それはよかったですわ。でも、廃嫡から何故私の元で生活することに…。王妃殿下は私のことをお好きではない、むしろ嫌いな部類でしょう?」


「自分でそれを言うか?好いてはいなさそうだが…」



 王妃殿下に関しては私も好いてはおりませんしあちらも同様。まあ適切な距離を保って接していればいいのだ。それくらいはできる。



「それでだな。王妃が廃嫡はやめてくれと懇願するものだから、更生の機会を設けることになったのだ。だが問題は何処でさせるか、となる。」


「適当な教会や他国の学園に留学とかでもよかったのでは?」


「他国はまずいだろう。マナーも危惧されている者を国の代表にはできん。教会もそうだが、貴族の家では相手が下手に出てしまうだろうな。その点、お前は身分も申し分なく何より王子の叔母だ。」



 なんとなく国王言いたいことがわかった。身分の下の者に任せるわけにはいかない。王子にへこへこと頭を下げるような相手がいては更生の意味がない。

 教会は教会で、女性ならともかく男性の例はあまりない。精神を鍛えるという面ではこれ以上相応しい場はないだろうが、出家という形になる。それはほぼ廃嫡といってもいいだろう。



「それで私ですか…王子に関しての言い分はわかりました。ですが、何故ティファーレ嬢も…」


「ティファーレ嬢に関しては男爵の許可をとっているぞ。表の理由としては“太公の元で令嬢としての教育をし、王妃に相応しいか判断する為”だ。男爵も納得してくれている。」


「表、ということは裏がありますわよね?十中八九、ティファーレ男爵家の疑いに関して、でしょうけれど。」


「その通りだ。ティファーレ嬢には悪いが、太公の元なら管理もしやすい。それに…極端な話、人質だな。」


「随分と酷なことをおっしゃいますね。つまり、こちらで人質の世話をしろと?本人も王子も何も知らないのでしょう?彼ら、二人一緒なことを運命だとか国王陛下が認めてくださったのだとか思っていますわよ。」



 あのような場で騒ぎを起こしたくらいの能天気さ。私の言ったこともあらがち間違えではないのだろう。国王もそう思っているのか、顔が引き攣っていた。



「ま、まあまあ。二人のことはよろしく頼んだぞ、太公よ。」


「まだ完全に納得はしていませんが…はぁ…仕方ありません。」



 がっくりと肩をおろすと国王は愉快そうに笑っていた。ああ、もう。謁見の間で宣言されたことを覆すのはほぼ不可能なのかもしれない。私は心底恨みったらしく睨んでやったのだった。




 ◇




 王子たちがこちらに来るのは3日後となった。すぐにでもこちらにやりたそうな顔をしていた国王には申し訳ないが、準備が到底終わりそうにないからだ。3日でも正直終わる気がしない。

 王子もティファーレ嬢も行儀見習いとして扱うことになっている。行儀見習いといえど侍女や執事のような業務より社会勉強が優先となる。勉強の一環としての職場体験、といったところだろうか。



「クロリス様、何故王子達を受け入れたのですか?」



 準備の指示、予算を組んでいるとレイがそう尋ねてきた。レイはあの場にいなかったので事情を知らないのだ。教えてもいいのだが、何処から情報が漏れるのかわからないので。



「気まぐれよ。甥とその彼女の世話を焼くことは滅多にないけれど、国王陛下に頼まれてしまったから…」


「断れる状況ではなくされてしまわれたのですね。珍しい。」



 珍しいと言われたが、私も予想していなかったのだ。それに事前に言われていたのなら断っている。事後報告とはこういうことなんだと思いながら、私は誤魔化すように微笑んだ。



 3日後の昼。王宮からの馬車が屋敷の前に止まる。馬車から出てきたのは二人の男女。

 ピンクブロンドの髪を下に二つに緩く纏めている少女。瞳は明るいブラウン。普段着のドレスにしては簡素なドレスを着ている。彼女がティファーレ嬢である。

 金色の髪に虹色にも見える銀の目。虹色に見える目は王家の証だ。私その特徴を持っている。彼も簡素な服を着ているが、ティファーレ嬢とは違い不満そうにしている。


 使用人達がドアの前で並び頭を下げている。その中央で私とレイは彼らを迎え入れた。



「お、叔母上…、いや、クロリス殿…」



 私の後ろに何かいるのだろうか。王子の顔は怖がっているように青ざめていた。私は王子の隣にいるティファーレ嬢にも目線を向けた。



「ご機嫌よう。お久しぶりですわね、ティファーレ嬢。」



 そう言ってにこりと微笑んでみると、ティファーレ嬢は歓迎されていると思ったのか嬉しそうにしている。



「あのっ!太公様ですよね、よろしくお願いしますっ!!」


「ええ、よろしくお願い致します。」



 あまり挨拶としては良くない。だが、今は注意しなくてもいいだろう。私もまだ猫を被っているのだ。周りにいるメイドがヒソヒソと話しているのが聞こえる。「あれ…ご主人様が苦手なタイプでは…」「荒れるわね、ご主人様…」「ご主人様の好物のエクレアでも用意しましょう…」

 荒れると言われたのは心外だと思った。まぁエクレアは嬉しいので良しとしよう。それよりもお喋りしているメイド達は後ろのメイド長のスミスに気がつい方がいい。私はスミス以上の笑顔で怒る人を知らない。



「ご機嫌よう。今日からよろしくお願いします。ギルベルト様、ティファーレ嬢。」



 私に続いてかタイミングがあったからか、レイも挨拶をした。何故か、ティファーレ嬢が頬を赤く染めている。

 あ、これティファーレ嬢が惚れたな、と私が思った瞬間だった。王子が隣にいるのにそれはどうなんだと思いながら私はため息をつく。


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転生悪役令嬢にざまあされたヒロインとヒーローを再教育します‼︎ @hakuginnkoutyou

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