第39話

39話


彩香の妊娠を知って次の日には彩香の両親と自分の両親のところへ行き、籍を入れるという報告を行った。



「前に挨拶しておいたおかげてスムーズに済んだな」



「そもそも妊娠がわかってからはうちにも健太さんの家にも頼って、手助けしてもらってましたからね、お父さんは多少複雑に思ってるでしょうけど、反対されることなんてありませんよ」



「それもそうか。にしてもダンジョン潜ってるとわからないけど、もう冬になってるんだな」



「そうですよ。もうすぐ12月も終わっちゃいますよ」



「せっかくだしクリスマスは一緒にでかけようか」



「良いんですか?なら気になるお店予約しておきます」



「うん、任せるよ。そういうのには疎いからね」



今後の予定を立てながらのんびりと帰り道を歩いて行く。



「そうそう、新しい技?技術?そんなのを身につけてさ、今は習熟中なんだけど、それがある程度満足できるレベルになるまでは深いところに潜らないから、こまめに帰ってくることになると思うよ」



「そうなんですか?こまめに帰ってきてくれるのは嬉しいですね。健太さんがいるととても安心できますから」



「どうせ深く潜らないなら寝るのはこっちでも良いからね、新しい技は今はまだかなりの集中力が必要で疲れるし、休む時は彩香と一緒にいた方が精神的に休めるから」



そんな話をしていると、家に着いた。



「ただいまーっと、彩香、おかえり」



「はい、ただいまです。健太さんおかえりなさい」



彩香の上着を受け取りハンガーにかけ、ソファに座らせる。



「夜ご飯はどうしよっか?ダンジョン産食材なら山ほどあるけど、食べてみる?」



「良いですね、流通しているのは浅い層の食材くらいで、健太さんが探索してるような深い階層のなんてまず流通しませんから、気になります」



「それならダンジョン産の肉を食べ比べしようか。彩香が食べきれなくても俺が食べるし、なんならアイテムボックスにしまえば良いからね」



ホットプレートを出してテーブルに置き、食器を用意する。

草原階層で倒した牛、馬、羊、鳥、猪の肉、各階層にいる竜種の肉、それらを食べやすいサイズにカットして大皿に並べていく。



「竜種の肉はどれも美味いし、こっちのは豚じゃなくて猪だけど、牛に猪に鳥、あとは馬と羊の肉だから、食べやすいと思うよ」



「どれも美味しそうですね」



「ダンジョンではまあまあ食べてるし、味は保証するよ。ホットプレートもあったまってきたし、適当に焼いていこうか」



そうして2人で滅多に流通することのない希少なモンスターの肉を満足するまで食べていった。

あまりの美味しさに彩香も普段以上に食べたようで、食後にはもう動けないと言いながらソファでだらける珍しい姿を見ることができた。



×××



「じゃあ行ってくるね、集中しすぎたらわからないけど、今日の夜か明日には帰ってくるよ」



「はい、行ってらっしゃい。お気を付けて」



久々の彩香との2人の時間を過ごした次の日、朝ごはんを一緒に食べてからダンジョンに向かう。


ダンジョンに入ってすぐ、メインのルートから外れた道に入り、少し進んだ先の広間へ足を運んだ。



「とりあえずここで良いかな」



そう呟きショートソードを取り出すと、丁寧に素振りを開始した。

感覚を研ぎ澄ませて全身の細胞を意識し身体強化、その後はゆっくり呼吸をしながらショートソードを振り上げ、タイミングをみて振り下ろす。


目標は意識せずともあの一太刀を繰り出せるようになること。

そのために黙々と素振りをし続ける。


一回振り下ろすのに約1時間はかかり、うまくいかないと数時間はタイミングが合わない。

そんな不安定さを安定させる為に、どこまでも集中していく。


その日は最終的にあまりの難易度に集中力が切れたのか、身体強化すら中途半端になってきたために特訓を終了した。


1日目の素振りの成功回数は10回もいかなかったが、初めての頃は1ヶ月以上試行錯誤していたのを考えると上出来だろうと、ある程度満足しながらダンジョンを後にして、彩香の待つ家に帰った。



「ただいまー」



「あら、おかえりなさい、健太さん。特訓はどうでしたか?」



「まあまあだったかな、とりあえずまた明日って感じ」



「そうですか、楽しそうで何よりです。夜ご飯、まだですよね?今温めますね」



「ありがとう。彩香は今日はなにをしてたの?」



「私は在宅でできる事務作業ですね。安定期に入ったので組合に行っても良いんですけど、組合長が家でできる仕事なんだから家でゆっくりしながらすれば良いって言ってくれて」



「あの組合長案外優しいんだね。まあ無理しないでのんびりすれば良いよ。そもそも彩香の仕事ってメインは俺の専属だろうしさ」



「そうですね。でも健太さんの専属って長期間潜ってる間はやることないですし、帰ってきてからも報告書作ったりドロップ品の確認したりするくらいで、結構暇なんですよ?健太さんがあまりに無視するせいで、勧誘や指名依頼もほとんど話すらこなくなって、そういった話の仲介もほぼ無いですし」



「それは俺としては面倒が減ってありがたいことだな。おっと、いただきます」



話しながらてきぱきと用意してくれた夜ご飯が出され、会話が一旦止まった。

彩香は向かい側に座ってにこにことこちらを見ている。

目が合い美味しいよとアイコンタクトで伝えると、にこにこ顔がさらに嬉しそうになる。



「彩香の作った料理はほんとに美味しいな。地上での1番のご馳走だよ」



「そんな風に言ってくれると嬉しいです。それに健太さんはとっても美味しそうに食べてくれますからね、料理を作った側としてはやっぱりそうやって美味しそうに食べてもらえるのが幸せですよ」



「明日からも夜は帰ってくるようにするよ。そっちの方が特訓もなんとなく上手くいきそうだ」



「そうですか。それなら腕によりをかけて料理を作って待ってます。何時に帰ってくるかわからないので、出来立てを食べさせてあげられないのが残念ですけどね」



「クリスマスイブとクリスマスは彩香と過ごすし、年末年始もゆっくりする予定だから、その時によろしくね?」



「はい!わかりましたっ!!」



こうして今後の予定を立て、2人で仲良く過ごしながら特訓1日目は終了した。

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