第36話

「お、久しぶりだな」


 強敵との出会いを求め密林地帯を彷徨うこと1ヶ月。

 久しぶりに別行動をしている虎と遭遇した。


 近付き撫でると、ごろごろと喉を鳴らして体を擦り付けてくる。


 強くなった。戦う。負けない。


 虎の感情が伝わってくる。



「久しぶりだし、やるか」



 そう言って殺気を飛ばすと、一瞬で距離をとり、さっきまでの飼い猫のような人懐っこさは消えて、獰猛な獣となった。



「ほら、おいで」



 先手を譲ると牙と爪を剥き出しにして飛び掛かってきた。

 軽く手を添えて受け流し投げ飛ばすが、空中でくるりと体勢を整えて着地して、もう一度飛び掛かってくる。


 残像が残るような速さでこちらの周りを移動する虎を探知で追っていると、不意に虎の反応が探知から消えてしまった。

 探知範囲を広げ、さらに目視でも探すがどこにもいない。


 探知、視覚、聴覚、嗅覚、できる限りの方法で索敵を行うが虎の存在を見つけられない。

 そして不意に後ろからのしかかられて首筋を甘噛みされた。

 どうやったのか、こちらの索敵を完全に通り抜けて接近していたようだ。


 はぐはぐと甘噛みしてくる虎を撫でていると、嬉しそうに喉を鳴らす。


 勝った。嬉しい。成功した。


 どうやら俺が見ていない間に新たな技を身につけていたらしい。

 それを使って勝てたのがとても嬉しいようで、かなり上機嫌になっている。



「なにをしたんだ?まったく気付けなかったぞ?」



 ここまで完璧な不意打ちをされたことは無かった。

 聞いてみると、俺から離れて先ほどのように周りを駆け出し、どんどんスピードを上げていく。


 そして先ほど同様、またも消えた。



「いや、全然わかんねえ、なんだこれ」



 疑問を浮かべて考察していると、また後ろからのしかかられる。


 ご機嫌な虎を撫でながら考えるが、まったくわからない。


 消える瞬間の速さは1回目とほぼ同じだった為、おそらくあの速さまで加速する必要はあるのだろう。

 だが魔力や匂い、音まで消せるのが意味不明すぎた。



「あー、わっかんねぇ!!」



 のしかかられて甘噛みされながらつい叫んでしまう。

 虎は本当に機嫌良くごろごろと喉を鳴らし続け、伝わってくる感情も喜び一色となっている。



「そのうちどうやってるのか暴いてやるからな」



 自分とは別の手段でしっかり強くなっていた虎に、悔しさを感じつつも流石俺の仲間だと誇らしい気持ちになった。



 ×××



 虎とのじゃれ合いからさらに1ヶ月が経過した。


 あまりの広さに辟易しながらもモンスターを見かけ次第殲滅し、ようやく中心部に到着した。


 そこには周囲の大木が若木だと思ってしまうほどの大きさのとてつもない大きさの木が立っていた。

 その木の枝葉が傘となって周辺は薄暗く、半端な強さの者がここに来てもその木が放ち続けている魔力による圧でまともに動けず、すぐに息絶えこの木の養分になるだけだろう。



「この木がここのボスか?」



 ここに来るまでも上の階層の竜や虎並みに強い奴もいたが、この木の放つ魔力はあまりに桁外れだった。



「とりあえず1発かましてみるか」



 素早い敵が多くしばらく使っていなかった技を使うことに決め、木に近づいて構える。

 久々に使う上にそれを使っていた時よりもかなり自分も成長しているため、正直どうなるかわからない。


 構えた拳にゆっくり魔力を込めていく。

 だんだんと拳が熱を持ち光を放つがそれすらも抑え込み圧縮する。

 前使った時こんな風になったっけ?などととぼけたことを思いながらも自分の限界を探るように魔力を操作し、制御し、圧縮していく。


 数分後、拳に集めた魔力は異常な状態になっていた。


 手首より先が黒い球体のようになった魔力で覆われている。

 その球体は制御できるぎりぎりの状態で、勝手に周囲の魔力を取り込んでいく。

 光も熱も音も吸収していき、爆発寸前だった。


 一度深呼吸を挟み、構え直す。

 綱渡りのような魔力制御をしながら、その木に対して持ち得る技術を動員し、真っ直ぐ拳を打ち出した。


 そして木に拳が触れた瞬間から変化は始まった。

 木が保有する大量の魔力を貪るように吸収して、とてつもない速さでその球体は大きくなっていく。

 数秒で制御できる許容量を軽く超えてしまい、巻き込まれかねないと全力でその木から逃げるように離れた。


 逃げる間も背後ではぐんぐんと球体は大きくなっていく。

 空気も吸い込んでいるためとてつもない向かい風に晒されながらとにかく走り続けた。


 向かい風が弱まってきたあたりで立ち止まり背後を確認すると、巨大な真っ黒な球体が木の幹に食い込むようにして存在している。


 その球体は脈打つように収縮と膨張を繰り返す。

 1分ほど経過し、収縮と膨張が止まったと思った瞬間、この階層を大災害が襲った。


 巨大な木の幹を食いちぎるように抉りながら一瞬で拳サイズまで小さくなったかと思うと、今まで圧縮されていた魔力や物質、全てのものが解放されていく。


 どれほどの圧がかかっていたのか、それなりに離れた位置にいたにも関わらず問答無用で吹き飛ばされた。

 薙ぎ倒され、吹き飛ばされた木々に巻き込まれて全身を強打しながらも必死に全身を魔力で覆い体を丸め、ダメージが最小限になるように耐え続ける。


 ようやく止まった頃には全身を血だらけにして何箇所も骨折、数え切れないほど打撲をするというかつてないほどの大怪我を負っていた。

 満身創痍になりながら自分を下敷きにしている木をどかして立ち上がると、視界いっぱいに薙ぎ倒された木々が広がっている。

 中心部から円状に広がった衝撃のおかげでどちらが中心部かはすぐにわかった。

 後ろを向くと、自分の目で見える範囲は全ての木々が薙ぎ倒されており、どこまでこの大爆発は広がったのかと恐ろしくなる。


 なにをするにしても体を治してからにしようと、薙ぎ倒された木に寝転がり、呼吸に合わせて魔力を流し、治癒力を上げていく。


 1時間後にはほとんどの怪我を治し終え、改めて中心部へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る