第35話

 草原地帯を攻略し、地上に戻り数日。



「そろそろダンジョンに戻ろうかな」



 彩香と共にベッドで横になりながらそう呟く。



「ここ数日私に合わせてのんびりしていましたもんね、そろそろだろうなと思ってましたよ」



「俺のことをよく理解してるよな、本当に」



 くすりと笑いながら言う彩香を抱きしめてそう返した。



「もしかしたらですけど、健太さんが次の探索から帰って来たら報告することがあるかもしれません。まだ確定してないので、何も無いかもしれないんですけどね」



 疑問を抱く俺に、今は気にしなくて大丈夫ですと言いぎゅっと抱きついてくる。


 ダンジョンには無い、彩香の温かさに心地良さを感じながら警戒心を解き、無防備な姿で眠りについた。



 ×××



「一回倒すと体が適応でもすんのか、随分楽になるんだよな」



 草原地帯で1日かけて全てのテリトリーを壊滅させ、密林地帯への扉を出現させた。



「にしても毎回きっちり倒さないといけないのはなかなか大変だな。訓練にはなるけども」



 いつの間にか合流していた虎を撫でながら階段を降りていく。



「よっし、それじゃあ適当に行くか。お前も気をつけてな」



 虎に一声かけて別れると、各々が探索を始める。

 視界が悪く、蒸し暑く、植物のせいで歩きづらい。


 探知能力があり魔力で体を覆っているため、視界と蒸し暑さは案外どうにでもなるが、歩きづらいのがうざったさを感じる。

 不意打ちを得意とするモンスターが樹上にいたり、擬態して待ち受けていたりするが問題なく対処しながら進んで行った。



「うーん、あんまり強くないな。まだ浅い所にいるからか?」



 どうにも物足りない。

 確かに草原地帯の竜並みのモンスターがごろごろいても大変だが、さすがに歯応えがなさすぎた。



「んんー、魔力的に濃いのはあっちか?」



 おそらく中心部であろう方角を確認し、そちらへ足を向け進んで行く。


 退屈を感じながら中心部に向けて移動して3日ほどの地点、そこには人型モンスター同士が争う光景が広がっていた。


 一切の躊躇なく争いの中心部に飛び込み、どちらの勢力もまとめて蹴散らしていく。

 数分ほど雑兵相手に蹂躙していると、2つの勢力は2つの半円を描いてこちらをぐるりと取り囲んでいた。


 どうやら普段は敵であっても第三勢力が来た時は争いを止めるようだ。


 魔力と殺気を全方位に撒き散らすと、大半が怖気付いて一歩下がった。

 だが精鋭部隊のようなもの達は逆に一歩前へと進み出て、こちらをより小さな円となって囲んでくる。


 その中からさらに強さに自信があるであろうモンスターが正面に出て来た。

 見た感じは剣と盾を持ち鎧を着たオーク。

 感じる強さは竜には及ばないものの、虎の長ならば倒せそうなほどの圧を放っている。


 技量はどうかなと接近しショートソードを振るうと、丁寧な動きで数回の斬撃をきっちり盾で流された。



「いいね、楽しくなって来た」



 ゆっくりと相手に合わせて回転を速くしていくと、かなりのところまで食らいついてくれる。

 最後はこちらの攻撃に対応が間に合わなくなり、腕ごと盾を落とし、剣は弾かれ、首を落として死んでしまったが、なかなかの技量を持っていた。


 そうして精鋭オークを倒すと、背後から追加の足音が聞こえる。


 次はもう一つの勢力であるリザードマンと呼ばれる人型トカゲが5体ほどこちらに向かって来た。

 それぞれが剣と盾を持ち、圧は先ほどのオークと同程度。


 躊躇なくその5体の中へ飛び込み、奥にいたほんの少しだけ気を抜いているリザードマンの首を切り落とした。



「後ろの方にいるからって油断しちゃだめだろ」



 前にいたリザードマンは神経を擦り減らすような集中力を見せていたが、後ろにいたリザードマンはその集中力が足りていなかった。

 一瞬で仲間がやられたのを見て危機感を覚えたのか、残る4体はより一層の警戒心と共にこちらを注視する。


 おそらく普段からこの5体は組んでいたのだろう。

 4体になったせいで僅かな穴が見られる。


 過剰なほどの魔力弾をばら撒いて牽制しながら手近な1体を標的に攻め立て、魔力弾に怯んだことによってできた僅かな時間で倒し切った。



「あと3体」



 負けることなど考えていなかったのだろう。

 残り3体となった精鋭リザードマンのうち1体が叫び声を上げながら突進してきた。

 隙だらけのその突進を避けて脚を切り裂き、体勢が崩れたところをすかさず首を落として殺す。



「あと2体」



 やけくそは通じないと目の前で見せられた2体は動揺を感じるものの比較的冷静だった。

 こちらを挟むように立つと、同時に飛びかかってくる。

 片方が首筋、もう片方は膝付近を狙って剣を振るのを確認すると、体勢を低くして首筋を狙う剣を避け、膝付近を狙う剣をこちらも剣を振ることで剣を弾いて体勢を崩し、すかさず振り向いて首筋を狙っていたリザードマンを下から切り上げた。



「あと1体」



 最後の1体はもはや相手にならなかった。

 動揺から精彩を欠き、何回か切り付けると簡単に体勢を崩してしまい、首を切って終わらせる。



「終わりか?」



 2つの種族の精鋭が軽く殺された姿を見て、モンスター達は恐慌状態に陥ってしまったらしい。

 こちらに向かってがむしゃらに突っ込んでくるものや逃げ出すもの、指揮系統も無茶苦茶になって、周辺は敵味方入り乱れる乱戦となった。


 そんな乱戦の中心部で近付くものすべてを切り伏せていくと、10分後には動くものはいなくなってしまった。



「まだまだ物足りないな」



 ショートソードをしまい、さらなる敵を求めて中心部を目指して移動して行く。

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