第34話

 雷は落ち続けているが、竜自身は雷の制御を失ったようだ。

 体に纏っていた雷も無くなり、近付きやすくなった。



「次は髭でも落としてみるか、そうすりゃ雨風も落ち着く気がするしな」



 ほとんど直感だが、感覚的にあの髭にもそういった何かを感じた。


 身体強化をし直し、全身の細胞一つ一つまで魔力を行き渡らせ、馴染ませ、攻撃の準備をしつつ、じっと観察して暴れ回る竜の口元へのルートを模索する。


 ある一瞬、口元まで一直線に道が開かれた。

 その一瞬を逃さず、音を置き去りにする速さで飛び出して髭を切り落とした。

 そのまま音速で跳ね回り続け、もう片方も一瞬の隙をついて切断する。



「なんか、慣れてきたな」



 最初はどれだけ苦戦するだろうかと思ったが、段々と余裕が出てきた。

 もちろん油断はできないし、今も下手なことをすれば一瞬でやられてしまう。

 それでもこうして見ているとどこを狙えば良いかもわかってくるし、どこに注意すれば良いかもわかってくる。



「よし、終わらせるか」



 竜の真下から飛び上がり、勢いそのままに竜の顎を蹴り上げる。

 頭部が持ち上がるのを一瞬で回り込み、踵落としを決めて今度は下に落とす。

 落ちていく竜に追撃でショートソードを突き刺し、柄頭を踏み抜きさらに下へ。

 反撃をしようとする竜の機先を制し、反撃を許さずに追撃していった。

 何度も殴り、蹴り、切り付け、回復の追いつかない速さでダメージを重ねていく。



「じゃあな、次は万全のお前を正面から倒してやるからな」



 満身創痍の竜を見据え、首に剣を差し込み、振り切った。

 数秒の後、ゆっくりと首がずれ、落ちていく。


 竜のそばから離れるた、眼から光の消えた竜がゆっくりと地面に落下していき、上空の積乱雲が静かに霧散していった。



「あああー!つかれた!!」



 地面に大の字で転がりそう叫ぶ。

 どこにいたのか、気付けば仲間にした虎がそばにいて、労わるように体を押し付けてくる。



「お前にはまだ早そうな相手だったな。鍛えてあいつにも勝てるようにならないとな」



 そう言って撫でると、ごろごろと喉を鳴らしながらより一層体を押し付けてくる。


 少し休み体を起こすと、少し離れたところに次の階層に行けるであろう扉が現れていた。



「んんー、ちらっと覗いてみてから一旦地上に戻るかな。お前も来るか?」



 立ち上がって扉に向かって歩きながら聞くと、グルゥと一鳴きして着いてくる。

 扉にたどり着きそっと手を当てると、ゆっくりと扉が開いた。

 開いた先には下に降りる階段があり、扉を潜り降りて行く。


 追従する虎に話しかけながら降りて行くと、10分ほどで階段が終わり、次の階層が見えてきた。


 階段を降り切ると密林が広がっていた。



「これはジャングルか?また大変そうだな」



 周囲にモンスターはいないようだが、様々なモンスターの声が聞こえてくる。

 温度も湿度も高く、魔力を纏ってなければ数分で汗だくになりそうだ。



「お前に取っては過ごしやすいのか?」



 虎にそう話しかけると、わくわくしたような雰囲気でごろごろと喉を鳴らしている。



「ここで過ごしてても良いぞ?俺は一旦戻るけど、どうする?」



 こちらと密林を何度か繰り返し見た後に、こちらに擦り寄ってきた。



「はは、よし、そしたら戻るか」



 そうして地上に向けて来た道を戻って行った。



 ×××



 地上に戻ると、当然だがパニックになった。

 虎が一緒に歩いてたらこうなるのかと他人事のように思いながら、案内された個室に虎と一緒に入りのんびりする。


 扉がノックされたので返事をすると、そっと彩香と組合長が入室してきた。


 寝そべる虎とそれに寄りかかり寛ぐ俺。


 そんな光景を見て2人は目を見開いて驚くが、すぐに冷静になって話し合いが始まった。



「えっと、ひとまずおかえりなさい、山村さん」



「うん、ただいま。こいつがこの前言ってた虎だよ」



「たしかに虎ですね、危なくないのですか?」



「強さで言ったら少し前の俺と同じくらい強いから、そう言う意味では危ないのかな?まあ無意味に暴れたりしないから安心して」



 組合長は絶句し、俺に慣れている彩香はジト目をしている。



「山村さん、地上ではテイムの情報で大騒ぎだったんですよ。おかげでこの組合も大忙しでしたよ」



「へぇ、お疲れ様です」



 あまり地上のことに興味が無いため他人事のように返事をする。



「それで、どうやってテイムしたかとかを詳しくお聞きしたいのですが...」



「んーと、こいつの場合は強さ比べで勝って、着いてくるか?って聞いたら繋がりができたくらいですね。強いて言うならある程度の理性というか、知性が無いとだめなんじゃないですか?」



 ここでさっきから空気になっていた組合長が話に混ざってきた。



「つまりは、低階層のモンスターではテイムは無理ってことかね?」



「知性があって、それを制することができるなら運が良ければいけるんじゃないですか?こいつは相当頭良いですよ」



 そう言って虎を撫でるとぐるぐると喉を鳴らした。



「ちなみに、その虎はなんて名前なんですか?」



 そんなことを彩香に聞かれて、思わず虎と見つめあってしまう。



「そういえば特に名前をつけたりしてないな。名前、欲しいか?」



 虎の顔を見ながら聞いてみるが、どうでも良さそうに寛いでいる。



「今回は連れて来ましたけど、基本的にダンジョンの中で過ごしてると思うんで、あんまり気にしないでも良いですよ」



 結局地上では過ごしづらそうだったので、ダンジョンに戻って虎には自由に過ごしてもらうことになった。

 このダンジョンに来る人間に、こいつを害せるような強さを持つ者はいないだろうから心配はしていないが、一応人は襲わないよう言い含めてから別れた。

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