第32話
数日ほど彩香と過ごした後はまたダンジョン探索に戻っていった。
草原地帯に入ったところから近いテリトリーを一つずつ潰して行く。
虎の長には勝てなかったが、他のモンスターは問題なく倒せている。
倒していくうちに気付いたが、どうやら十二支をモチーフにしているようだ。
今の所は辰、つまり竜だけは見ていない。
広大な草原地帯、単純にさらに遠くにいるのか、なにか条件があるのかはわからないが、今はとにかくモンスターを倒し続け、虎の長に勝てるほど強くなることを優先した。
草原地帯を移動し続けて3ヶ月ほど経った。
既に虎の長と竜以外のテリトリーを周り切り、10体の群れの長をたおしている。
途中、仲間になった虎と遭遇して戦ったり共闘したりもしたが、基本的には単独で戦った。
今は虎の長との戦いのために虎のテリトリーへ移動している。
いつの間にか仲間にした虎も並走していた。
「どっちが先にあの虎のところに着けるか競争するか?」
そう聞くと、一鳴きしてからスピードを上げ始める。
こちらもすぐに加速して追いつくと、煽るように高速で移動中の虎を軽く撫でて追い越し、飛ぶように駆けて行った。
「はい、俺の勝ち」
先に到着し、虎が来るのを待って数分ほど、遅れて到着した虎を撫でながらそう言ってやると、悔しそうに体当たりをしてくる。
負けた。悔しい。勝つ。負けない。
そんな感情が伝わってくるのでさらに撫でて可愛がった後、虎の長の方に顔を向けた。
相変わらずゆったりと横たわり寛いでいる。
周囲の虎も思い思いにのんびりとしている。
「かなり鍛えてきたぞ。今度は勝たせてもらう」
長に向かいそう言うと、尻尾をびたんと一度振り、ゆっくりと立ち上がった。
前回の遊んでいたような雰囲気が消えて、押し潰されそうなほどの圧力を放っている。
「本気を出してくれるのか?」
そう聞くと、階層中に響き渡るような咆哮を上げて突進してきた。
こちらも迎え撃つように前に飛び出し、全身を使い長の頭を抱え込むように受け止める。
高速でぶつかり合い周囲に衝撃が撒き散らされるが、俺と長は密着した状態で静止していた。
「いやぁ、やっぱやばいな」
触れたことで伝わる強さについ笑みを浮かべてしまう。
毛皮の強靭さ、その毛皮に包まれた筋肉のしなやかさと密度、さらには骨の頑強さも感覚として理解できてしまった。
「だけどな、俺も負けてないぞ?」
身体強化の強度をさらに上げ、顎に向けて全力の膝蹴りをぶちかました。
思いの外ダメージが通ったのか長は暴れ出すが、両腕を万力のように固定して頭部を押さえ込み続け、何度も何度も膝蹴りを決めていく。
これで決まるとは思っていないが、出来るだけダメージを与えておきたい。
牙が折れ、血が噴き出し、無茶苦茶に暴れようともしがみつき、顎を蹴り続けた。
不意に、長の溢れ出さんばかりの魔力が長の体内に集束していく。
そして咆哮と共に集束した魔力が長の体から溢れ出し、不可視の壁となって襲ってきた。
どんな力でしがみつこうが無意味だと言わんばかりにその魔力に引き剥がされ、距離を取らされる。
「流石に押し切ることはできなかったか」
長は口の端から血を垂らし、牙も砕けているがまだまだやれそうだ。
次はこちらの番とでも言うように咆哮を上げると、まるでコマ送りのように目の前に現れて前脚でぶん殴られた。
一切目を離していないのにも関わらず近寄って来た瞬間を認識出来なかった。
ぎりぎりでガードは間に合ったが何十メートルも飛ばされ、飛ばされた先でもまたすぐ横に現れもう一度殴られる。
ピンボールのように何度も殴り飛ばされ、何回かはガードが間に合わず直撃を貰ってしまった。
なんとか反撃が間に合い相殺できたおかげで脱出できたが、危うく死ぬまで殴られ続けるところだった。
「ここまで怪我を負ったのは久々だよ。ほんとに楽しいなぁ!!」
ショートソードを取り出し構えると、長も次は何をしてくれるんだ?といった雰囲気でこちらを見つめてくる。
長をじっと観察し、呼吸を合わせていく。
ふと、呼吸が完全に合わさった瞬間にぬるりと近付き、長の頭部へ剣を振り下ろし、片眼を切り裂いた。
さらに流れるように腹の下に潜り込み、腹部を切り、後ろ脚を切断する。
攻めの手を緩めずに長の周囲を移動しながら何度も切り付けていった。
強靭な毛皮に半端な攻撃は弾かれる為、一刀一刀を渾身の力で行った。
ずしゃっという倒れ伏す音でやっと攻めの手を緩める。
全身傷だらけの長は残った片眼でこちらを見つめ、やるじゃないかと褒めるように一鳴きした。
「あんたも、すごかったよ。またやろうな、次も勝たせてもらうけど」
そう言って首に向けてとどめの一撃を振り下ろした。
「うあー、疲れたぁあ!!強すぎだろ!!」
戦闘時間でいえば短かったのだろう。
それでも今までで1番疲れた。
ちょっとでも何かが違えばやられていたのはこちらだっただろうし、もう今日はなにもしたくないと思うほどの疲労度と満足感に満たされている。
だが、このまま休むことは許されないらしい。
とても遠くに突如積乱雲が発生し、そこからとてつもない圧が放出されている。
「ああー、竜の発生条件でも満たしちゃったか?」
そう呟くと疲労感を振り払いそちらへと駆け出して行った。
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