第28話
「あー、久々のダンジョンは落ち着くなぁ」
次の日、山村は一旦地上での用事を横に置いてダンジョンに潜っていた。
潜ってから2時間後には砂漠階層を通り過ぎ、様々なモンスターの群とその長が支配する草原階層に到着。現在は警戒しつつものんびりと歩いている。
「彩香には悪いけど、やっぱり俺の居る場所はダンジョンなんだろうなぁ」
確かに山村は村上と付き合う事になって帰る理由を見つけた。
それでもダンジョンに対する気持ちは欠片も減る事は無く、1日2日と地上に居るだけで早くダンジョンに潜りたい、戻りたいと思ってしまう。
そんな気持ちをしっかり自覚している山村は、ダンジョンに戻りたいなんてまるでダンジョンこそが帰るべき場所みたいだな、なんてことを思い自嘲してしまった。
「さーて、とりあえず一体くらい今日中に群れの長をぶっ殺してみるかな」
そう呟き、前方に見える馬群に向けて突き進んで行く。
少なくとも5kmほどは離れていたはずだがその距離を数秒で埋めると、群れの先頭に切り掛かった。
倒しても倒してもどんどん集まってくる馬をきっちり殺し、群れの長がやってくるのを待つ。
数百数千の馬を時間も忘れて殺し続けると、ついにその時が来た。
尋常でない威圧感を放つ、全身に傷痕を残す巨大な馬。
恐ろしいほどの回復力を持つはずなのに残る傷痕が、どれほど戦い抜いてきたのかを物語っていた。
「さぁて、やっとお出ましか。どちらかが死ぬまでやり合おう!!」
後ろ脚で立ち上がり身体を起こして嘶く群れの長に向けて、まずは様子見だと剣を振るう。
全力で身体強化しぎりぎりまで魔力を纏わせて振るった剣は、鋼鉄のワイヤーが詰まったような筋肉を容易く切り裂き、群れの長の体に深い傷痕を作った。
「どんどんいくぞぉ!!」
そう叫び群れの長の周囲を残像が残るほどの速さで跳び回り、どんどん傷を増やしていくが全く堪える様子が見られない。
相手もやられてばかりでは無く、触れれば体が弾け飛ぶであろう力強さで首を、身体を、脚を振り回してくる。
「結局四足歩行の動物っていうのは攻撃手段が限られるもんなぁ!慣れりゃ一方的になっちまうんだよぉ!!」
一方的に攻撃できるとは言っても相手の回復力、耐久力は尋常じゃない。
既に数時間は切り続けているが、最初に切り裂いた傷はもう治りかかっている。
別の手段として同じところを切り続けてみようとするも、そうなると回復力よりダメージが上回ってしまうのか、上手い具合に身体をよじらせて避けられてしまう。
これでは埒が明かないと違う手段を試す事にした。
相手の耐久力を突破するために、可視化できるほどの魔力を剣に込めて切り付け、相手の肉体に剣先が埋まった瞬間にその込めた魔力を解放した。
圧縮された魔力が体内で解放され、相手の肉が弾け飛ぶ。
流石に効いたのか鼓膜が破れるんじゃないかと言うほどの音量で相手が嘶いた。
「よっしゃぁ!!どんどんいくぞぉ!!!」
回復が追いつかないスピードでとにかく相手の肉を弾き飛ばして削っていく。
脚を飛ばされてまともに動けなくなり、腹部からは中身が溢れ、全身が血濡れになっても決して屈しない長に尊敬の念を抱いた。
「お前はすげぇよ、でも、俺の勝ちだ」
最後に長にそう言うと、全身全霊の斬撃を首に向けて振るう。
ゆっくりと首がずれ、落ちていき、そして群れの長は黒いモヤとなって消えていった。
×××
「おかえりなさい!山村さん!!」
1週間ぶりに地上に戻ると、綺麗な笑顔の彩香に迎えられた。
「ただいま。なかなか楽しめたよ」
群れの長である馬を思い出して笑うと、笑う俺を見て彩香も楽しめたなら良かったですとでも言うかのように笑ってくれる。
「階層は更新してないけど、かなりの強敵を倒してきたよ。傷痕だらけの馬でさ、大きさは15mくらいかな。かなりの回復力と耐久力で、この1週間のうち9割はそいつとの戦闘時間だったよ」
「山村さんが満足そうで何よりです。ドロップ品もたくさんありそうですね」
「うーん、それなりに、かな?また裏で出した方が良いかな?」
「そうですね。それでは裏の倉庫に行きましょう」
そうして2人で裏の倉庫に行き、確認作業をしながらドロップ品を出していった。
「彩香の両親への挨拶っていつだっけ?」
他に誰もいないのを確認してしれっと名前呼びで確認する。
「えっと、3日後とかどうです?一応健太さんの事は伝えてあるんですけど、日取りは帰ってきてから決めようと思ってたので」
「大丈夫だよ。3日後だね、了解。あ、新居って電気水道ガスってもう繋がってるんだっけ?」
「はい、もう繋がってますよ」
「なら彩香の仕事終わるまで待つからさ、一緒に彩香の部屋に行って荷物全部回収して、新居に行く?」
「良いんですか?アイテムボックスあると引越しが楽ちんですね。健太さんが良ければお願いします」
「了解。これで今回のドロップ品は全部かな。それじゃあ、適当に時間潰してるから仕事終えたら連絡ちょうだい」
「はい、確認しました。了解です。それでは仕事終わりにまた合流しましょう!」
そっとキスをしてから2人で倉庫から出ていく。
「それじゃ、また後ほど」
「本日もお疲れ様でした!!」
組合から出て、軽く伸びをすると、のんびりと歩いて行く。
「さて、なにして時間潰そうかな。一回家帰る方が楽かな」
そう呟き足を自宅の方へ向け、彩香との時間を楽しみに待つ事にした。
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