第27話
「良いとこ契約できましたねっ」
「そうだね、防犯もしっかりしてたし、彩香を1人にしちゃう時も安心かな」
「健太さんと一緒にいる時間が幸せ過ぎて、1人でいる時間が寂しく感じちゃいそうです」
「俺も彩香といる時間は今までにない安らぎを感じてるよ。それでもダンジョンへの思いは強くなる一方なんだよね。今だって、ダンジョンに早く行きたくてたまらない。やっぱおかしいのかな?」
そう苦笑すると、気付けば抱き締められていた。
「私は健太さんが登録した時から健太さんを見てきました。どれだけダンジョンに憧れて、どれだけの情熱を持っているか、全部はわからなくてもそれなりにはわかってるつもりです。大丈夫ですよ、健太さんは健太さんの思うようにしてください。私は地上に帰ってくる理由になれたら嬉しいんです。1人にしたら帰ってこなくなっちゃう気がするから」
抱きしめられて、彩香の心音が伝わり、彩香の優しい声が心に響く。
「そうだね、もし彩香がいなかったら、俺は多分ダンジョンの奥底を目指して、地上のことなんて忘れて、ずーっと潜り続けちゃうだろうね」
「ただ稼ぐだけならあんなに深くまで行く必要も、あんな何ヶ月も潜り続ける必要もないんですからね。それでも私が好きになった健太さんは、愚直に強さを求めて、誰も知らないとこへ突き進んで行っちゃうダンジョン馬鹿です」
「うん、彩香、結婚しよっか」
「!!?!!??!!!」
「あ、いきなりだったね、ごめんね」
「えっと、ちがくて、え、いや、嬉しいけど、え、なんで」
「探索者としての勘なのかな。彩香のこと絶対逃しちゃダメだって思ったら、つい口から出ちゃった」
「うぅ...急過ぎます...まだ付き合って数日ですよ...?」
「探索者は即決即断だからね、彩香が受け入れてくれると嬉しいな」
「えっと...よろしくお願いします...」
「うん、よろしくね。あ、ちょっと左手出して?」
そう言って左手を差し出して貰うと、アイテムボックスからミスリルのインゴットを取り出す。
「えっと、何するんですか...?」
「少し見ててね?ちょっとしたプレゼントだよ」
戸惑う彩香の前で魔力を練り上げてミスリルに干渉し、糸状に加工していく。
煌めく魔力の中でミスリルが解けるように糸状になる光景は幻想的なのだろう。
彩香がぼそっと綺麗...と呟く声が聞こえた。
糸状になったミスリルは彩香の薬指に到達すると、複雑に編み込まれながら指輪になっていく。
仕上げにより強固に練り上げ、緻密に圧縮し物質化した魔力を宝石として嵌め込んで完成。
「ふぅ、ちょっと疲れた」
「健太さん、これは...」
「結婚指輪?婚約指輪?として送りたいなって思って、即席だけど結構良い感じに出来たと思うよ」
そう言うと、耐え切れなくなったのかしがみつくように抱きついて来た。
「ありがとうございます...すごく綺麗で、すごく嬉しいです...」
「喜んでくれて嬉しいよ、その魔石は俺の魔力を彩香への想いを込めて固めたものだから、きっと彩香を守ってくれると思う」
喜び、幸せそうな顔で静かに涙を流す彩香を撫でながら、そう伝えておく。
しばらくすると落ち着いたのか、左手を掲げて指輪をじっくりと観察する彩香。
「すごく綺麗...」
「世界で一つだけの逸品だよ、彩香のためじゃなかったらやろうとも思わないくらい集中しちゃった」
「とっても嬉しいです、大事にします...」
またじんわりと涙を流す彩香を抱きしめ、優しく撫でる。
「ほら、落ち着いて?うち行く準備しよう?」
「はい...あの、シャワー浴びてきます...待っててください...」
「うん、待ってるからゆっくりしてきな」
浴室へ向かう彩香を見送り、親に連絡をしておくことにした。
電話越しで随分と驚かれたし、今日連れて行くと言えばもっと早く言えと怒られたが、それでもしっかりと祝福してくれたので良かった。
×××
夕方過ぎ、2人で家に向かって歩いていた。
「緊張します...」
「大丈夫だよ、ゆるい両親だから、リラックスして」
「無理に決まってます!御両親に挨拶ですよ!!」
緊張して強張っている彩香の手を握る。
「俺が一緒にいるから、大丈夫だよ」
「うぅ...勢いで行くって言っちゃった私の馬鹿...」
「ほら、もう着くよ」
「うああ、緊張するううう」
キャラ崩壊しかけても可愛いなぁと思いながら一緒に家に入っていく。
「お、お邪魔します...」
「ただいまー、帰ったよー。彩香はいらっしゃい」
俺の声に反応したのか玄関まで来た母親が、彩香とお辞儀合戦をするのを横目に靴を脱ぎ奥へ進むと、なんで先に行くんですか!と慌てたように彩香が付いてくる。
その後ろを母親がゆったりした足取りで追いかけてきて、リビングに入った。
「えっと、健太さんとお付き合いしてて、結婚もすることにしてて、今度から一緒に住むことになった村上彩香です!!」
「彩香、慌て過ぎだよ、落ち着こうね」
両親ですら彩香の慌てように苦笑している。
少し経てば落ち着いたのか普段通りの丁寧な彩香に戻り、両親と仲良く談笑を始めた。
「健太さんのご両親、良い方達ですねっ」
そう言う彩香は素敵な笑顔だったので安心する。
「あ、今夜は肉を食べるって決めてたから良い肉買ってきたよ。なんか適当によろしく」
母親に言うとため息を吐いてから買ってきた肉を冷蔵庫にしまいに行った。
彩香にもジト目で睨まれた。
父親は苦笑していた。
「うちはこんくらい適当で良いんだよ」
彩香に言い訳をすると、私がしっかりしてバランス取らないと、なんてぼそっと呟いている。
後日彩香の両親に挨拶し、両家で顔合わせの食事会をする予定を立て、夜ご飯のすき焼きを4人で堪能して和やかにうちの両親との顔合わせは終了した。
「緊張しました!」
家を出て少し歩くと彩香は吐き出すようにそう言った。
「最後は随分仲良くなってたように見えたけど?まあ仲良くなれそうで良かったよ。娘が増えたって感じで両親も喜んでたし」
「一人っ子の息子が健太さんだと、親としても思うところはあったんじゃないですか?孫の顔は見れないと思ってたって言ってましたよ?」
「彩香とこういう関係にならなかったらおそらくずっと独り身で最後はダンジョンの奥底で終わってただろうからね」
そんな風に自分の死すらも許容するような言い方をしたためか、彩香がぎゅっと手を握ってきた。
顔も少し怒っている。
「今はそんな風には考えてないよ?少なくとも彩香より先に死ぬつもりは無いからね」
優しく抱き寄せて撫でると、むうっと唸りながらも抱き返してきた。
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