第26話

 目が覚めると、しがみつくようにくっついて寝ている彩香がいた。

 時間を確認すると9時を過ぎている。

 起きないとなと思いながら、ぐっすり眠る彩香の髪を撫でるともぞもぞと身じろぎし、より一層密着してきた。



「彩香、そろそろ起きる時間だよ」



 そう声をかけ軽くゆするが、少し唸って反応するだけで起きてくれない。



「起きてくれないと、悪戯しちゃうよ?」



 耳元で囁くとぴくっと反応し耳が赤くなっていくが、それでも起きずに首元に顔を埋めてしがみついてくる。



「そっかそっか、それじゃあ、悪戯しちゃおうかな」



 そう言いながら裸のままの背中に手を回して、指先で背中をなぞっていく。

 なぞる度にびくっと震え、しがみつく力が強くなっていくが起きようとはしない。

 耳は真っ赤になり息も荒くなっているので起きているのはわかっている。



「彩香は甘えん坊だね」



 再度耳元で囁くとやっと起きる事にしたようで、こちらを真っ赤な顔で睨んでくる。



「健太さんの意地悪...」



「おはよう、彩香」



「うぅ、おはようございます...」



 優しく撫でながら挨拶をすると、恥ずかしそうに返事をしてくれた。



「体は大丈夫?きつくない?」



 そう聞くと昨夜の痴態を思い出して恥ずかしくなったのか毛布をかぶってしまう。



「トイレ行きたいし、先起きてるね?落ち着いたら彩香も起きるんだよ?」



 毛布の中から小さな声ではいと聞こえたので、ベッドから抜け出して寝室を出て行く。

 諸々のことを済ませて寝室に戻ると、彩香も起き出していた。



「お、ちゃんと起きれたみたいだね、改めておはよう」



「健太さん!なんでシャツ着てないんですか!!ちゃんと服着てください!!」



 どうやら明るい所で見るとダメみたいで、顔を真っ赤にさせて注意してくる。

 仕方ないのでシャツを着て、一緒にリビングへ移動した。



「まだ時間はあるけど、どうしよっか?ざっくりどんな物件が良いか決めとく?俺としては彩香の方が確実に長く居るだろうから、彩香の希望を出来る限り取り入れても良いと思うんだけど」



「そうですね、健太さん、ダンジョンにいったら長い事出てこないですもんね」



 ジト目で見てくるけど許して欲しい。



「ダンジョンに入ると時間忘れちゃうんだよね」



 堂々とそう言うとため息を吐かれる。



「大丈夫です、わかってますよ。そんな健太さんを私は好きになったんですから」



 その後は小一時間2人でどんな物件にするか、今後どうするかを話し合った。



「そろそろ出ようか。お腹も空いてきたし、何食べたいとか、希望はある?」



「んんー、強いて言うなら魚介系が良いです!夜はお肉で!!」



 昼どころか夜食べたい物までリクエストされてしまった。

 まあ良いかと了承し、手を繋いで駅前に向かう。



「まだまだ寒いですね、早く暖かくなってほしいです」



「一月だからね、しょうがないよ」



「そう言いながら健太さんってあんまり寒そうにも暑そうにもしないですよね!」



「魔力で体を覆ってるからね、基本的に環境に左右されるようなことは無いよ」



「ず、ずるいです!!こっちは冬は厚着して、夏は汗やら日焼け対策しないとなのに!」



「ちなみに花粉症にも対応してる」



「ずるすぎます!!」



「今度なんか良い感じのアイテムでも拾ったら持って帰ってくるからね」



 そう言って頭を撫でて宥めると、約束ですからねと言って落ち着きを取り戻してくれた。



 ×××



「美味しかったです!!」



 新鮮な刺身がたっぷり乗った海鮮丼を食べて満足そうな彩香。



「そうだね、また食べたくなったら来ようね。それじゃあ、不動産行こっか、ちょうど良いとこあれば良いけど」



 家賃やらの金銭面はいくら掛けても良いと考えているのでおそらく大丈夫だろうが、2人が良いと思う物件が見つかれば嬉しい。


 少し歩いて不動産に到着。



「目移りしちゃいますね」



「ここら辺だけでも結構あるもんだね。値段は気にしなくて良いから、組合と駅に行きやすくて、セキュリティがしっかりしたとこにしようね」



「ですねっ」



 というわけでいくつかの物件を候補に上げた。

 そのまま内覧までさせてくれるというので不動産屋と一緒に行く事になった。



「組合からは少し離れちゃうけど、駅から5分は良いですね。間取りもセキュリティも良い感じですし。まあ家賃はそれなりでしたけど」



「まあ金銭面は気にしなくて良いよ。かなり稼いでるし、使う時はぱーっと使わないと貯まる一方だもん」



「それは私が1番知ってますよ。健太さんの担当は私ですよ?」



 そんな会話をしてるうちに第一候補の物件に到着した。

 マンションコンシェルジュが常駐していて、警備会社もすぐそばにあり、ジムなんかも併設されたタワーマンション。



「わあー、おっきい」



 外観を見た彩香の感想に笑ってしまった。



「築3年だっけ?全然知らなかったけど、最近建てられたみたいだね」



「エントランスも良い感じですよ!とっても綺麗です!」



 うきうきしたテンション高めの彩香の手を引き、不動産屋と一緒にエレベーターに乗り部屋へ向かう。



「おおー、玄関が広い!トイレもお風呂も綺麗!!」



「もう少し落ち着こうね、確かに広いし綺麗だけどさ」



「リビングも広いですよっ景色もとっても良いです!!」



 不動産屋も彩香のテンションに笑っている。

 これは決まりかなと思いながら彩香に付き合いしっかりと確認していく。



「ここが良いです!!」



 全ての部屋や設備を見終えた彩香がそう言った。



「彩香が良いならここにしよっか。すみません、ここに決めちゃいます」



 不動産屋にそう伝え、また3人で店に戻り、契約やらの事務手続きをしていく。

 彩香に言われるがままに必要書類にサインをして、細かい事は彩香任せで手続きが終わった。



「じゃあまた後日、引っ越ししましょうね!」



「そうだね、今日はうち来る?せっかくなら挨拶しちゃおっか」



「え、えっと、はい!!一度家に帰って、準備して行きましょう!」



「なら俺は連絡しておくよ、一緒に行こうね」



「緊張するけど、楽しみですっ、仲良くなれますかね?!」



「大丈夫だと思うよ?俺の両親だもん、いろいろと大らかというか、ね?」



 そう言って笑うと、彩香もまあそうだろうなと苦笑する。



「じゃあ一度彩香の家行こっか。まだ時間はあるし、少しゆっくりしよ?」



 そうして2人でのんびり彩香の家に帰って行った。

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