第24話
夕方頃に地元に到着すると、駅で村上さんが出迎えてくれていた。
「健太さん、おかえりなさい」
優しい笑顔でそう言われ、ついどぎまぎしてしまった。
「ただいま、彩香。今のはなかなかクるものがあるね、彩香のこと守らないとなって気持ちになったよ」
すぐに平静を取り戻しそう返すと、しっかりカウンターが決まったのか顔を赤くしている。
「からかわないでください!えっと、あっちのダンジョンの詳細報告やドロップ品の確認、査定は今日やっちゃいますか?明日にしますか?」
「んーと、彩香はどっちが良い?個人的には今日済ませておいて、明日は一緒に住む物件を選びに行きたいな、なんて考えてるんだけど」
「え、えっと、私も、それに賛成です」
「じゃあ、そうしよっか。とりあえずタクシー拾って組合行って、終わったら一緒にご飯でも食べに行こう?」
「健太さん!なんだか手慣れてませんか!?」
「そうかな?彩香の前ではかっこつけてたいとは考えてるけど、彩香が初の彼女だから手探り状態だよ。何かおかしかったら言ってね?」
「普段のダンジョン馬鹿な健太さんと雰囲気が違い過ぎて戸惑っちゃうんですよっ!!」
わたわたしてる姿をやっぱり可愛いな、なんて思いながらタクシーを拾い、組合に向かう。
大量のドロップ品といきなり40階層ほど更新したため長くなった報告のおかげで、全ての作業を終えるのに9時ごろまでかかってしまった。
「お疲れ様、結構遅くなっちゃったね」
「しょうがないですよ、それにずっと健太さんを担当してきたんですから、もう慣れました」
2人で組合を出て、のんびりと歩きながら話す。
今まではダンジョンのことしか頭になかったが、こうして付き合い始めると自分の中に新たな一面があることに気付かされる。
「俺、自分でもびっくりなんだけど、かなり彩香のこと大切みたい」
なんとなくそんなふうに気持ちを伝えると、繋いでいた手をぎゅっと強く握られる。
「私だって同じですよ。最初は危なっかしいなって思って、変人だなって思ってたのが、ダンジョンに潜る前のわくわくした楽しそうな笑顔に惹かれて、ダンジョンから出てきた時の満足そうな笑顔にもっと惹かれて、健太さんのこと、大好きですよ」
いつの間にかお互いの足は止まり、街灯に照らされた夜道で向かい合っている。
大好きと言った時のふわっとした笑顔に我慢出来なくなり、つい抱き寄せてしまった。
「恋愛事って自分には無関係だと思ってたけど、実際に自分のことになると大変だね」
「そうですよ、簡単に心が動かされて、ダンジョンの外にだってこんなに刺激的なことがあるんですからね?」
年上らしい、大人びた笑顔でそう言われた。
「でもやっぱり彩香はわたわたしてるのが可愛いかな」
なんとなくくやしくなったので抱き寄せたまま唇を奪うと、案の定真っ赤になった。
「そ、それはずるいです!私がリードするんですからね!!」
「うん、よろしくね、いっつも頼りにしてるよ。そろそろご飯食べに行こう?どんどん遅くなっちゃうよ」
真っ赤な顔でお姉さんアピールをする彩香を抱きしめ、頭を撫でてから解放する。
手を繋いで再度歩き始めると、肩を寄せて腕に抱き付くようにくっついてきた。
「いつかダンジョンからも健太さんを奪ってやります」
「ダンジョンに対するこの気持ちが無くなった自分なんて全く想像できないなぁ、でもまあ、お互い焦らず付き合っていこうね」
こうしていちゃいちゃとお互いのことを話しながら歩いていると、あっという間に駅前までの数十分の道を歩き終えてしまった。
「んー、お店、どうしよっか?」
「時間も時間ですし、そこら辺の居酒屋さんで良いんじゃないですか?しっかりしたとこはお互い予定合わせて行きたいですし!」
「そうだね、それじゃあ、そこで良いかな」
目についた居酒屋に2人で入り個室に案内してもらってから、適当に注文する。
「乾杯です。今日もお疲れ様でした」
「はい、乾杯。彩香もお疲れ様」
「明日は何時ごろに不動産屋さんに行きますか?」
「んー、何時でも良いけど、せっかくなら午前中に合流して、お昼ご飯一緒に食べてって感じが良いかな。せっかくのデートだし」
「んんっ!不意打ちはやめてください!!」
真っ赤な顔で怒る彩香。どうやらデートという単語に反応したらしい。
「ごめんごめん、でも、2人で出掛けるならデートって言いたいじゃん?」
「そ、そうですけど、やっぱりまだ現実味がないと言うか、びっくりしちゃうので...」
「まあ、ゆっくり慣れてくれたら良いよ。真っ赤になるのもわたわたしてるとこも可愛いからずっと見てたいけどね」
そう言うと唸り、真っ赤な顔になりながらジトっとした目で睨んでくる。
やっぱり可愛いなぁと眺めていたが、確認しておくことを思い出したので聞いてみた。
「そういえばさ、彩香の両親への挨拶っていつ行こっか?一緒に住むならちゃんとしとかないとだよね」
「んんー、そんなに実家は離れてないですし、いつでも良いですよ?流石にいきなり明日とかって言われたらちょっとあれですけど」
「うちの両親にも彩香のこと紹介したいし、そこも調整しないとね」
「そ、そうですね、ご両親に挨拶はしたいですっ」
「彩香って、照れると吃るよね、可愛い」
「恥ずかしいからそういうこと言わないでくださいっ!」
ちょっと気持ちを伝えてみただけなのに怒られた。
「一緒にいてこうしていると、今まで本当にダンジョンのことしか考えてなかったんだなって思うよ。彩香と話せば話すほど彩香の可愛いところを知っていくんだもん」
「わ、私も、健太さんにこんな一面があること知らなかったですっ。かっこいいけど、意地悪です!」
「やだ?」
「やじゃないけどっ、どきどきして心臓が大変なんですっ」
こうして好きな人と食べるご飯はとても美味しかった。
ダンジョン内では簡単な携帯食料ばかりで、必要な栄養を摂るためにするものとしか考えていなかった。
だがここまで満たされるならもっと一緒にいろんな物を食べたいなと思いつつ、2人での食事を楽しんだ。
「ほら彩香、もう帰るよ」
「んんー、ごちそうさまでした!美味しかったです!健太さんもごちそうさまちゃんとしてください!!」
酔っているのだろう、なんだか愉快なテンションになっている。
「はいはい、ごちそうさまでした。お会計はしたので、お店出ますよ」
「はい!手、繋ぎましょう!」
手を繋ぎながら夜道を歩く。
横を見るとご機嫌に鼻歌なんか歌いながら歩いている彩香がいる。
「家まで送るけど、どの辺?」
「わあ!送り狼されちゃう!!こっちですよっ!!」
「だいぶテンション高いですけど、明日恥ずかしくならないですか?」
「大丈夫なのです!!」
キャラが違い過ぎてちょっと戸惑うが、楽しそうなら良いかなと見守り、案内されるがままに一緒に歩いていく。
途中で疲れたと言い出し、おんぶして20分ほど歩くと、腕をばしばしと体に当たるのも構わず振り出した。
「そこのマンションです!さあ、向かってください!!」
「はいはい、わかりましたから落ち着いてください」
おんぶのまま器用にカードキーを取り出し自動ドアを開けると、そのまま進行方向を指差しながら進めー!なんて言ってる。
エレベーターに乗ってる間もご機嫌なまま部屋の前に到着した。
「到着したよ。ほら、降りて?」
「んんー、このまま!」
そう言うとまたもおんぶのまま部屋の鍵を開けて入室を促してくる。
多分帰ってほしくないんだろうなとは思うが、デレるところが見たいのでこちらからは何も言わない。
「おじゃまします。ほら、靴脱がないとだから、降りて?」
「健太さんは私と離れたいんだぁ...」
すごく語弊のある言い方をしてくる。
「一緒にいたいなら素直にそう言ってくれたら良いんだよ。ほら、どうしたいの?」
「一緒にいたい!一緒に寝るの!」
東京の時が酔ったふりだったのがよくわかるテンションの高さに、可愛いなぁと思いながら玄関に一度降ろして、靴を脱がせる。
自分も靴を脱ぐと彩香を抱き抱えて部屋に入って行く。
「改めておじゃまします。彩香はおかえりなさい」
「はい!ただいまです!!」
随分と嬉しそうな笑顔に、ついこちらも笑ってしまう。
抱っこしたままソファに座り、優しく撫でているとしばらくして落ち着いたのか静かになった。
「少し酔いが覚めてきた?」
そう聞くと、抱きつき顔を隠したままこくんと頷いた。
「恥ずかしくなっちゃったかな?俺としては可愛い彩香を見れたから全然気にしないよ?」
耳まで赤くしながら小さく腕を振りばしばし叩いてくる。
その腕を捕まえ指を絡めながら手を握ると、少しの抵抗の後おとなしくなった。
「ずっとこうしてたいなとは思うけど、もう夜も遅いし、お風呂入ってきな?」
そう言うと弱々しく首を振り、ぎゅっと抱き付く腕を強めてくる。
「帰らないでちゃんと待ってるから、ね?」
しばらくぎゅっとくっついていたが、ゆっくりと起き上がろうとしたのでその補助をしながら体を離す。
「いいこいいこ、ちゃんと待ってるから、ゆっくり汗流してきな?」
優しく撫でながらおでこにキスをすると、うぅーと唸って顔を真っ赤にさせながら、恐らく浴室がある扉に逃げるように向かって行った。
「やっぱ可愛いなぁ」
小動物のような行動にほんわかした気持ちになりながらソファに座り直す。
時間潰しにゆっくりと体内魔力を循環させながら瞑想していると、風呂上がりでさっぱりした寝巻き姿の彩香が、ソファ越しに後ろから抱きついてきた。
「お風呂出ました。健太さんも、お風呂どうぞ」
「うん、そうさせてもらおうかな」
「シャンプーとかは、置いてあるの好きに使っちゃってください」
「了解です。ゆっくり待っててね」
立ち上がり、彩香をさらっと撫でて浴室へ向かう。
ささっと全身を洗い、10分ほど湯に浸かってから出ると、彩香は細々とした片付けをしていた。
「お風呂ありがとうね、さっぱりしたよ」
その声に反応してこちらを向いた彩香は、すぐに顔を真っ赤にさせて慌てたように顔を隠した。
「なんで!服着てないんですか!!」
「お風呂上がりって暑いからね、そんなに見苦しくはないと思うんだけどな」
「た、確かに筋肉とかすごくてかっこいいですけどっ、じゃなくてっ、火照った体がすごくえっち、でもなくてっ!」
慌て過ぎて心の声ががっつり漏れていた。
ゆっくり近付くとぺたんと尻餅をつき、口をぱくぱくとさせている。
そっと手を伸ばして顎に手を添え、優しく唇を合わせると許容量を超えたのか動かなくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます