第23話

 どうにも攻め切れない。

 どうにか一体目は倒すのだが、そうすると杖持ちが倒したゴブリンを復活させてしまう。

 杖持ちは自分がやられたら終わりだと理解しているのか、全く攻めっ気を出さず防御に集中し、他のゴブリンもしっかりカバーに入る。



「んんー、どう攻めるかなあ」



 強敵との戦闘は楽しい。

 いつまでも続いたら良いのにと思う気持ちを抱きながら、攻略法を考える。



「リスク覚悟で杖持ちぶっ殺すしかないか」



 そう覚悟を決め、全身の魔力を限界近くまで活性化させ身体強化をすると、音を置き去りにして杖持ちへ突貫した。

 ゴブリン達は反応はしたが一歩遅れてしまった。

 杖持ちの心臓部にショートソードを刺し込み、そのまま頭蓋を断ち切らんと切り上げる。

 切り上げたところから再度真っ直ぐ振り下ろし、杖持ちを真っ二つにした。


 なんとか杖持ちを殺したが、横からの衝撃で吹き飛ばされる。

 受け身を取りすぐに起き上がると目の前に矢が迫っていた。

 体をひねりなんとか避けるが、既に剣持ちと素手のゴブリン2体がそれぞれ怒りを込めた一撃を繰り出してきていた。

 ショートソードで剣を、手のひらで拳を受け止めるが、体勢が悪く再度吹き飛ばされてしまった。



「楽しいなぁ!もっと苦戦させてくれぇ!!」



 楽しくなってきてつい叫んでしまう。

 魔力弾を狙いもつけずにばら撒き、牽制も兼ねて砂埃を起こし、一瞬で数十メートル離れた弓持ちゴブリンへと迫った。

 ゴブリンを狙ったものは盾持ちに吸収されてしまうが、狙い通り目眩しはできた。

 一太刀目で腕ごと弓と弦を切り裂き、二太刀目で腹部を切断、三太刀目で首を切り落とし、弓ゴブリンを一瞬の三連撃で殺す。


 振り返ると少し離れたところで残りの3体が武器を構え、立っている。

 その目はよくもやってくれたなと憎悪で染まり、空気が歪むほどの魔力を全身から溢れさせていた。



「おいおい、殺し合いなんだから、恨むのは筋違いだろ?」



 返事は無く、そもそも言葉が通じるのかもわからないがつい言ってしまう。


 そんな言葉が合図となったのか、3体は歓声を掻き消すほどの叫び声を上げてこちらへ迫ってきた。

 5体が3体になったことで楽になると思ったが、連携は衰えることなく三位一体となって襲ってくる。

 休む間もなく盾が、剣が、拳が、こちらの命を奪わんと迫ってくるも、それをかわし、受け止め、いなしていく。


 1秒が数分にも思えるほどの集中力でゴブリン達の攻撃を捌いていると、チャンスが訪れた。

 有効打を与えられない事に焦れたのか、攻撃に隙間が生まれる。

 その隙を逃す事無く、剣持ちと盾持ちがカバーできないよう位置を調整し、素手ゴブリンの腕を切り落とし、さらに腰から肩にかけてを深々と切り裂いた。


 それに動揺したのか連携が乱れたため、追撃の一撃で素手ゴブリンの首を切り、殺しきる。

 そのまま盾持ちゴブリンに向かい、盾に向かって全力でアッパー気味の一撃をぶちかまし盾持ちを吹き飛ばすと、数秒ほど剣持ちとの一対一の時間が生まれた。

 目で追えないほどのスピードでお互いに剣を振るが、連携の取れない一対一ではこちらに分がある。

 すぐにこちらの攻撃についてこれなくなったので、剣を絡めて弾き飛ばし、一息に首を切り落とした。



「さて、後はお前だけだな」



 盾を構えて受けの体勢になっているゴブリンに向かって言うと、ゆっくりと近付いて行く。

 ゴブリンは叫びながら盾を突き出してくるが、その盾に向けて振りかぶった拳をぶつけた。


 もうダメだと理解しながらもまったく諦めていない目をしたゴブリンを見ていると、ついつい楽しくなって笑顔になってしまう。


 どんな攻撃だって受けてやると言わんばかりに構えた盾に前蹴りをぶちかまし、さらに後ろ回し蹴り、そのまま密着するような距離で四肢を使い攻撃を繰り返す。

 数分もすればダメージに耐え切れなくなったのか盾を落としてしまった。

 両腕をぶらんと下げ、もうどうしようもないとわかっていながらも眼だけは死んでいない。



「なかなか楽しかったよ」



 そう呟き、なんの抵抗もできない最後の一体の首を切り落として戦闘を終わらせた。


 5体のゴブリンを倒すと入ってきた扉とは逆側の扉が勝手に開き、観客席にいたゴブリン達は煙のように消えてしまった。

 中心部には魔石が5つと剣、盾、弓、杖、小手が落ちている。



「んんー、それなりに楽しめたし、一旦帰るかな」



 ドロップ品を拾い、来た道を戻って行く。



「こっから先はまた今度だな。また来るよ」



 入ってきた扉の前で振り向きそう言うと、帰路に着いた。



 ×××



「帰ってきましたよー」



 ダンジョンから出てすぐ村上さんに電話をかけた。

 もう村上さんは普段潜るダンジョンの方に戻っているそうなので、適当に帰還報告とドロップ品の確認をしてもらえと言われた。


 言われた通りにしたのに組合長の部屋まで連れてこられた。



「もう一度言ってもらえるか?何階層まで行ったって?」



「131階層ですかねー、なかなか楽しめました」



 そう言うと頭を抱え出した。



「村上から報告は受けていたがこれほどとは...詳細とドロップ品の確認やら査定は村上を通してやってくれれば良い、とりあえずご苦労だったな...」



「いえいえ、じゃあ帰りますね」



 そう言って退室し、また村上さんに電話をかける。



「あ、もしもしー、なんか組合長?が、今回の探索の詳細報告やらドロップ品の確認や査定は全部村上さんにって言ってたんで、とりあえず帰りますね?早く会いたいですー」



 最後の一言でなんだかあたふたしたのを電話越しに感じながら電話を切る。


 新幹線のチケットの買い方で少し手間取ったが無事購入し、なんとかその日のうちに地元に帰ることができた。

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