第22話

 次の日、朝早くに起き出し、野営道具を片付けてダンジョン探索を再開した。

 洞窟風のダンジョン内を進んで行くが、未だ苦戦するようなモンスターは出てこない。

 さくさくと進み9時ごろには110階層に到着した。



「さーて、階層主はどんなやつかな」



 多少は苦戦するようなやつなら良いなと思いながら扉を開き、階層主が待つ部屋に入って行く。



「こいつは、ミスリルか...?」



 そこにいたのはミスリルでできたゴーレム、名付けるならそのままミスリルゴーレムだろうか。

 ファンタジー世界では代表的な金属で、現在でもダンジョンから入手するしかないためとても貴重だったはず。

 そんなゴーレムがこちらを認識し、予想以上に軽快な動きで接近してきた。


 いくら軽快な動きといっても所詮はゴーレムなため簡単に距離は取れる。

 しばらく様子を見てみるがどうやらパンチやキック、体全体を使ったタックルくらいしかしてこないようだ。

 しかし流石ミスリルと言うべきか、こちらの魔力弾はあまり効いた様子がない。



「よし、殴り合うか」



 伝わるわけが無いが、ゴーレムに向かってそう言うと、ゴーレムのパンチに合わせてこちらも拳を握りしめて振り抜いた。

 金属と金属がぶつかり合ったような凄まじい轟音が部屋中に響き渡り、つい顔をしかめてしまう。



「まだまだ苦戦できそうにないな」



 目の前のミスリルゴーレムは片腕が吹き飛び尻餅をついていた。

 顔は無いが頭部はこちらに向いている。

 まるで理解できていないような戸惑いをなんとなく感じてしまうが、相手の力量はだいたい把握できたので、倒すために近付いていく。


 片腕が無くなったことでバランスを取れず、うまく立ち上がれないゴーレムに飛び乗り、胴体ど真ん中に拳を振り下ろした。

 それがとどめになったのか、およそ100kgほどのミスリルインゴットと魔石を残して消えてしまった。



「んんー、一応強いんだよな?魔法は効かないし物理にも強いし、スライムに引き続いて耐久力特化って感じだな」



 ドロップ品を拾ってアイテムボックスにしまい、先へ進む。



 ×××



「なんか、強いってより耐久力高めだから攻撃力不足で進めてなかったって感じなのか?」



 気付けば130階層に到着していた。

 120階層もどうやって飛んでるのかわかんない金属製のグリフォンだった。

 背中に飛び乗ってぶん殴って墜落させて、そのまま殴り続けてたら死んでしまった。



「さて、どんな奴が待ってるかな」



 扉を開けると階層主の待つ部屋は真っ暗だった。

 気にせず入って行き背後の扉が閉まると、一切光のない暗闇に包まれる。



「普通に暗いだけなら問題ないんだよなぁ」



 既に視界がまったくない状態でも普段通り動けるように訓練してある為、なにやら四足歩行の獣らしき存在がこちらを狙っているのも感知している。

 感知で動きを追っているとふとその獣が消え、突然背後に現れた。

 飛び掛かられたので反射的に蹴り倒すと、また消えてしまった。

 どう消えてるのかはよくわからないが、ただでさえ何も見えない中で転移のようなことをされると、普通なら何もできずにやられるだろう。



「んー、殴った感じそこそこ強いかな」



 これは時間がかかりそうだと気を引き締め直し、より集中していく。


 また気配が現れたと思ったら、今度は左右に一つずつの二つの気配が飛びかかってきた。

 右側の奴がこちらに威圧感を出し、左側の奴は逆に暗闇に溶け込むように静かに迫ってくる。

 恐らく右側の奴に意識を集中させて、その隙にもう一方が仕留めるつもりなのだろう。


 右側の奴はショートソードを逆袈裟で切り上げ、左側の奴には回し蹴りをくらわせ距離を取る。



「んー、こっちから攻めたいけど、消えちゃうからなぁ。どうしよ」



 この程度なら何体で襲ってきても問題ないし、何日だって相手にできる。ただ絶対飽きる。

 強いは強いが搦め手で襲ってくるタイプで、基礎的な強さではこちらが有利。



「とりあえず気配を察知したらこちらから攻撃しまくるか」



 今度は前後左右で4体現れた。

 すかさず正面のやつにむかって殴り掛かり、逃がさないように首を掴むと顔面を何度も殴打する。

 殴打してる最中に残りの3体も襲ってくるが、魔力弾で牽制して近寄らせない。

 敵がぐったりするほど殴打を繰り出した後に両手を使い首を捻り切ると、そいつは消えていった。

 残りの3体も同じように倒していき、4体全てを殺し切った。


 その後も8体、16体と倍々で増えていく。

 敵の強さは把握できているので、後は取りつかれて動きを止められないようにだけ気を付けて、とにかく殲滅していく。

 何回目か、およそ500体がこの真っ暗な広間にいるという逆に相手の方がやりづらそうな数を倒し切った時、部屋に明かりがついた。



「やっと終わったか、単純にめんどくさかったな」



 ただただ時間がかかった。

 普通の探索者が遭遇したら多分途中までは倒せても最後は圧殺されて終わりだろう。


 少し休憩した後は、また先へ進む。

 階段を降り切ると、そこは闘技場だった。


 踏み固められた砂の地面が円状に広がり、直径はおよそ100mほど、周囲は高さ5mぐらいの壁に囲われて、その上は誰もいないが観客席のようになっている。

 自分が入ってきた場所とは真反対の場所にも扉がある。


 中心付近まで進むと目の前に魔法陣が出現し、そこからゴブリンが5体ほど出てきた。

 その5体のゴブリンの出現に合わせて観客席もゴブリンで満員になり、空気が震えるほどの歓声が闘技場中に響き渡った。


 ゴブリンは剣、盾、弓、杖、素手とそれぞれ違った装備をしている。


 盾を持ったゴブリンの背後に剣と素手のゴブリンがおり、さらに背後に弓と杖のゴブリンが立つ。


 様子見の一撃として魔力弾をばら撒くが、先頭の盾持ちゴブリンの盾が光ったと思うと、ばら撒いた魔力弾が盾に吸い寄せられ吸収されていった。



「最近魔力弾がちゃんと効く奴少ないな...」



 ショートソードを取り出し、一息で接近すると盾持ちに切り掛かる。

 しかし、お手本の様な綺麗な動きで受け止めいなされ、さらにシールドバッシュをしてきた。

 それに対してカウンターで蹴りをお見舞いしようとしたがすぐに止め、バックステップで盾から離れると同時にシールドバッシュに合わせて放たれた矢を掴み取る。



「そりゃ相手は5体だもんな、連携してくるよな」



 盾持ちとの一瞬のやり取りの間に残りの4体は散会し、こちらを囲んでいた。



「楽しくなってきたなぁ」



 歯を剥き出しにしながら凶悪な笑みを浮かべ、魔力を漲らせながらゴブリンに飛びかかっていった。

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