第21話
「では、私は帰りますね?講習会も探索も、気をつけてくださいね?」
「うん、どんくらい潜るかわからないけど、適度に満足したら帰ってきますね」
「はい、お気をつけて」
そう言って村上さんは帰って行った。
探索者じゃない村上さんはダンジョンに入れない為仕方ないが、なんとなくさびしさを感じる。
「それではダンジョンに入ります!ついてきてください!!」
組合所属の探索者に誘導されぞろぞろとダンジョンに潜っていく。
「少し進んだところに広間がありますので、そこまで進みます!!」
感知を広げるとモンスターはほとんどいない。
おそらく前もって駆除しておいたのだろう。
この団体以外にも何組かの探索者が広間周辺に待機している。
「それでは新人講習会を始めます!」
端の方でぼーっと突っ立って講習会を眺める。
ベテランっぽい人が話したりしてるけどほとんどの内容が右から左に流れていく。
村上さんとはどんなことを話すかなんてやり取りもしたけど、めんどくさくなったので全部他の人にぶん投げて知らんぷりをした。
1時間ほどで上位探索者の話が終わり、模擬戦の時間になった。
最初は新人探索者対上位探索者らしい。
今回選ばれた新人達は格闘技やら武術を習っている人も多いみたいでやる気満々。
早速始まったが当然のように上位探索者にあしらわれている。
上位探索者はあしらいながら注意点なんかを伝えて、模擬戦というより稽古って感じだった。
めんどくさかったが呼ばれてしまったので前に出る。
「よろしくお願いします!!」
「はいはい、お好きにどうぞー」
新人君はやる気がすごいなぁと思いながら、一応軽く魔力を漲らせてどんなことにも対応できるようにしておく。
真っ直ぐに走ってきた新人君の剣が振り下ろされるが、そっと剣の腹に手を添えて剣を逸らす。
「ほい、これで死亡」
そう言って首筋に手刀を添える。
新人君は一度引き、再度構え直す。
「人に物教えるほど賢くないから、満足するまで好きなだけ打ち込んでおいで」
そう伝えると、一息で接近して今度は剣を横薙ぎに振るってきた。
「お、今のは気合いも入って良い感じだね」
そうは言ってみたが、こちらからしたら大した攻撃ではない。
魔力を込めた手刀で受け止め、弾き返す。
「ほらほら、驚いてないでどんどん攻撃しないと」
その後5分ほどだろうか、新人君の攻撃をいなし、かわし、受け止め、思う存分攻撃させた。
「んー、俺が探索者になった時よりは強いんじゃないかな?毎日ダンジョンに潜って死ぬほど鍛えればSランクくらいなら多分なれるよ」
膝に手をつき肩で息をする新人君にそう言い、広間の中央から離れる。
後ろから息も絶え絶えな感じでお礼が聞こえたので軽く手を振っておいた。
2時間ほど新人探索者対上位探索者の模擬戦改め稽古が行われた後、希望者による模擬戦が始まった。
あまりやる気は無かったが何人かの上位探索者に指名されたため、嫌々ながらも相手をすることになってしまった。
正直そんなに強くなかったし、名乗ったりしていたがすぐ忘れてしまうだろう。
新人君を相手にしていた時の焼き回しのようなやり取りを数回して、疲れたと言って端の方に行く。
早くこのダンジョンの奥に行きたいなーなんてことを考えながら模擬戦を眺めていた。
1時間ほどだろうか、模擬戦も終わり、進行役の探索者がこれで新人講習会を終了します、なんて宣言をしている。
その言葉を待っていたとばかりに進行役の探索者にそれじゃあ俺は行きますねと伝え、ダンジョンの奥に向かった。
×××
「まあいつものダンジョンより強いと言ってもほとんど誤差だよな」
念の為普段よりゆっくりめに降りて行ったが、2時間ほどで80階層に到着した。
今は既に階層主であるドラゴンも倒して小休止をとっている。
「最高到達階層は89階層だったか?90階層の階層主がなんかやっかいなのかな」
初見の方が楽しいなんて理由で下調べをほとんどしない為、何が待ち受けているかはわからない。
軽い足取りで進んで行き、80階層を出て1時間後には89階層の奥へ到達していた。
階層主の扉を躊躇いなく開けると、そこには10mほどのスライムがいた。
「スライム...?ドラゴンの次が、スライム...?」
とりあえず魔力弾を撃ってみる。
直撃したかと思ったらそのまま吸収されていった。
ショートソードを振って斬撃を繰り出してみるも切れはするがダメージを与えたようには見えない。
切れたところも瞬時に元通りになった。
「魔力吸収に物理無効か?めんどくさそうだな...とりあえず攻撃してみるか、吸収や無効にも限界があるだろうし」
スライムの周囲をまわりながら、スライムが反応できないスピードで切り付け、物質化するほどに圧縮された魔力弾を乱射し続ける。
最初は吸収され、いくら切っても無反応だったが、どちらの攻撃が効き始めたのか、5分ほど経つと様子が変わってきた。
ぷるぷると震えて、攻撃から逃げようとし始めた。
当然逃すこともなく攻撃を続ける。
体の一部を伸ばして反撃しようとするスライムだが、速さにまったく追いつけず空振りを繰り返す。
さらに10分ほどで、限界が訪れた。
震える体が崩れ始め、魔石を残して消えてしまった。
「ただ耐久力がすごいだけだったな。まあある程度の攻撃力が無いと一生倒せないって考えるとドラゴンよりやっかいなのか」
特に疲れるような相手でもなかったのでそのまま先へ進む。
その後も順調に進んで行き、夜の9時ごろには100階層に到達した。
扉を開けて部屋に入ると、階層主が待ち構えていた。
艶のある滑らかな毛並み、射殺さんと睨みつける鋭い眼差し、全てを容易く噛みちぎるであろう牙、そして三つの首。
「ケルベロスか...」
三つの犬の頭が唸りながらこちらを睨む。
魔力を見るとそれぞれの頭が火と氷と風の魔力を口の端から溢れさせている。
「3種のブレスでも吐くのか?めんどくさいな、さっさと仕留めよう」
ケルベロスが反応する間もなく、接近すると三つの首を切り落とす。
「強いは強いけど、まだまだ余裕だな」
普段潜るダンジョンではもっと強い相手と戦っている。
いくら強いと言っても普段の相手よりは弱いため特に苦戦することもなかった。
「良い時間だし、今日はここで休んでまた明日かな」
のんびりと野営の準備をし、夕飯を食べ、その日の探索を終了した。
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