第20話
起きると隣で村上さんが寝ていた。
ちょっとだけ無理をさせたかもしれない。
基礎体力の差が出たのだろうか、まだ時間があるしもう少し休ませてあげよう。
目を閉じて体内の魔力を循環させて時間を潰していると、村上さんが起き出したのを察知する。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
そう聞くと顔を真っ赤にしながら布団を被ってしまった。
静かに見ていると目から上を布団から出し、じっと見つめ返してくる。
「えっと、おはようございます...」
「体は大丈夫ですか?起きれます?」
「まだ少し違和感が...でも、大丈夫です...」
今までは全く意識してこなかったが、意識して見ると小動物のようで可愛い。
つい手を伸ばして撫でてしまった。
「な、なんですかっ」
撫でるとわたわたぷるぷると反応するのが面白くて、その反応を見たくてつい撫でてしまう。
「そろそろ起きた方が良いんじゃないですか?シャワー浴びてきますか?」
「そ、そうですね。えっと、目を閉じててくださいっ」
そう言うとベッドから抜け出し脱衣所に小走りで駆けていく。
ぷりっとした可愛いお尻だなぁとその後ろ姿を眺めて見送り、自分も準備しないとなと身支度を済ませる。
十数分後にはバスタオルを体に巻いた村上さんが出てきた。
「あの、着替え、隣の部屋...」
「あー、とりあえず俺の服着てください」
アイテムボックスからズボンとパーカーを取り出し渡すと、また脱衣所に入って行った。
「じゃあ、準備できたら呼びにきますので、待っててくださいねっ、そしたら一緒に朝ごはん食べて、現地に向かいますっ」
「了解です。のんびり待ってますね」
「ではまた後で!」
そう言うと昨日着ていた衣服を抱えて部屋を出て行った。
「なんか、びっくりだな、自分にあんな可愛らしい恋人ができるなんて」
初恋の記憶はあるが、ダンジョンに魅入られてからはなによりもダンジョンを第一に考え、恋人が欲しいと思ったことも、異性を好きになったこともなかった。
だが昨日の告白を受けた時には自分でも驚くほど心が動かされた。
「どうなるかはわからないけど、自分なりに大切にしないとな」
そうやって自分の気持ちを整理していると部屋がノックされた。
「お待たせしました!では行きましょう!」
どうやらあちらも気持ちの整理をある程度してきたらしい。
いつも通りの村上さんに戻っていた。
なんとなくまた撫でてみた。
「な、なんですか!早く行きますよ!!」
やっぱり可愛い。
顔を真っ赤に染めながら先を歩く村上さんに、つい笑ってしまった。
真っ赤な顔でキッと振り向き睨む姿にまた笑い、横に並んで手を握った。
「じゃあ、行きましょうか」
唸りながらも手をぎゅっと握り返してくるあたりやっぱり可愛い。
「今日の講習会はどんな流れで進行するんでしたっけ?」
「最初は開会式ですね。選ばれた新人探索者と上位探索者、あとは関係者が集まって表向きの講習会のあれこれを話したりします。探索者の紹介などもしますね。マスコミも入っているので、撮影とかもあると思います。その後はバスでダンジョンに向かって、上位探索者の方にダンジョン内での注意点等を現場目線で話してもらいながら実地訓練、あとはレクリエーションとして模擬戦なんかを行います。夜には参加した人たちで立食形式でのパーティですね」
「やっぱめんどくさいなぁ、あ、パーティ以外はちゃんと参加しますから、そんな顔しないでくださいよ」
めんどくさがるとジト目で睨んでくる。
「ご飯も食べ終わりましたし、会場に行きますよ!け、健太さんを遅刻させるわけには行きません!!」
そういえば昨夜は名前で呼び合ってたなと思い出す。
名前を思い出せなくて聞いたら首を噛まれたけど、ちゃんと教えてもらえた。
「ん、彩香には頼り切りで、助かってるよ」
改めて名前で呼び合うのに照れているのだろう、随分と真っ赤な顔をしている。
「公私は分けますからね!会場着いたら山村さんって呼びますから、私のことも村上って呼ぶんですよ!!」
「そのうち2人とも山村ですね」
悪戯心でそう言ったら顔を伏せてぷるぷるしてる。
髪の毛の隙間から覗く耳や首が真っ赤で可愛い。
×××
開会式が行われている。
壇上で何か話しているが全く耳に入らない。
周囲にいるSランクやAランクの探索者の様子を伺うと、真面目に話を聞いている者や寝てるっぽい者等がいる。
新人の方はみんな緊張しているのか随分と固い様子。
周囲を観察していたらどうやら話が終わったらしい。
司会者が次は探索者紹介ですとか言っている。
一人一人の名前が呼ばれていき、俺の名前も呼ばれる。
無反応の人もいたし俺もそれでいいやと目を閉じてスルーしてみた。
なんだかざわざわとしていたが、数秒後には次の人の名前が呼ばれ、そのまま探索者紹介は進行していった。
現在はバスに乗って移動中。
「なんか俺の名前呼ばれた時ざわざわしてなかった?」
ちゃっかり隣に座っている村上さんに聞いてみた。
「山村さんが前に撮ってきた動画のせいですよ!ほら、あの高校生の時の!」
「ああ、あの騒ぎになったやつ。それがなんで?」
「組合から情報を出して表面上は落ち着きましたけどねっ、あれのせいで山村さんの名前はすごく広まったんですよ!それに山村さん滅多に表に出ないじゃないですか!」
なんか知らんがそういうことらしい。
名前だけが広まって顔は知られてないおかげで、視線はあまり集まっていないようだ。
「多分ですけど、模擬戦の時とか指名されると思いますよ」
「まあそれくらいなら良いですよ。騒がしくなるようならしばらくダンジョンに篭りますし」
「ちゃんと、帰ってきてくださいね...」
「そうですね、彩香が待ってますもんね」
「...ばか...」
ぼそっと呟くように罵倒され、腕をぺちっと叩かれた。
攻められると弱くて可愛い。
「後どれくらいで到着ですかね?」
「んー、道が混んでるみたいですね。それでもあと15分くらいじゃないですか?そんなに遠くないですから」
「寝るには短いですね。あ、そういえば新人探索者に何を教えたら良いんですかね?」
「山村さんがダンジョンに潜り始めた時に気をつけていたこととか話せば良いんじゃないですか?」
「んー、なんか気をつけてたかな。スキルに騙されて走り回ってた記憶しかないな」
「ああ、あの嘘吐き鑑定ですか、あれはなんだったんでしょうね」
「よくわかんないですよね。まあダンジョンなんてわからないことだらけですけど」
「ずっと1人で潜って、どれだけ私が心配していたか...」
「村上さんに探索者登録してもらって、知り合って4年いかないくらいかな?こんな関係になるなんてなぁ」
そうして話しているとやっとダンジョンに到着した。
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