第18話
「え、取材?嫌ですよ、めんどくさい」
夏の暑さも和らいできた頃、村上さんから取材の申し込みがきていると言われた。
「私も山村さんが了承する可能性はとても低いですって言ったんですけどね、とにかく山村さんに確認しろって上から言われたんですよ」
「そんなの受けてる暇があったらダンジョン潜りますからね。なんならまた長期で潜ってようかな」
「潜っちゃえば外の事情なんて関係ないですもんね...はい、手続き完了です。行ってらっしゃいませ、あんまり無茶しないでくださいね」
「はいはいー、いってきますね。特に何もなければ1ヶ月くらい?で帰ってくると思いますよ」
そう言ってダンジョンに侵入し、砂漠地帯まで一気に進む。
毎日潜って確認したところ、階層主らしき砂嵐を発生させるモンスターは1週間は復活しない。
前回倒したのが2日前なので今は砂嵐も無く、砂漠全体がなんだかおとなしめな雰囲気。ただ階段への目印が無いのは不便だなと思う。
少し手間取ったが、なんとか見つけた階段をさっさと降りる。
砂漠地帯の次は草原だ。
天気も良く気温もちょうど良い、とても快適なのだが、モンスターがシンプルに強い。
基本的には様々な獣型のモンスターが自分たちのテリトリーを持ち、群れを率いている。
それぞれの長は上の階層にいた龍並の耐久力と回復力を持ち、ある程度のダメージを与えると群れを指揮して時間を稼ぎ、受けたダメージを回復する。
総合的な強さはこちらが上だが、長と共に群れをまとめて相手にするとどうにも攻めきれず、未だにどの群れの長も倒すことができていない。
今回は階段から比較的近い場所にテリトリーを持つ群れに突撃してみた。
ここは大型トラックのようなサイズの牛が群れを率いている。
基本的には大人しいのだが、一度敵対関係になってしまうと、テリトリーに踏み入ってすぐ捕捉され、何十頭という群れで突撃してくる。
最初に来るのは先遣隊のようなものでそこまで強くはないが、数十頭が一塊となって突っ込んでくるのはなかなかの迫力で、正面から受け止めようとしたら簡単に轢き潰されてしまうだろう。
群れの下っ端ですら魔力弾を強靭な皮膚で弾き、多少の傷なら数分で回復してしまう。
その為上手く側面に周り首を一息で落とすか、眼球を狙って頭の中を魔力弾で掻き回すくらいでしか殺せない。
だがまあ眼を狙えば良いくらいなら大した手間では無く、数十頭の群れの眼球をピンポイントで狙い、魔力弾を一斉射して殺していく。
牛は魔石の他にも肉だったり角だったりをドロップする。
そのドロップする肉は魔力がたっぷり含まれていて、地上で食べられる牛肉に比べてとても美味しいのでこの階層に来るたびにかなりの量を確保するようにしている。
数週間ほどそうやって牛を絶滅させる勢いで倒し続けていると、群れの長であろう巨大な牛がゆっくりと歩いてきた。
可視化できるほどの魔力を漂わせ、ゆったりと歩く姿は群れの長に相応しく、王の貫禄のようなものを感じる。
数十メートルほどの距離で立ち止まると、こちらをじっと見つめてくる。
「やっとお出ましか、さあ、やろうか」
そう呟くと一息に接近し、ショートソードを鼻先に向けて振り下ろした。
常人の目には捉えられないスピードでの攻撃だが、群れの長は問題なく認識している。
軽い動作で首を振りショートソードを弾くと、そのままもう一度首を振り角の先端をこちらに向けて突いてきた。
横にステップすることで避けるが再度首を振り角で横薙ぎの攻撃をしてくる。
それをショートソードの腹部分で受け止めるが、あまりの威力に100mほど吹っ飛ばされた。
「いやぁ、やっぱり強いな。お互い本気じゃないにしても、殺すってなったらどんだけ時間がかかるかわかったもんじゃないぞ」
吹っ飛ばされたところで無傷ではあるが、攻略法が地道に攻め続けるくらいしか思い付かないためなかなか大変だ。
一瞬の触れ合いでお互いに力量差は確認できている。
本気でやりあえばこちらが勝つこともお互い理解しているが、群れの長の静かにこちらを見つめる目がどうにもやる気を削いでくる。
いっそ好戦的ならこちらもどんどん攻めるのだが、相手は積極的な攻撃はあまりしてこない。
常に静かな目でこちらを見つめ観察し、やられればやり返してくるくらい。
離れた距離から見つめ合い続けていると、ふと相手が視線を切り、ゆったりとこの場を離れて行く。
「今日はここまでか。それなりに楽しめたし帰るとするかな」
×××
「おかえりなさい、山村さん、ご無事で何よりです。疲れているとは思うのですが、山村さんに依頼が来ています」
帰還報告に行くとそう言われた。
「依頼?とりあえず聞くけど断って良い?」
「できれば受けて頂けると助かります。初心者講習の一環で上位ランク者がどれほどのものか見せる為に、SランクとAランク上位の方を集めているんです」
「何人も集まる感じですか?なら別に俺がいなくても大丈夫じゃないですか?」
「実は、初心者講習の一環って名目ではあるのですが、日本にもこれだけの探索者がいるぞと示すための、外交政策も関わってくる依頼なんです。依頼先は組合からとなっていますが、実際は国からの依頼です」
「余計にめんどくさいじゃないですか。いつ頃やるんですか?」
「年が明けてからの一月半ばに予定されてますね。既に参加を決定されているのがSランク2人とAランク5人です」
「めんどくさいなぁ、ダンジョン潜れるなら国とか知ったこっちゃないんだよなぁ」
「そう言わず、お願いします。少し顔を出して頂ければそれだけで大丈夫なので」
「どこで開催するんですか?」
「東京で開催予定ですね。ちょっとした催しをした後は新宿のダンジョンにて新人指導をしたり、軽い模擬戦をしたりといった進行予定です」
「新宿のダンジョンって何回層まで到達してましたっけ?」
「現在の到達記録は89階層です。情報を見る限りここよりも難易度がかなり高いようですね。ここの100階層で出てくるドラゴンが80階層の階層主として出てくるようです」
「それ終わった後そのまま潜っても良いですか?ちょっと興味湧いてきました」
「大丈夫だと思いますよ。その日の夜に会食なんかがありますけど、どうせそういうのは参加しませんもんね?」
「しないですね、お偉いさんやらと飯食ったってなんもないですから」
「では、そういった条件でなら参加しても良いと言っていると伝えておきます。お疲れのところ申し訳ございません」
「まあしゃあないですよ。新宿のダンジョンにも興味ありますし、村上さんにはお世話になってますから」
「そう言って頂けると助かります。ありがとうございます」
「んじゃ、今日は帰りますね。お疲れ様ですー」
そう言って会話を終わらせて帰路に着く。
新人講習や大人の事情なんかには興味がないが、新宿のダンジョンは楽しめそうで、自然と笑みを浮かべてしまう。
「どんだけ強いのかなぁ、どれくらい苦戦するかなぁ。あぁ、楽しみだなぁ」
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