第17話
高校を卒業した。
とりあえずずっと通っていたダンジョンを踏破するまでは実家暮らし予定だ。
両親も好きにしろと言ってくれた。
あと受付嬢は村上さんというらしい。
すごいジト目をされたが、流石にこっちが悪いので謝罪と感謝をし、改めてこれからもよろしくお願いしますと挨拶をしておいた。
あとちまちまと集めていた超重量物質でほぼ鈍器みたいなショートソードを作ってもらった。
村上さんに聞いて鍛治師を紹介してもらい、
いろいろ手伝いながら作った。
溶かすのも成形するのも研ぐのも引くほど手間がかかって一ヶ月くらいかかったし、全長75cmほどの長さなのに重さが1000kg以上、つまり1トンを超える重量という意味のわからない物が出来上がった。
鍛治師の人も作っておいてこれは剣じゃなく鈍器だよなとか言ってた。
ダイヤモンドカッターを使っても傷一つつかなかったし、ハンマーで刃先をぶっ叩いても刃が潰れないとか、尋常ではない頑丈さはしていたけど、鈍器みたいなだけで剣だと思いたい。
そんな感じでショートソード作りに時間がかかった為、5月の頭にやっとダンジョン探索に本腰入れられるようになった。
「じゃあしばらく潜るので、後はよろしくお願いします」
受付嬢改め村上さんに挨拶してからダンジョンに向かう。
「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
そんな見送りの言葉を聞きながら潜り、真っ直ぐ砂漠地帯へ。
作ってもらったショートソードを使い、手に馴染ませながら砂漠を歩いて行く。
「なんというか、決戦兵器みたいな威力が出るな...」
ショートソードを振るたびにモンスター諸共大量の砂が巻き上げられてクレーターが出来上がる。
1トンを超える重量物を目で追えないほどのスピードで振り叩き付けるのだから、しょうがないとも思う。
身体強化のおかげで普通に持てるし剣に振り回されたりもしない。
だが刃筋をしっかり立てられていないし、今までは四肢を武器としてきたので体の使い方が違う。
丁寧に、丹念に、違和感を覚える箇所を修正していく。
先ずは慣れるところからだなとモンスターと闘い、素振りをし、たまに蟻の巣まで戻って多対一で戦い、ショートソードを持てるか持てないかくらいまで身体強化を弱めて筋トレをし、気分転換にクイーンアントを殴り殺し、蟻を蹴散らし、そんな風にショートソードを体に慣らしていった。
時間感覚がふわっとしてるがおそらく一ヶ月くらい経ち、ようやくある程度納得行くレベルまでショートソードを使えるようになった。
そしてようやく中心部と思わしき天まで届く砂嵐の柱の下へやってきた。
近付けば近付くほどに風が強くなり体が飛ばされそうになる。
それをショートソードを重りがわりに上手く使い、バランスを取りながら歩いて行く。
砂嵐の中はより酷い環境だった。
今まで過ごしていた砂漠地帯が空調の効いた部屋だったかと錯覚するほどの熱、1トンを超える重さのショートソードを持っていても飛ばされそうになるほどの風、その風に乗って襲ってくるマシンガンのような砂粒、そしてその環境に適応し、風に乗り通り魔のように一瞬のすれ違い様に攻撃してくるモンスター。
どれか一つでも容赦無く命を奪っていくであろう環境に自然と口角が上がり、魔力を漲らせ、テンションを上げていく。
×××
「ただいま帰りましたー」
「山村さん!!ご無事だったのですね!」
「無事ですよ、いやー、楽しかった」
「もう9月ですよ!死んでしまったのかとずっと心配していたんですからね!!」
「え、もうそんなに経ってるの?時間の感覚バグっちゃってたわ」
「あー、もう!報告書作らないといけないんですからね!詳しく教えてもらいますからね!!着いてきてください!!」
いつも通りの山村さんに安心するが、とにかく話を聞かないといけないので別室に移動する。
「ふぅ、ご無事でなによりです。おかえりなさい、山村さん。それでは潜ってからどうしていたか教えてください」
「んーと、最初はショートソードを上手く扱えるようになるまで特訓してましたね。それが1ヶ月くらいかな?ある程度納得できるくらいになったら探索を再開して、言われた通りに撮ってきたもの見てくれたらわかると思うんですけど、馬鹿みたいにでかい砂嵐に入って行って、その中がまた酷い環境で、その中を自由に動けるようにまた特訓して、砂嵐を発生させてたモンスターぶっ殺して次の階層への扉を見つけたので一旦帰ってきたって感じです」
軽く言う上に資料として撮ってきてもらった映像がむちゃくちゃ過ぎて言葉が出ない。
私が絶句するのを見て首を傾げる山村さん。
「えっと、つまりこの砂嵐に慣れるのに3ヶ月掛かって、しかもその砂嵐を発生させてた階層主?らしきモンスターを倒してきたと?」
「そうですね。楽しかったです」
「楽しかったじゃないですよー!!しかもこれちょっと悪乗りしてませんか!?なんかすごいベストショットみたいなのとかあるんですけど?!!」
「ああ、こいつが砂嵐を発生させてたんですよ。なんかドラゴンっていうより龍って感じですよね、悠々と泳ぐように移動してて、強かったですねえ」
思い出しているのかとても良い笑顔の山村さんとは反対に、どう考えても人の敵う相手ではないと映像越しで見ても恐ろしく感じ、それを倒している山村さんに畏怖の念を抱いてしまう。
「えっと、一応どんな風に倒したかとか、どんな攻撃をしてきたかとかも、山村さん視点で把握していることを教えてください」
「んーと、基本的にはこちらから攻撃しない限りは特に何もしてこなかったですね。かなり近くまで寄っても反応はなかったです。ただこのでかい砂嵐とは別にそれが圧縮されたような砂と風を鎧のように纏ってたので、なんの対策もしないと近付いただけで粉々にされますね。遠距離からも魔力弾を撃ってみましたけど、それもその鎧に阻まれて本体まではまったく届きません」
聞いてるだけでどうすれば倒せるのか考えも付かないが、続きを促して詳細を確認していく。
「そんで、とりあえずまずは近付けるようにならないとなってことでいろいろ試したんですよ。大量の魔力弾を撃って鎧に穴を空けて突っ込めないかとか、どうにか切れないかとか。でも砂と風なんでだいぶ流動的なんですよね、一瞬後には元通りになっちゃって、1週間くらいすぐそばを一緒に移動しながら考えて、まあ最終的にはごり押しですね。圧縮した魔力を鎧のように纏って、突っ込みました。何回か死にかけましたけどね、もみくちゃにされながらより緻密に、より強固にって魔力を練り上げて、砂と風の鎧を突破して、あとは切ったり殴ったり蹴ったりでどうにか倒しました。
基本的にはその砂と風の鎧を纏ってるのと、何日も攻撃し続けても耐える耐久力、数時間でも攻撃を止めると全快してしまう回復力の3点だけで、これといった攻撃はなかったですよ。体を捩ったりして吹っ飛ばされたりもしましたけど、あれは攻撃と言えるかどうかって感じでしたし」
山村さんの話すことを一言一句聞き逃さないようにするがむちゃくちゃすぎて混乱してくる。
「ああ、後そうですね、そいつを倒すと砂嵐が止んで飛んでた砂が落ちてくるんですけど、対策しないと下の階層に行くための階段諸共全部埋められちゃいます。多分厚さ10mを超えるくらいの砂に埋められるので余裕で生き埋めですね」
「えっと、一応聞いておきますけど山村さんはどうやって対応を?」
「剣と魔力弾で階段付近に降ってくる砂を全部吹っ飛ばしました」
当然でしょとでも言うかのように答える山村さんに頭が痛くなる。
その時の映像もあるが、降ってくると言うより砂の山が落ちてくると言った方が正しいような状況で、剣を振り魔力弾を撃ちまくっている。あとよく見ると斬撃を飛ばしてるように見える。
「あの、これ剣を振って遠くの砂の塊が切れてるようにみえるんですけど...」
「ああ、なんか、できないかなってやってみたらできたんですよ。多分魔力弾の方が使い勝手が良いですけどね、かっこいいですよね」
我慢出来ずに頭を抱えて突っ伏してしまう、
学生の時も規格外だったが、卒業後1回目でいきなりこれかと。
「とりあえず、お疲れ様でした。また聞く事もあるとは思いますけど、一旦はこれで終了です。ありがとうございました」
「いえいえ、村上さんにはお世話になってますから」
そうして帰って行く山村さんを見送って、作成した報告書や録音していた会話の音声データ、今回の探索で撮ってきてもらった映像を上司に送り、その日の業務を終了した。
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