第13話

「ただいま帰還しましたー」



「山村さん!?ご無事で良かったです!!」



 ゆるい帰還報告に驚く受付嬢。



「いやー、大変でしたよ。でもまあ1週間や2週間程度じゃ全然物足りないっすね」



「えぇ...えっと、何階層まで行ったのですか?」



「多分131階層、かな?120から下が階層ぶち抜いて作られた蟻の巣みたいな感じだったんで、いまいち正確な数字がわからないんですよね。その蟻の巣の底にクイーンアントっていう階層主っぽいのがいたから、そこを130階層って考えて、そこから一つ降りたところまで行きましたね」



「すみませんが100階層より下に降りたとこから覚えてる限りで良いので詳細を教えて頂いてよろしいでしょうか...?」



 そう言われて、山村はこの遠征の内容を話していく。

 およそ1時間ほどで話し終え、受付嬢は驚き疲れたのか随分げっそりしていた。



「ドロップ品もかなりあるんですけど、どうします?とりあえず提出だけしておけば良いですか?」



「そうですね、多分査定に時間もかかるでしょうし、受領証だけ作って、後日振り込みという形でお願いします」



 受付カウンターで収まる量では無いため倉庫に移動し、ドロップ品を数えながら出して行く。



「山村さん、どんだけ倒したんですか...」



 山のようになったドロップ品にドン引きの受付嬢や他職員。



「そうだ、これだけは売りに出さずに確保しておきたいです」



 そう言って拳ほどの大きさのよくわからない物を指差す。



「これは...?え、重たっ!!」



 見た目からは想像も出来ない重さに驚く受付嬢。



「クイーンアント倒す時に他の蟻が多すぎてある技を使ったんですけどね、結果としてそれが出来上がって、もうちょっと数が揃えば良い感じの武器が作れそうだなって思って、確保しておきたいんですよ」



 もうずっと驚きっぱなしの受付嬢に軽く言う山村。

 受付嬢は疲れからか投げやりに山村の希望を了承し、山村はそれをアイテムボックスに収納する。



「あ、でも落ち着いたらそれも調査というか、解析に掛けさせてもらうことにはなるかもしれませんからね」



「それくらいなら良いですよ。所有権がこちらにあるというのだけは覚えておいてもらえれば」



 そんな会話をしつつも受領証を書き終え、ドロップ品の数字に間違いがない事をお互いに確認すると、サインをして控えを受け取りアイテムボックスにしまった。



「じゃあ、お疲れ様でしたー」



 軽い挨拶をして帰って行く山村を見送り、尋常ではないドロップ品の数に溜息を吐く。



「これ、何日かかるかな...」



 ×××



「本気出すとこれより早く移動できるんだよなぁ」



 今現在、帰省のために新幹線に乗っている。

 のんびりと車窓から流れる景色を眺めているが、出発して1時間ほどでもう飽きた。



「ダンジョン行きたいなー、モンスターとやり合いたーい」



 両親はいつものこととスルーしている。

 毎日ダンジョン通いをし、つい先日は2週間ほど帰らずダンジョンに潜っている。

 卒業後も専業探索者になると言った時はちょっとした話し合いが起きた。

 卒業後は家を出て、ほとんど会うこともなくなるだろうなと予測できるからこそ、庇護下にあるうちは極力家族の時間を取りたいのだということは理解している。

 きっと両親に何も言われなかったら学校すらも行くのをやめ、ダンジョンに引き篭もるだろうから。


 新幹線を降りて鈍行に乗り換え、新幹線含めおよそ3時間ほど電車に乗り、駅からは迎えに来た祖父の運転する車で30分で祖父母の住む家に到着した。


 祖父母に挨拶し、仏壇に手を合わせたあとは庭に出て体を動かし時間を潰す。


 筋トレや柔軟だけでなく魔力操作も行う。


 ダンジョンのように潤沢な魔力が漂っているわけではないが、体内にはたっぷりある。

 その魔力を使い身体強化や魔力感知、魔力弾の生成等を行っていく。

 空気中に魔力がほとんど無いため体外に出した魔力はすぐに霧散してしまうが、霧散しないように精密、に強固に、魔力を編み込むように込める。


 ダンジョン内とは勝手の違う体外操作感を楽しんでいると夕飯だぞと声をかけられた。


 3日間祖父母の家に滞在し、その間はほとんどダンジョン外での魔力操作技術を高めて時間を潰していた。


 盆の帰省も終わり自宅に戻ると、まだ夕方だったのでダンジョンに向かった。

 浅い層で魔力操作の感覚を調整し、帰省中にやっていたように精密に、強固に魔力弾を作る。



「やっぱ感覚が違うな。なんか無駄がある感じがする」



 そう呟くと一度魔力を霧散させ、もう一度魔力弾を作る。

 2時間ほど魔力弾を作っては消して無駄をできるだけ削ぎ落とし続け、まだ満足とは言えないが帰ることにした。



「んんー、早く卒業したいなあ。時間を気にせず潜りたい」



 ダンジョンから出て受付嬢に挨拶をする。

 ただ感覚の調整をしたかっただけなので、モンスターはいくらか倒したがドロップ品を拾ったりはしてない。

 そのため特に待つこともなく帰還報告の手続きだけして帰路に着いた。

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