第12話
ダンジョン探索3日目
起きて周囲を見回すと、案の定かなりのドロップ品が転がっていた。
ドロップ品の量だけ見ても相当の数の蟻が寝込みを襲って来ていたのだろう。
『こんなこともあろうかと思って』と言いたいがためにした訓練のおかげで、無意識下でも対応可能になっていたから無事だったが、まともな探索者なら不寝番を立ててもどうしようもない気がする。
野営道具を片付けドロップ品を拾い、先へ進む。
蟻の巣階層のせいで正確な階層はわからないが、クイーンアントがいたこの階層を便宜上130階層としてカウントすることにした。
広間から奥へと10分ほど進むと下へ続く階段を発見したので降りて行く。
降りる途中から段々と気温が上がってきた。
暑さを我慢しながら降り切ると、そこはどこまでも続く砂漠だった。
どういう原理かわからないが空があり、太陽のようなものがあり、その太陽擬きが地表を熱してとんでもない気温になっている。
空気は乾燥し、何も対策を取らないでいたら1時間後には乾涸びてしまいそうなほど。
どれだけ遠いのかわからないが、天まで続く柱のようなものも見える。
テンプレ的にあれは砂嵐で、下へ続く道はあそこの中心なんだろうな、なんて考えもしたが、まずは周辺の確認をすることにした。
軽く1時間ほど歩き回ったが、砂中から不意打ちをしてくるモンスターが何種類かいた。
毒針と鋏が特徴的な蠍、砂ごと丸呑みしようとしてきたサンドワーム、保護色によって視覚的にはまったく分からなくなっているトカゲ、どれもこれも巨大でサンドワームに至っては100mを超える長さだった。
巨大なかわりに数は少ないのかそこまで頻繁には遭遇しなかったが、どれもこれも砂の中に潜んでいるせいで感知がうまくいかず、奇襲をされてから反射神経だよりの対応を余儀なくされた。
暑いというより熱いと表現すべき環境と不意打ち特化のモンスター達を相手にしていると、自然とにやけてしまう。
この環境にも、感知の精度にも、まだまだ自分の中で磨ける部分があるんだと思うと嬉しくてたまらない。
もっと深く、もっと先へと思う自分もいるが、今回はおよそ2週間ほどで一度地上へ帰る約束をしている。
ここから地上へ戻るための時間を除けばあと1週間ぐらいだろうか、その期間をこの階層で過ごし、適応するのに使おうと決めた。
×××
まず苦労したのはこの熱さだった。
発汗での体温調整など無意味だと言わんばかりの熱さで体力を削り、集中力を奪っていく。
何度も階段を登り避難をしつつ、どうすれば適応できるか考えた。
ふと、原子が震えれば熱くなり、止まれば凍るという雑学を思い出した。
これが正しいかとか科学的にどうだったか等はわからないが、大雑把にはそんな感じだったよなと思い、思い付きを試してみることにした。
魔力で全身を覆い、とにかくイメージした。
全身を覆う魔力がゆっくりと運動を止め、冷えていくことを。
熱波が襲ってきても魔力の層で防がれ、冷やされていく。
目を閉じ集中し、そんなイメージをし続けていると、いつしか熱さが暑さに変わり、快適な暖かさに変わっていた。
そうしてここが灼熱の砂漠であることを忘れそうなほどの快適さを手に入れた後は、今の状態を意識し続けなくても維持できるよう訓練する。
最初は歩き出すと解除されてしまうほどに脆弱だった。
そうなる度に立ち止まって意識し直し、全身を覆う魔力を冷やす。
3日も経つとおおよそ安定させられるようになっていた。
外気温に合わせて冷やす具合を整えて快適な温度にする。その状態のまま不意打ちをしてくるモンスターの相手をする。
4日目からは環境への適応は今後も調整していくということにして、モンスターに対しての感知精度の強化をすることにした。
普段は五感由来の感知をしている。
だが砂中で微動だにしないモンスターはなかなか感知に引っかからない。
そして思いついたのが魔力感知だ。
体内の魔力は隅々まで把握できているので、その認識を外に広げていく。
数mしか広げられない上に精度も悪い。
ダンジョン内は魔力が濃いため、常にジャミングされているような気分になる。
そこからさらに奇襲に特化した砂の中にいるモンスターを感じ取るのは、非常に難しい。
モンスターを釣り、奇襲してきたモンスターを相手にせず退避し、砂中に戻って行ったのを確認した後、襲ってこない程度に距離を離して魔力感知の練習相手にした。
2日ほどそうやって魔力感知の訓練をしているとなんとなく掴めてきた。
ダンジョン由来の、ジャミングのように全体に広がる魔力の中でも、モンスターはそれぞれ違った魔力を持っている。
濃さが違うと言うべきか、モンスターの強さに見合った魔力の塊を感じ取れる。
およそ半径10mほどの狭い範囲だが、その感覚を掴むと奇襲される前にモンスターに気付き、奇襲にカウンターを決めることで余裕を持って倒せるようになった。
環境への適応もモンスターの感知も魔力だよりだが、そもそも魔力がなければ人間なんてダンジョン内ではクソ雑魚なのでしょうがない。
魔力で全身を覆い冷やし、魔力感知の範囲を広げて、この砂漠地帯での探索に支障は無くなった。
後1日経ったら帰る予定。
ずっと見えている天まで登る、おそらく砂嵐であろう柱に接近し、予習だけでもしておこうと決め全速力で向かって行った。
奇襲特化のモンスターでも速さについてこれないようで、通り過ぎてから反応し飛び出してくる。
そのまま無視して走り去るのでモンスターは周囲を見渡した後にまた砂の中に戻って行く。
そんな光景が3時間ほど続くと、だいたい5kmほどの距離にまで接近できた。
遠目からだと柱だったが、やはり砂嵐だった。
ある程度離れているはずだがかなりの強風で砂がばしばしと飛んでくる。
体を覆う魔力を調整して砂を吸い込まないように、服の隙間から砂が入ってこないようにしておく。
太陽擬きを砂嵐が遮るせいで、風景が赤みを帯びていたり薄暗くなったりするが、じっと砂嵐を観察する。
そうすると、砂嵐の中を巨大な影が悠々と泳いでいるのを発見した。
その影がそのままモンスターの大きさだとしたら多少の攻撃なんて絶対無意味だなと言いたくなる大きさ。
砂嵐の外周部をゆったりと移動しているのか、およそ15分に一回ほどのペースで目の前を通過して行く。
突撃したくてたまらなくなるが、そろそろ帰らなければ行けない。
戦い始めたらどれだけ時間がかかるかわからないため、予定を大幅に超えてしまう可能性を気にして今回は諦めることにした。
踵を返し、今回の探索の復習をしていく。
奇襲を仕掛けてくるモンスターにきっちりと対応し、身体を強靭にする為に時折全身を覆う魔力を無くす。
覆いが無くなると尋常では無い熱さに襲われるが、呼吸器にだけ魔力を纏わせて、肺が焼けないようにして耐える。
数分でやられそうになるので再度全身を魔力で包み冷やす。
そんなことを砂漠を走る間続けていると、体を覆う魔力が無くても大丈夫な時間が数秒ずつではあるが伸びていった。
蟻の巣階層に戻る階段に着く頃には数分ではあるが呼吸器さえ守ればどうにか十分なコンディションで動けるようになった。
まだまだ魔力だよりだが、またここに来れるようになったらもっと長い時間をかけて克服してやると決意し、階段を駆け上がっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます