第11話
夏休み初日。
ダンジョン探索1日目。
受付嬢に挨拶をしてダンジョンに入る。
準備運動がてら100階層までを今使える技術の確認をしながら進んで行く。
1時間ほどで到着し、ドラゴンを魔力で作ったガントレットでぶん殴り瞬殺。
「よーし、ここからが本番だ!!」
改めて持ち物を確認した後、101階層へ続く扉に手を掛けた。
雰囲気は今までとそこまで変わらない、少し魔力が濃いくらい。
感知範囲にいるモンスターはドラゴンより少し弱いくらいか、ゆっくり近付いて行き、射程範囲に入ったところで魔力弾を数発撃ち込み倒す。
「流石に入ったばかりだしな、そこまで急激に強くなんてならないか。まあ適度に気を付けながら進むかな」
通り掛かりのモンスターを瞬殺しながら進んで行くと1時間も掛からずに次の階層への階段を見つけた。
のんびりと降りていき102階層へ。
問題無さそうだったので少しペースを上げて進んで行くと、昼過ぎには110階層の階層主の部屋に到着。
扉を開けて部屋に入ると、山村の3倍近い身長の筋骨隆々なミノタウロスが待ち構えていた。
目視できるほどの魔力を漲らせて、両刃の斧を構えこちらを睨み付けている。
ゆっくり近付いて行くと、その大きさに見合わない俊敏性で踏み込んできて、斧を振り下ろしてきた。
軌道を見ながら丁寧に避けるが、振り下ろしの途中で横薙ぎに変わり、避けた先に斧が向かってくる。
それをしゃがんでさらに避け、斧に向かって打ち上げるように拳をぶつけてミノタウロスの両手ごとかち上げた。
空いた腹に向けて渾身のボディブローを喰らわせると、ミノタウロスの腹に大きな穴が開く。
その1発でミノタウロスは膝をつき、そのまま倒れた。
「全然余裕だったな...まだまだ物足りないな」
そんなことを呟くと階層主のドロップ品を拾い、そういえば昼過ぎてたなと昼飯を食べ軽く休憩し、また先へ進んだ。
そこから先は迷路になっていたため各階層を進むのに少し時間がかかった。
モンスターは感知できるので不意打ちなんかはされないし問題ないのだが、一層一層が広く、迷路も複雑だったために120階層に着く頃には21時ごろになっていた。
「今日はここの階層主倒して終了かな、さーて、どんな奴が出てくるか」
そう言って扉を開けた。
部屋の中には蜘蛛の頭から人の上半身が生えた、所謂アラクネと呼ばれるモンスターがいた。
人型の方は槍を持っている。
試しにと魔力弾を撃ち込んでみると、俊敏な動作で避けながら蜘蛛の糸を発射し返してきた。
蜘蛛糸を避けながら偏差射撃をし、逃げ場を塞ぎながら追い込んでいくと、何発かの魔力弾が当たり、蜘蛛の足が、体が弾け飛び、俊敏性が無くなり逃げられなくなったアラクネに魔力弾が殺到した。
穴だらけになったアラクネが崩れ落ち、ドロップ品を残して消えるのを確認すると一息吐く。
少し休憩をした後に野営道具を取り出してから飯を食べ、お気に入りのハンモックに乗りながらその日の反省点や改善点を考えていると、いつの間にか寝てしまった。
×××
ダンジョン探索2日目
早くに目覚めた。
時間を確認すると朝の5時頃。
朝食を食べてから野営道具をしまい、準備運動をして先へ進む。
昨日の迷路から洞窟のような環境になったダンジョンを進んでいく。
洞窟内は至る所に屈めば進めそうな小さな穴がある。
気にはなるが十分に広い道が続いているのでそちらを進んで行く。
15分ほど進むとドーム状の広い空間に出た。半径100mぐらいだろうか、なかなか広い。
中心付近まで行くとざわざわとした何かが蠢く音が全方向から聞こえてきた。
この空間がドーム状だからそう聞こえるのかとも思ったがそうではなかった。
道中でもあった小さな穴がここにも至る所にある。
そこから腰ほどの高さをした大きな蟻が出て来たかと思うと、すぐに数え切れないほど溢れ出て来てドームが埋め尽くされていった。
「今日の1発目は蟻か!まとめてかかってこい!!」
そう叫びながら全方向に魔力弾を乱射しながら自身でも殴り掛かり殲滅していく。
どれほど戦い続けただろうか、死んだ蟻は消えて行くが、魔石や蟻の素材は残る。
床がドロップ品で埋め尽くされても、続々と溢れ出た蟻が殺到してくる。
おおよそ2時間くらいだろうか、倒した総数はわからないが、とにかく膨大な数の蟻を殺し続けてやっと蟻の発生が止まった。
魔力を使い続け、体を動かし続けて2時間、まだまだ余裕はあるがいくらか気疲れした。
ゆっくり歩きながらドロップ品をアイテムボックスに収納していく。
「2日目初っ端からこれは良いな、個体で言えばそこまで強くないけど、完全に物量で殺しにきてたぞ」
息を整え先へ進む。
その後もドーム状の空間に出る度に蟻の大群に襲われた。
大して進んでいないのに昼を過ぎている。
どれだけ時間がかかるかわからないと思いスピードを上げ、ドームの空間も無視してとにかく先へ進んで行った。
どれだけ進んだか自分でも掴めていないが、特に階段なんかはなかった。
全体的に下り坂になっていたので、何階層かがまとまって蟻の巣のようになっていたのだろう。
夕方頃になると今までよりもかなり大きな、半径500mぐらいの空間に出た。
そこにはぱっと見でも10mを超える大きさの蟻が鎮座している。
スキルを使い確認すると〈クイーンアント〉と出た。
クイーンアントは延々と卵を産み続け、周囲からは多種多様な蟻が出てくる。
ポーンアントやルークアント、ビショップアントにナイトアント、キングは見当たらないが、チェスの駒の名が付いた蟻がいる。
重なり合ってよく分からないが魔法を使える蟻もいるのだろう、自爆や同士討ちも構わず大量の魔法が降って来た。
上からは魔法、下からは蟻が感知範囲を埋め尽くす勢いで殺到してくる。
機関銃のように魔力弾を乱射し、魔法に当たらないように蟻を薙ぎ倒しながら移動し続ける。
蟻が何体纏まっていようが魔力を込めた拳で殴り、蹴りを放てばボウリングのピンのように吹き飛んでいく。
それでも数が多過ぎた。
クイーンアントを倒そうとそちらへ向かうがなかなか近付けない。
「アハトアハトォォォ!!!」
魔力弾を覚えてから練習していた必殺技擬きを使ってみた。
ほぼロマン枠として調整していた88mm魔力砲を連射。
魔力砲の射線からはモンスターが消し飛び、勢い余ってクイーンアントまでダメージを負っている。
その射線を駆け抜けてクイーンアントの足元へ行き、その勢いでもう一つの必殺技擬きを使う。
拳に魔力を込め続け、臨界点を超えてブラックホール現象を起こすパンチ。
ブラックホールパンチだとダサくて、良い名前が思いつかなかったので特に名前は無い。
随分前にたまたま起きた現象だったがこれもしっかり練習しておいた。
初動で逃げの一手を取らなければおそらくどうしようもない。
そんなパンチがクイーンアントに直撃した。
直撃と同時に全力で後退し、広間から退避する。
ドロップ品も巻き込まれるのは少し悲しいが、背に腹はかえられない。
尋常じゃない数の蟻もクイーンアントも、まとめて吸われ圧縮されていく。
真っ黒な球体がどんどん大きくなり、直径100mほどになる頃には広間の蟻はいなくなっていた。
吸い込むモンスターがいなくなるとそれはゆっくり収縮していく。
黒い球体が無くなると、そこから拳程度の大きさの蟻の魔石やドロップ品が圧縮された謎の物質が転がり落ちた。
蟻を殲滅したことを確認した後に近付き、それを拾う。
見た目からはまったく想像できない重さで、拳ほどの大きさなのにおそらく自分より重い。
これが大量にあったら自分好みの武器が作れそうだなとは思ったが、これを大量に用意するのは難しそうだ。
今回の蟻のような大群勢と遭遇した時はまた同じ事をしてこれを作ろうと心に決め、アイテムボックスにしまった。
まだ休むには少し早いが今日はここまでとして、野営の準備をすることにした。
探知をした限りでは探知範囲内に蟻はいない。
少しは残っているだろうが、一体一体はそこまで強くないため、寝ていても無意識で魔力弾を撃って倒せる。
ご飯を食べ、ハンモックに乗り、蟻との戦闘の余韻に浸りながらゆっくりと眠りに着いた。
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