第10話

 夏休み前日の登校日。



「なー、山村は夏休みはやっぱりダンジョンか?」



「そうだな、明日からダンジョンに潜って、少なくとも7月中は出てこない予定だし、場合によってはもっと長く潜るかも」



 神田とのんびり話していると、女生徒が混じってきた。



「え、山村ダンジョン遠征するの!?チーム組んでするの?!」



「いや、1人でするぞ、チームなんて組んだ事ないし」



「マジ!?危なくないの?ソロだとやばいってよく聞くよっ!」



 なんかテンションが高い。

 夏休みに入るからだろうか。



「普段から1人で潜ってるし、週末はダンジョン内で寝泊まりしてるから慣れてるぞ。階層主の部屋なら倒した後は部屋から出なければ復活しないから安全だしな」



「へー、それなら安全?なのかな?どこまで潜るの!?」



「いけるとこまでだな。ほとんど情報もないし、環境もモンスターも手探りだから予定の立てようもない。2週間くらい使って行けるとこまで行くだけだ」



「普段はどこまで行ってるの!?」



「100階層までだな。放課後はてきとうに訓練しながら潜って100階層のドラゴン倒して帰ってきて、週末はドラゴン倒した後の部屋で色々と試しながら過ごしてって感じ。

 親との約束でな、それより下は今までは潜るなって言われてたんだよ。やっとそれが解禁されるから、どこまで行けるか試すんだ」



 山村の発言に絶句する女生徒。

 探索者でない彼女の情報源は動画サイトでの配信くらいだ。

 そして配信をしている探索者はせいぜい30階層あたりまでしか行かない。それくらいの階層での戦闘も、彼女からしたらとても凄い物だった。


 そんな彼女からすると普段から100階層まで潜っているというのは、もはや想像出来ない領域なためわけがわからない。



「山村のせいで混乱してるな。酷いやつだ山村は」



 神田が茶化すように言ってくるが山村はうるせぇと軽く返す。

 女生徒が再起動するとまた話し始める。



「ねー、やっぱり配信してよー!山村の探索見てみたいー!!」



「やだよ、誰かに見せるために探索者やってるわけじゃないんだから。人気になりたいとか無いし、なんなら静かに過ごしたいくらいだし、金もドラゴン倒して売るだけでたっぷり稼げるからな」



 女生徒のお願いをばっさり切り捨てると、荷物を纏めた山村は席を立ち、帰るからなと挨拶をして教室を出た。


 ×××



 魔力弾を使えるようになってから、毎日特訓をした。

 弾丸の作成スピードを上げ、命中精度を上げ、射程距離を上げ、目の前だけでなく死角にも対応できるよう超感覚とも連動させた。


 おかげでモンスターが感知範囲に入った瞬間に死んでいく。

 感知してるのでどんなモンスターだったかはわかるが、目視する前に死んでいたりするせいで、全部自分でやってるのに何もしてないような気分になる。



「やっぱモンスターは殴らないとつまらないな...でもまあこれくらいの強さの敵ならどっちにしろ瞬殺だしいいか...」



 100階層までのモンスターが相手ならドラゴン含めて瞬殺できるようになってしまった。

 早くもっと深くまで潜って、昔のように血湧き肉躍る闘争をしたい。

 命に届きうる脅威を感じ、生を実感する。

 そんな探索を早くさせろと、心が急かしてくる。


 自分の中のそんな気持ちに、明日から夏休み、たくさん楽しめるから落ち着けと言い聞かせながら自分の使える技術を確認し、準備を整える。

 水や食料、医療品に寝具など雑事に必要な物はもう全て準備が終わっている。


 聞いた話だと夏休みの宿題なんかも3年になると無いらしいし、そういった学校関連の面倒事も無いだろう。

 就職や進学をする人たちはなんかいろいろあるらしいが、俺はこうやってダンジョン探索を仕事にするわけだから、やる事はダンジョンに潜るだけ。


 そんな事を考えているうちに100階層に到着。



「ドラゴンに苦戦してた頃が懐かしいな。今じゃ一瞬だもんな...これより先にやっと潜れると思うと、わくわくが止まらん」



 より下に潜るための扉を見ながら、ちょっと覗いちゃダメかな、いや、今覗いたら絶対そのまま進んじゃうから我慢だ。なんて自分に言い聞かせ、ちょっとした思い付きを階層主の部屋で試す。



「属性変換は結局よくわかんなくてできてないけど、なんかかっこいいし良い感じか?」



 自分の周囲を魔力弾が衛星のように回っている。

 魔力弾の大きさや形を調整し、単純な球体状のものから銃弾のようなもの、そんな大小様々な8つの魔力弾を維持、周回させている。


 維持や周回に必要な魔力は自分の魔力量からするとほとんど無いに等しいので問題ない。

 あとは単純にかっこいいと思うからそれでテンションが上がってパフォーマンスも結果的に上がるから差し引きプラスって感じだ。



「でも接近戦をする時は邪魔か?まあそうなったら背後にでも浮かせておけば良いか。使ってて邪魔ってなったら消せば良いし、ほぼかっこよさだけで思い付いた技だからな」



 ロマン枠に効率なんてものは無粋だしな、なんてことを思いながら魔力弾を浮かせつつ、拳を振り、蹴りを繰り出し、体の動きを確認する。


 また一つ思いついたから試してみた。

 魔力でガントレットやレガースを

 作ってみる。

 拳から肘付近までを覆うガントレットと、足首から膝下までを覆うレガース。


 そんな魔力で作った保護具を装備した状態で壁の方まで行き、壁を殴り、蹴りつける。



「思ったより良い感じか?手足の保護にもなるし、今の所見た事ないけど、触ったらやばいモンスターが現れた時には使えるかもな」



 そんな事を呟いた後に魔力で作った防具を消す。



 ×××



 ダンジョンから出て、受付嬢のところへ行く山村。



「ただいま帰りましたよー、いやー、明日から夏休みですよ、ダンジョン潜り放題ですよ!!」



 テンションの高い山村に苦笑いの受付嬢。



「おかえりなさい。ご無事で何よりです。楽しそうですね、山村さん」



「そりゃあ、楽しみですからね。明日からダンジョンの100階層より下に潜るんですから!どんなモンスターと闘えるのか、どんな環境なのか、わくわくですよ!!」



「安全第一ですからね?無理そうならちゃんと引き返してくださいね?死んでしまったらそこで終わりなんですから」



 危なっかしい山村に釘を刺し、注意する。

 山村はそんな受付嬢の言葉に大丈夫ですよと返事をして帰路に着いた。

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