第9話

 早いものでもうすぐ夏休み。

 どんどん暑くなるので、気温が一定なダンジョンにずっと篭りたくなる。


 3年になってから続けていた魔力を不活性化させての戦闘訓練も、今ではドラゴンすら片手間に倒せるほどになった。

 時間はかかったが、これで夏休みにやる予定のダンジョン合宿がより安全になるだろう。


 合宿と言っても1人でやるし、ただダンジョン内で連泊して行けるとこまで行くだけ。

 今までは潜るのは100階層までとして、魔力や技量の訓練に当て続け、これ以上100階層まででやれる事なんてないってくらいやったと思う。

 武術的なトレーニングとかはまだまだやれる事はあるが、実力で言えば小手先の技術がどうでも良くなるくらいに強くなっている。後は動画とか見ながら見様見真似でどうにかなる。



「そういえば頭から追い出してけど体外での魔力操作ってやっぱ出来ないままなのかな」



 そんなことを思って、腕を伸ばし手のひらを上にし、魔力操作を行ってみた。



「できるようになってるじゃん!!!」



 自分でもびっくりした。

 どうやっても魔法が使えなかったからこそ、体内でどうにかこうにかする事だけを考えて使っていた魔力が、普通に体の外に出せるようになってた。


 魔力に意識を向けると、体内から呼水のような魔力が出て、そこに向けて周辺の魔力が集まっていく。

 他の魔法使いがどんな風に魔力を使っているかは知らないけど、なんかこれをいろいろしたら火とか水とか、そんな感じの魔法が使えるのか?


 今の所そういった属性魔法みたいなのは感覚ではよくわからない。

 でもなんとなく出来そうだなと思ったので、イメージで銃弾みたいに円錐形に整えて、回転させて、発射!ってしてみたら出来ちゃった。


 発射音は鳴らなかったが、とんでもないスピードで手のひらに出した魔力が飛んで行った。

 ダンジョンの全然傷付かない壁に銃痕みたいな穴が出来てる。


 なんかすごくテンションが上がってきた。

 100階層に行くまでの間、モンスターを全て魔力弾で倒してしまった。

 途中から手は使わずに魔力弾を作成から発射まで出来るようになったし、何発も同時に使用できるようになって、なんならマシンガンみたいに連射までできるようになった。

 今までやってきた体内での魔力操作、制御が活きているのか、体外での運用も凄いペースで可能になっていく。

 楽しすぎて100階層のドラゴン相手にもいろんなサイズの魔力弾を作成して連射して、ぐちゃぐちゃのボロ雑巾みたいな姿になったドラゴンが消えて行くのを目にしたあたりでやっとテンションが落ち着いて冷静になれた。



「俺が魔力を使って出来ることは身体強化と魔力弾か。なんか、異世界物で見る無属性魔法っぽい感じだな」



 そんなことを考えながら、こんなことはできるかな?できないかな?といろいろと試していく。



 ×××



「俺、魔法っぽいの使えるようになりました!!」



 ダンジョンから出て受付嬢のもとへ行き、帰還報告ついでに伝えてみた。



「山村さん...まだ強くなるんだ...」



「ん、なんですか?」



 自分の超感覚なら目の前でのぼそっとした独り言程度なら余裕で聞こえるが、若干引いてるのも感じ取れるため聞こえないふりをした。



「いえいえ、なんでもないです。それで、どんな魔法を使えるようになったのですか?あ、聞いても大丈夫なやつですか?」



「大丈夫ですよ!あのですね、こんな風に魔力で弾を作って、銃みたいに発射するっていう魔法を使えるようになりました!まあ他にも細々といろいろできるようになりましたけどね!」



 手のひらの上で魔力を固めて、弾丸を作り漂わせる。

 そのまま自分と受付嬢の周囲をゆっくり旋回させ、手のひらの上に戻し、握り込んで消す。



「ええぇ...なんですかそれ...またわけのわからないことを...」



 もはやドン引きというか絶句というか、すごい顔でこちらを見てくる。

 どうやら受付嬢の知る魔法とはこういったものではないようだ。



「あんまり、他の人には見られないようにした方が良いかもしれません。ランクアップの時みたいに、また山村さんの周囲が騒がしくなりかねないですよ」



「それは嫌ですね、了解です。こうやって見せびらかしたり、人前では極力使わないようにしときます」



 そう言って席を立ち、のんびりした足取りで帰路に着く。

 夏休みまでもう少し、楽しみ過ぎて自然と笑みを浮かべてしまう。



「早く潜りたいなぁ。100階層より下、一体どれだけ俺を楽しませてくれるのかな。わくわくが止まらないなぁ」




 今の山村の笑顔を他の人が見てしまったら、きっと腰を抜かしてしまうだろう。

 ダンジョンに憧れ、ダンジョンに狂った人間特有の笑みは、モンスターよりも恐ろしい。

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