第14話
その後も毎日朝から晩までダンジョン探索を行なった。
平日は夜には帰り週末はダンジョン内で一泊。
真っ直ぐ蟻の巣階層まで行き、クイーンアントが復活していれば例のパンチで超重量物質を作成し武器予定素材を集め、いなければ踵を返して帰還。
そんな風に過ごしていると夏休みも終わり、また学校が始まった。
「久しぶりだな山村、夏休み、ダンジョン三昧だったか?」
「そうだな、基本的にはほぼ毎日潜ってたぞ」
外で遊ぶくらいならダンジョンに行ってしまうので、神田に会うのは一学期の終業式ぶり。
「ダンジョン遠征したんだっけ?どんくらい潜ったのよ」
「期間は2週間ほど、深度は推定131階層だな。楽しかったぞ」
「いやいや、もうトップ層の探索者じゃねえか。専業探索者でもあんま100階層超えて潜る人いないぞ」
「そうなのか?そんなにモンスターは強くないと思うんだが」
「実力だけなら余裕でSランクだな。なんでBランクから上がってないんだよ...」
「Bランクになった時の騒動を言い訳にして拒否し続けてるからだな。俺はダンジョンに潜れれば良いだけなんだ、恩恵よりもしがらみのほうがめんどくさい」
「ほんと、お前らしい言い分だな。世間じゃみんな高ランクを目指して活動してるっていうのに」
苦笑する神田に、地位も名誉も、金だって大して興味ないからなと雑に返す。
2人でそんな話をしているとちょこちょこ話しかけてくる女生徒が混じってきた。
「私も夏休みダンジョン三昧だったよー!私の場合配信を見るだけだけど!!」
「ダンジョンに潜らない人間からしたらあれくらいがちょうど良いんだろうな」
「ほんと配信には興味なさげだよねぇ」
神田があきれたように言うが、事実全くと言って良いほど興味が湧かない。
一度見せられた時の配信者のレベルが低すぎたせいで食指が動かない。
「ねー!一回だけで良いから!配信じゃなくて動画で良いから!!一度山村の探索の様子撮ってみてよ!!」
「なんでだよ、第一カメラなんて持ってないし、俺になんの得があるんだよ」
「カメラなら貸すから!ヘッドバンドに取り付けられるやつだからいちいち手に持って撮るとかもないし!!得かはわからないけど、山村の見てる景色を見てみたいもん!!」
「あーもうわかったよ、だから静かにしてくれ。一回だけだからな」
耳元で叫ぶようにお願いされ、悪意が一切無いため切り捨てづらい。
根負けして一回だけならと了承してしまった。
×××
次の日、撮影機材を渡された山村はめんどくさい用事はさっさと済ませようと、説明された通りにカメラを頭にセットして探索を開始した。
これカメラで撮れてんのかなと思わなくも無いが、真っ直ぐにクイーンアントのところまで向かう。
のんびりしてると放課後だけでは間に合わない。
復活しているのを確認するといつものように全てを圧縮させるパンチを放ち、超重量物質を確保。
その後は速やかに撤退する。
およそ2時間半ほどでダンジョンの出入口まで戻ってきた山村は、カメラの録画を止めて撮影機材をしまう。
受付で帰還報告とドロップ品の査定をして帰った。
×××
「ほら、撮ってきたぞ。もうやらんからな」
次の日の朝、教室で挨拶をした流れで撮影機材を返却する。
「おおー、ありがとー!!これって動画サイトに上げて良い!?友達と話してて山村の話題になるとどんだけ強いのかって話になるし、共有したいんだよね!」
「あー、もう朝からうるさいぞ。なんでも良いから静かにしてくれ」
そう言って机に突っ伏した。
学校では基本低燃費で過ごすのでこのテンションについていけない。
「わー、楽しみだなぁ!どんだけ強いんだろ!」
「言い忘れたが、多分まともな戦闘風景とか映ってないぞ、目的のとこまで最短距離を突っ走ったし、モンスターも目当ての以外は通り過ぎるついでに倒してるからな」
「いいよいいよ!このカメラ結構高性能だから、スローにしたら多分大丈夫!」
「そうかい、ならもう席に戻ってくれ、お前の相手はダンジョンより疲れる...」
×××
こうして撮られた動画はしっかりと編集され、身バレ防止の為に名前もランクも記載されず、『とある探索者の日課』という題名で投稿された。
誤算だったのは、彼女の編集技術が思いの外高かったこと。
彼女はダンジョン配信はかなり見るが所詮は一般人ということ。
動画の編集中も山村すげーなどと驚いてはいたが、専業探索者やダンジョン配信者等、普段からダンジョンに潜る者達目線でなかった。
週末に投稿されたその動画は、投稿から半日ほど経ったあたりで探索者界隈で拡散され始め、週明けには視聴回数が1000万回を超えるほどバズってしまった。
投稿者である彼女にはこの探索者は誰だ?と問う物や直接的に会わせろといったメールが山のように届く。
彼女は山村の連絡先を知らない為、会って話してから対応しようと決め、早く月曜になってくれと今まで願ったことのない願いを胸に日曜日を過ごすことになった。
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