第6話
週末、朝からダンジョンにやってきた山村。
土日は帰らないと両親に伝え、受付でも明日まで戻らないと伝え、これでダンジョンを満喫できると上機嫌になりながらどんどん深くへ潜って行く。
昼頃には60階層を超え、夕方頃には90階層まで来ていた。
「とりあえず100階層くらいまでは行けるか?そこら辺まで潜ると敵も強くて楽しめるからな」
普段抑えてる力を存分に発揮し、モンスターを蹂躙しながら進む山村は、久々の100階層だとかなりはしゃいでいる。
「久々に会いに来たぞ。お互い遠慮無しでやり合おうか」
20時頃には100階層に到着し、階層主であるドラゴンに気安く話しかけるように言うと、目にも止まらぬ速さで接近し、ドラゴンの顔を思い切りぶん殴った。
殴られた衝撃で鱗が飛び散り、頭が数メートルほどずれるが、殴った体勢で空中にいる山村に向かって首をしならせ、頭をハンマーのようにしてぶつけ吹き飛ばす。
吹き飛ばされた山村はすぐに起き上がりドラゴンに飛び掛かる。
お互いが全力でぶつかり合う。
鱗が飛び散り、血飛沫が舞い散り、ダメージを蓄積させていく。
そんな山村にとって楽しい時間も15分もすれば終わってしまう。
力尽きたのか倒れ伏し、だが眼だけは死んでいないドラゴンが山村を睨み続ける。
「そう睨むなよ、楽しかったぞ。またやろうな」
山村はそう言いながらドラゴンの頭の前に立ち、全身を駆動させた全力の突きを放ちドラゴンを絶命させる。
ドラゴンが消えるのを見届けるとそのまま座り込み、体力の回復を行った。
階層主を倒した後、その部屋はそのままモンスターが湧かない安全地帯として使えるので、寝床や夕飯の準備をしながらドラゴンとの戦闘を思い出し、1人で反省会を行う。
ご飯を食べ横になりながら、考える事はダンジョンのことばかり。
深くまで潜るとしても、基本的に100階層までとしている。帰りの時間なども考えるとしょうがないのだが、山村からするともっともっと深くまで行きたいと思っている。
次の連休は両親を説得してどうにかできないかなと考えたり、さらに力を付けてドラゴンを余裕で倒せるようになってからの方が良いかなと考えたり、いろいろな事を考えながら山村は眠りにつく。
×××
次の日、目覚めた山村は片付けを済ませると地上へ向けて歩き出す。
道中のモンスターは行きでも倒したモンスターばかりで余裕を持って倒せる。
帰りながら思い出すのはドラゴンとの闘い。
何回も良いダメージを貰ってしまったし、まだ倒すまでに時間がかかる。
体内の魔力を意識し、攻撃を貰う瞬間にその部位に魔力を込めてダメージを軽減、殴る瞬間に拳に魔力を、蹴る瞬間に足に魔力を、そんな風に魔力操作を意識しながら進んで行く。
そんな風に特訓をして歩いていると横道に逸れた先に宝箱があると山村の感覚が察知した。
お宝か、ミミックか。
ミミックだったらこの前のリベンジでもしようとそちらへ足を向ける。
最近どうせ嘘ばかりと使ってない鑑定(嘘)を使うと〈宝箱〉と出た。
「ただの宝箱と出たって事はトラップ付きかミミックか、ミミックだったら嬉しいなぁ」
そんな事を呟きながら近付いて、宝箱に手を掛ける。
何が起きてもすぐに反応し動けるように注意しながら開けると、希望通りのミミックが俊敏な動きで噛み付いてきた。
さっと手を引き、噛み付きを空振りしたミミックに対して魔力を込めた拳で殴り掛かるが、ミミックは耐久力が半端ではないため、ほとんどダメージにならない。
全力で逃げれば逃げ切れるがこの間の二の舞はごめんだとミミックの攻撃を避けながら突破口を探す。
普段は全身を循環し、山村を強化している魔力。
山村はその魔力を意識して今までよりも拳に込めていく。
魔力密度が高まる事によってか拳周辺の空気が歪んでいき、そのまま魔力を込め続けていくと甲高い、金属を擦った様な音が鳴り始めた。
山村もここまで魔力を込めた事がなかったため多少慌てたが、すぐ落ち着いて魔力を操作し、制御していく。
ミミックも流石にこれはくらったらまずいと分かるのか微妙に引き腰になっているが、山村はそんなミミックにフェイントを入れ体勢を崩し、全力で魔力を込めた拳でミミックを殴った。
拳が当たった瞬間拳とミミックの触れ合っている場所を起点に、ブラックホールのような黒い何かが生まれた為に山村はすかさず後退し、様子を伺う。
ミミックは逃げられなかったのかその黒い何かに引き寄せられるように体がひしゃげ、圧縮され吸い込まれていく。
周辺の空気も吸われているのか、山村の後方からもそれに向かってとてつもない勢いで風が吹き、山村はその場で踏ん張り、収まるのを待った。
収まるまで十数秒のわずかな時間だったが、ドラゴンを相手にする数倍の緊張を味わった山村はその場に座り込むと息を整える。
ミミックがいた場所には指輪と水晶玉のような物が転がっていたのでそれを拾い、その場から立ち去っていく。
その後はいつも通り訓練をしながらダンジョンから脱出し、受付へと向かう。
ドロップ品の査定や鑑定を頼み、待合室で今回のダンジョン探索を振り返る。
まだまだ強くなれる余地がある事を実感し、山村は今後はしばらく魔力の操作と制御の特訓をしようと決め、心地良い疲労感に浸った。
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