第5話
「あー、行きたくねえ...」
昨日の今日でなんとなくめんどくさいだろうなと考えながらぼやく山村。
「絶対まわりは五月蝿くなるだろうし、自意識過剰とか思いそうだけど絶対絡んでくるやつは出てくるよな」
1人でぶつぶつと呟きながら学校へ向けて歩いて行く。
「山村君、おはよっ」
学校が近くなると生徒も増えてくる。
名前は覚えてないが同じクラスにいた気がする女子から挨拶をされた。
山村は基本的に学校ではテンション低めなので、軽く手を上げるだけに留めそのまま特に話したりもしないで歩き続ける。
あちらも有名になったクラスメイトに挨拶してみたくらいの感じだったのか、その後話しかけてくることもなかったので山村的には助かった。
教室に着くと既にいた生徒数人に挨拶され、適当に返事をしながら席に着いた。
普段挨拶してこねぇくせに、なんて思いがなくはないが、下手な絡み方はしてこないで適切な距離感を保ってくれる相手にはそれなりに常識的な対応を取る。
そうして朝ののんびりとした時間を過ごしていると昨日に引き続き羽賀がやってきた。
「山村よ、我々ダンジョン探索部に入って一緒にダンジョンに潜らないか?!」
昨日断ったのを忘れたのだろうか?
そんなことを思いながら昨日のように断るが羽賀は引き下がらない。
「何故だ!?我々と共に己を高めていこうとは思わないのか!?」
「目の前にいるんだからもう少し声小さくできないですか?あと先輩ってランクはいくつですか?」
めんどくささしか感じないが無視は良くないので山村は羽賀に質問してみた。
「俺のランクはDだ!他のメンバーは副リーダーもDランクで他のメンバーはEランクだ!!」
声のトーンは変えてくれないが質問には答えてくれた。
「俺がBランクなのは知ってるんですよね?チーム全体と俺のランクの差が大きすぎるし、俺にメリットないから嫌ですよ。普通に1人で潜ってた方が楽です」
ちなみに高校生でDランクになっていればそれなりに優秀だ。
山村が例外なだけでダンジョン探索部はそれなりにしっかりとした活動をしている。
羽賀としてもBランクという高ランクの人間がチームに入れば安全性も上がる、あとはそんな人間を従えている自分、という想像をした時にとても自尊心を刺激された為しつこく勧誘している。
「どうしたらダンジョン探索部に入ってくれるんだ?!我々は君を求めているというのに!!」
「いや、こっちの意見無視ですか?俺は1人で楽しんでるんですよ。せめて自分より強いんなら勉強にもなるし、一回くらい参加するのも良いですけど、Dランクじゃたかが知れてるじゃないですか」
昨日の今日でストレスが溜まっている山村は弱めの威圧感を羽賀に向けながら多少乱暴な口調で部への加入を断る。
「うぐっ...!そっちがそんな態度ならこっちにもかんがえがあるぞ!後悔してもしらないからな!!」
捨て台詞を吐いて帰って行く羽賀に首を傾げる山村。
×××
その日の放課後、山村はダンジョン内に居た。
「Bランクになってから面倒事しかないぞ、それなりに貯金もできてるし、暫くはのんびり過ごすかな...」
そんな風にぼやきながらモンスターハウスに侵入しては蹂躙していく。
ストレスが溜まっている山村はモンスター相手にストレスを発散してもやもやとした気持ちを落ち着かせる。
2時間ほどそうやってストレスを発散した山村は多少満足したのか帰路に着く。
ダンジョンを出て受付に行くと見知らぬ男性が受付嬢に対してなにやら怒鳴っている場面に遭遇した。
「山村とかいうガキを呼び出せ!こっちは暇じゃないんだぞ!!」
そう聞こえた山村はダンジョンでせっかく楽しんできたのに、と思いながらまたかとげんなりしながら近付いて行った。
「お疲れ様です。帰還しました」
いろいろと面倒くさくなってきていた山村はその男を無視して受付嬢に挨拶した。
「あ...おかえりなさい。あの、その」
「なんだね君は、今取り込み中なのがわからないのか?」
男は山村にも絡んでくるが無視して受付嬢にだけ言葉を返す。
「今日は魔石とか拾ってこなかったのでそのまま帰りますね。お疲れ様です」
そう言ってさっさと帰ろうとするが、男は山村だという事に気付いたのか、先程受付嬢に話していたように高圧的に話しかけてきた。
「お前が山村か?ちょっと話がある、こっちへ来い!」
山村の返事を待たずに派遣場の奥へと歩いて行く男。
無視して帰っても良いが、さっきの様子から受付嬢に文句を言うだけだろうし、また来られてもうざったいので大人しく着いて行くことにした。
奥にあった部屋では先程の男の他にもう1人男性がいた。
全員が座ると自己紹介もしないまま話し始める高圧的な男。
「で、お前が山村だな?うちの息子がせっかく勧誘してやったというのに断るとはどういうことだ?」
この時点でああ、羽賀の言っていたお偉いさんの親か、と察したが一応確認の意味も込めて誰なのかを聞いてみた。
「それよりまずは貴方達が誰なのか知らないので、教えてもらっても良いですか?見知らぬ人が相手じゃ話す気にもなれないですよ」
「私はここの責任者の木下だ。そしてこの方はダンジョン組合の副組合長である羽賀さんだ」
もう1人の男がそう答えた。
ずっとここのダンジョンに通っていたが受付嬢と警備員しか見てなかった山村は、ここの責任者はこんな人だったんだなというどうでもいいようなことを考えていた。
「それで、なんで息子の勧誘を断ったんだ?」
「息子さんから聞いてないですか?実力が違いすぎて一緒にダンジョン行く意味が無いからですよ。稼ぎたいなら1人で行く方が稼げるし、チームとして動く訓練にもならないですもん」
そう話すが羽賀の親は話が通じないのか高圧的な態度のままだ。
「私の息子に勧誘されるだけでも光栄なことだろう!お前は何も言わずに従えば良いだけだ!!」
そんな言い分に苛々してきた山村は羽賀の時のように少し威圧感を出しながら話す。
「いや、ならせめてもうちょっと強くなってから勧誘するように言ってくれません?あれと組んだところでこっちの負担が増えるだけじゃないですか」
山村の威圧感にたじろぐが態度は変えない羽賀の親。
「そんな態度ならこっちも考えがあるぞ!お前は降格だ!ランクを落としてやる!!」
「そもそも俺は望んでBランクになってないので、別に構わないですよ。組合が勝手に騒いでランクアップしたせいでこうして面倒事が起きてるんだし、Eくらいまで落としておいてください」
いろいろと面倒になった山村はそう言って席を立ち帰ろうとする。
「おい!話は終わってないぞ!何帰ろうとしてるんだ!!」
「あんたの息子の我儘に俺が従わないからランクを下げるんですよね?どうぞ勝手にやっておいてください。とりあえず何があっても羽賀と組む事はないですから」
静止を無視して部屋を出る山村。
受付嬢に帰りますとだけ挨拶して派遣場を出ると、スマホを取り出し時間を確認する。
「あー!!めんどくせえ!!!」
普段より遅くなった帰宅時間に溜まったストレス、全てを吐き出すように叫んだ山村は、ため息を吐きながら帰って行った。
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