第4話

「俺Bランクになっちゃった」



 週が明けて月曜日、神田と朝の挨拶を交わした後、さらっと報告した。



「はぁ!!?ちょ、なんで!?」



「声がでかいぞ、まわりに迷惑だろう」



「いやいや...!なにがどうなってBランクになったんだよ...!!」



 器用に小声で叫ぶ神田に経緯を話すと、尊敬と同情が半々といった何とも言えない表情を向けられた。



「まあでも、勧誘やら依頼やらは極力しないで貰えるように交渉もしたし、今までとそんなに変わらんだろう」



 山村のその言葉がフラグだったのか、教室の扉が勢いよく開かれ、おそらく3年生であろう体格の良い人物が入ってきた。



「このクラスに山村という者はいるだろうか?いるなら少々話があるのだが!」



 教壇に立ち、教室の全員に向けてそう言った彼に反応し、何人かが山村の方を向いてしまう。

 その視線を辿った彼は山村の席の前まで来ると、威圧的に確認した。



「お前が山村か?」



「そうですよ、そういうあなたは?」



「3年、ダンジョン探索部部長の羽賀だ。2年にBランクになったやつがいると聞いてな、確認と勧誘にきた。」



 羽賀の用事を聞いた山村はめんどくさそうな顔を隠しもせずに返事をする。



「勧誘はお断りです。人付き合い下手なんで、きっと和を見出しちゃいますし。あとどこで俺がBランクになったこと知ったんです?吹聴とかされてたら困るんですけど」



 勧誘は当然断るが、それよりもBランクバレが早すぎる事に驚く山村。



「なぜだ?俺自ら勧誘してるんだぞ?それを断るのか?」



 山村の質問は無視して勧誘を続ける。



「いや、だからどこで知ったんです?あと無理な勧誘で所属したってどうせ部には出ないし、信頼関係の無いチームとか怖くてダンジョンに潜れませんよね?」



「知ったのは親が組合の幹部だからだ!俺がリーダーをするんだぞ?信頼関係なんかより強力なリーダーシップでどうにでもなるに決まってるだろ!」



 山村のめんどくさそうな、全く関心を持ってなさそうな表情にイラついて語気が強くなる羽賀だが、山村からしたら普通に格下なので、なんとも思わない。



「いやー、すぐイラついて乱暴になっちゃうリーダーはちょっと無理っすね。そろそろ先生来ちゃうんで、帰ってどうぞ」



「...また来る」



 そう言って足音を立てながら教室を出ていく羽賀。

 クラスメイトは興味深そうに山村に視線をやり、Bランクだって、すごいよね、とこそこそ話している。



「もう絶対広まるな。どんまい」



 可哀想なものを見る目で神田に言われ、返事をする元気もないのか、何も言わずに机に突っ伏す山村。



 ×××



 その日は一日中誰かの視線を感じながら過ごす事になった。


 休憩時間になれば他のクラスの者まで教室にやってきてはあいつが?全然強そうに見えないよね、結構好みかも、等という言葉が聞こえてくる。


 放課後になり面倒事はごめんだと気配を隠し、さっさと学校を出てダンジョンに着くとようやく一息つけた。


 だがいつもは閑散としている派遣場が、なんだかいつもより人が多い。

 盛況というわけではないが、どう考えても普段の倍以上に人がいる。


 こっそりと受付嬢のところへ行き挨拶すると、申し訳なさそうな顔でごめんなさいと謝られた。


 訳を聞くと、どうしてかBランクになった高校生がいるという噂が広まっており、勧誘や興味本位で顔を見に来たという探索者が昼過ぎ頃から突然来始めたという。



「あー、学校でダンジョン探索部とかいうのに声掛けられて、声が大きかったせいでクラス中にバレちゃったんですよ。多分そこからSNSかなんかで広まったんすかね?」



 もはやいろいろ諦めている山村はだいぶ投げやりにおそらく正解であろう推測を受付嬢に伝えた。



「あとなんかそのダンジョン探索部の部長とかいう人は親が組合のお偉いさんらしくてその人から聞いたとか言ってたから、もうちょっと守秘義務を徹底するように改善した方が良いんじゃないですか?」



 受付嬢に当たっても意味はないとわかってはいるがつい強めに言ってしまう。



「本当に申し訳ございません。本人からそういう苦情があったというのはしっかりと上に伝えておきます...」



 山村の無意識の威圧で涙目な受付嬢。

 流石にそれを見てしまうと山村も冷静になる。



「いや、まあ、貴女は悪くないのはわかっているんですけどね、朝から大変だったんですよ。昨日の今日でこれですからね、勧誘はそちらでしっかり断っておいてくださいね」



「はい、もちろんです。強引な勧誘をして苦情が来た場合ペナルティもあると伝えて、山村さんにできるだけ直接行かないようにします」



「なんかもう今日は疲れちゃったし、ダンジョン探索も止めて帰りますね...早く落ち着いてほしいなぁ...」



 ぼやくように席を立ち、帰っていく山村。

 それを見送ると、受付嬢は山村からの苦情や要望の報告書を作成し、対応していく。

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