第2話
「いやー昨日もやばかった。もう少しで死んでたわ」
机に突っ伏しながらぼやくように話す山村に、前の席に座る神田が振り向きながら聞いてきた。
「昨日はどんな大冒険をしてきたんだ?
お前のトラブルを聞くのが最近の楽しみなんだ。さあ早く教えてくれ」
にやにやしながら聞いてくる神田にイラッとしながら、昨日の出来事を話していく。
「いや、なんでそれで無事なんだよ。毎回思うけどよくそれだけの目に遭って無事に生きてるな」
「そりゃあ鍛えてるからな。多少の問題は力で解決できる」
やっぱりこいつ脳筋だなと呆れた目を向ける神田。
「そんだけ強かったらさ、探索者ランクとかももっと上げられんじゃねえの?」
「ランクかぁ、確かにAランクですとかドヤ顔するのは楽しそうだけどな、ランクが上がるとその分指名依頼やら勧誘やらも増えるからな、学生のうちはあんまりあげる気がないんよ」
「そんなもんなのか。まあ確かに指名依頼とかされても大変だもんな。勧誘は有名どころにされるなら良さそうだけど」
めんどいのは嫌なんだよー、と適当に返事をしたところで担任が教室に入ってきたため会話は終わった。
ダンジョンではテンション高めな山村だが、学校では大人しく過ごす目立たない生徒なのだ。
ほんとに目立っていないか?と聞かれたらなんとも言えない感じではある。
近くの席に座る女子などは、聞き耳を立てて山村のダンジョン話を楽しく聞いてたりするし、一部の人間からは実はすげーやつだと思われていた。
×××
そんなこんなで放課後、山村は日課のダンジョン探索に来ていた。
週末と違って2、3時間しか探索できないが、彼は基本的にダンジョンが好きなので、たとえ短時間しか滞在できなくてもダンジョンに来るようにしている。
「さて、今日はどうしようかな。縛りプレイも特訓になって楽しいが、たまには全力を出してみるのも悪くないか」
山村はかなりアレな性格をしているせいか、命の危険があるはずのダンジョンでも特訓と称して謎の行動をとっていたりする。
よく行うのは戦闘時の両腕の使用禁止で、その時は蹴り技のみでモンスターと戦闘を行う。
そんなことをダンジョン探索をする度に行っているのは山村だけの秘密だ。
両親にバレたらもちろんがっつり怒られるだろうし、受付嬢や警備員の神田さんも何してるんだと怒るに違いない。
だからダンジョン内での特訓は秘密にしている。
後は秘密の特訓という響きがかっこよくて気に入っているというアホみたいな理由もある。
「よーし、今日は全力での1時間タイムアタックだ!
普段は放課後だけだと五層くらいまでで終わっちゃうからな、どこまで行けるか楽しみだ!」
そう言い、軽いストレッチをしてから走り出す山村。
ギアを上げるように徐々に加速していき、二層に着く頃にはトップスピードで爆走していた。
トップスピードになると浅い層のモンスターではまともな反応すらできなくなる。
基本的には弱すぎて特訓にもならないとスルーされるので問題ないが、位置取りが悪いモンスターは運の悪いことに巻き込まれ事故のような形で殺される。
風と形容しても良いほどの走りを見せる山村は15分後には10層に到着していた。
ちなみにまともに探索していたらこの時点で2時間は経っているはずである。
そして10層には初心者の壁と言われる階層主がいる。
階層主のいる部屋の扉を開けると同時に飛び掛かり、飛び膝蹴りの一発で階層主のホブゴブリンを瞬殺する。
初心者の壁と言われるだけで、山村にとってはゴブリンと大差ないのでこうなるのは仕方がないのだが、非常に可哀想である。
その後も驚異的なスピードで進み、20層、30層で待ち構える階層主を瞬殺し、36層に入ったところで1時間が経過したため進行をストップした。
「ふー、結構行ったか?途中道を間違えなかったら40層には行けた気がしたが、まあしょうがないか。よーし、帰るか!」
最近は全力を出すことも少なくなってきていた。
そのため今日の探索も道を間違えてしまったのは不満だが、全体としては満足できた。
×××
「お帰りなさい、山村さん。今日の探索はどうでしたか?」
ダンジョンから帰ってきた山村を確認した受付嬢は、ぱっと見て怪我はしてないようだと安心しながら聞いてくる。
「久々に全力を出したから結構疲れましたよー」
「え!?全力?!なにがあったんですか?!!」
「ああ、危ないことはなかったですよ!ただちょっとタイムアタックをしてみたくなって、1時間でどこまで行けるか試してみたんです!」
「何してるんですか!?十分危ないじゃ無いですか!!...ちなみに...何層まで行ったのですか...?」
「えっと、36層に入ったあたりで1時間経っちゃいましたね、道を間違えなければ40層には行けたと思うんですよ」
山村は未練がましく道を間違えたことを言うが、受付嬢にはそんな言い訳じみた言葉は耳に入らず、1時間で36層という凄まじい戦果に驚愕していた。
「あ、これが今日のドロップ品です。査定お願いします」
受付嬢の驚いたような顔をスルーして、帰りがけに倒したモンスターから拾った魔石や素材を提出する。
「は、はい、少々お待ちください。査定が終わりましたらお呼びします」
受付嬢にそう言われ、山村は待合室でのんびりと査定が終わるのを待った。
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