脳筋のアホが探索者になったら

ばつ

第1話

「ふ ざ け ん なぁあああ!!!!!」


 そう叫んでいるのは現在ダンジョン内を全力疾走中の探索者、山村 健太。

 17歳の現役男子高校生である。


 彼がこうして叫び全力疾走するのはそう珍しいことではない。

 理由としては彼が所持するスキルに原因がある。そのスキルとは『鑑定(嘘)』だ。


 鑑定ではない、鑑定(嘘)だ。


 これを確認した時は本人も二度見したし、探索者組合の人間も二度見し、なんなら三度見くらいしていた。

 鑑定というスキルは多くはないがそれなりの人数が持っている。

 だが鑑定(嘘)というのは今まで確認されたことがなかった。


 鑑定スキルで『鑑定(嘘)』を調べても普通の鑑定スキルと同じ文言しか書かれていなかった。

 その為鑑定をしてくれた組合員も首を傾げ、念の為スキルを過信しないで頑張ってねとふわっとしたアドバイスをした。


 彼はそんな一幕は横に置いて、ある意味ユニークスキルゲットだぜ!と、とてもポジティブな思考回路をしているので無邪気に喜んだ。



 ×××



「あー!!もうマジでふざんけな!!!完全に殺しにきてるじゃねえか!」



 なんとかかんとか危機から脱し、ダンジョンから出ることに成功した山村は、不満を吐きながら休憩していた。



「今日はどんな嘘を教えられたんだい?」



 そう聞くのはこのダンジョン前に建てられた組合派遣所の60代半ばの警備員、吉田さんだ。



「今日は運良く宝箱を見つけたんですよ!当然開けるじゃないですか!?

 念の為まったく信用できない鑑定をしたらですね!〈トラップ付き宝箱〉って出たんですよ!

 だからどうせ嘘なんだし罠は無いなって判断して宝箱開けるじゃないですか!

 まあ念の為警戒はしましたよ?!

 それで開けたらミミックだったんですよ!!

 驚いて反射的に殴ったら、無茶苦茶怒った感じで追いかけてきたんすよ!!」



 捲し立てるようにそう話すと、彼は脱力し椅子に体を預けた。



「ミミックとは...よく無事だったねぇ、普通だったらガブリと行かれて無事では済まないよ」



「いやー、運動神経は良いんで、全力で走れば案外逃げ切れるもんですね」



 山村はそう言うが、普通の探索者がミミックに遭遇すれば逃げきれずに脚か腕の一本は持っていかれるし、場合によっては頭をいかれて死ぬ事になる。


 そんな風に話していると清算が済んだのか受付に呼ばれる。



「本日もよくご無事でしたね」



 警備員との会話が聞こえていたのか、すっかり顔馴染みとなった20代前半ほどの受付嬢に、呆れたような目で見られながら言われた。



「いやいやいや、死ぬところでしたよ!もう本当にこのスキルは俺を殺しにきてるとしか思えん!」



「いつもそう言いながら無傷で帰ってくるじゃないですか。はい、それではこちらの方にサインをお願いしますね。それといつも通りに振り込みでよろしいでしょうか?」



「振り込みでよろしいですよー。今日もありがとうございます。お疲れ様です。」



 ×××



「彼、ほんとになんで無事なんでしょうね?」



 山村がいなくなった派遣所では受付嬢と警備員がのんびりと会話していた。



「いやぁ、あれは単純に、騙されたところでどうにでもなるほど彼が強いからだよ。私だって引退はしたけど探索者だったからね、彼は高校生だっていうのに、私の全盛期より強いよ?」



 吉田は今では警備員だが、引退前はBランクのベテラン探索者であった。

 そんな吉田が自分より強いと言うほどの強さ。



「えぇ、それは言い過ぎじゃないですか?吉田さんより強いって、彼はまだEランクですよ?」



「それは彼があまりランクにこだわらないで、こんな人気のないダンジョンで小遣い稼ぎ程度にしか潜ってないからだよ。多分本気でランクを上げようとした、一ヶ月くらいでAランクになっちゃうよ」



「ええ、そんなにですか...」



「私だって、ミミックに襲われたら間違いなく大怪我だよ?それをびっくりして殴って、走って逃げ切るなんて普通無理さ」



「山村さん、すごいんですね...」



 受付嬢は少々引いた様子で返事を返し、その日の事務作業を再開させた。


 吉田も同様に、人がほとんど来ない閑散とした派遣所で閉店時間までのんびりと待機していた。

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